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第8話~不完全な聖女マリー~

ご興味を持っていただきありがとうございます。

この話も楽しんでいただけたら幸いです。

よろしくお願いいたします。

「男爵さま、マリーをよろしくお願いいたします」

「はい。剣に誓って、立派に育ててみせます」


 父が中年男性からマリーを受け取る。

 マリーは父に抱きかかえられたまま、不安そうに中年男性を見つめていた。


「それでは失礼いたします」


 中年男性は父に頭を下げると馬車に乗り込んで去っていった。

 俺は遠ざかっていく馬車を見つめながら考える。


 あの男性、どこかで見たことがある気がするけど……やっぱりわからない


「ロジャー、マリーに挨拶するのよ?」


 俺が考え込んでいると母が声をかけてきた。

 父によって地面に降ろされたマリーは不安そうに俺を見つめている。


「初めまして、僕はロジャーだよ」

「あ……えと……ま、マリー・アルウェッグです」


 俺が自己紹介をすると、マリーも戸惑いながら挨拶を返してきた。


「マリー? あなたは今日からデイヴィスと名乗るのよ?」

「あっ……すいません」


 母がマリーの頭を撫でながらそう言った。

 マリーは母に撫でられながら謝る。


 アルウェッグ!? あのアルウェッグか!?

 この子が不完全な聖女マリー・アルウェッグ!?


 俺は内心驚愕しながらマリーを見つめる。


「ロジャー、どうしたんだ?」

「い、いえ……なんでもありません。僕はこれで失礼します」


 俺は父にそう答えてから踵を返す。

 父の影から様子を伺っていたキャロルが残念そうにため息を吐いた。


「ロジャー、マリーと仲良くしてあげてね」


 母の声が背後から聞こえる。

 俺はそれに答えないまま部屋に戻った。


 マリー・アルウェッグ……回復魔法が使えないのに聖痕のある女性。


 聖痕があるだけで聖女と呼ばれ、人々が癒しを求める存在となる。

 しかし、マリーは回復魔法が使えない。

 そのため、不完全な聖女と呼ばれる彼女のことを国中の人が知っていた。

 モンスターを討伐する騎士団に同行していたにもかかわらず、なにもできなかった聖女。


 彼女はある日突然姿を消した……捜索には俺も駆り出されたんだ……。


 聖女の失踪という前代未聞の事件だったからよく覚えている。

 ただ、マリーを発見することができずに捜査は終了した。


「なんで彼女がここに……」


 俺はベッドに倒れ込んで呟く。

 マリーがこの家に来るのは元々決まっていたのか。

 そうではなく、俺が魔力の無いフリをしているから来たのか。


 けど、マリーの両親が亡くなったことに俺は全く関与していないからな…………ん? そういえば…………


 何か引っかかりを覚えたため、ベッドに座り直す。

 聖女失踪についてまとめた資料の中に妙な切り取りがあった。

 誰かが意図的に情報を隠したような痕跡で印象に残っている。


 あれはなんだったっけ……。


 俺はその資料の内容を必死に思い出す。


「……あ」


 思い出した瞬間、俺は思わず声を漏らした。


「ロジャー、入るわよ」


 そんな時、母の声が部屋の外から聞こえた。

 俺が返事をする前に母が部屋に入ってくる。


「ロジャー……あなた、私との約束覚えているの?」

「ごめんなさい。緊張してて……つい」


 俺は頭を下げて母に謝る。

 母はそんな俺を見てため息をついた。


「急に妹と言われて戸惑う気持ちもわかるわ。でもね、できるだけ仲良くしてあげてほしいの」

「…………何か特別な理由でもあるの?」

「えっ?」


 急な俺の質問に母は驚いたような声を出す。

 今まで言うことを素直に聞いてきた俺が反抗的な態度を取ったんだ。

 驚くのも無理はない。


「か……家族と仲良くするのに理由なんて必要ないでしょう?」


 言葉に詰まりながらも母はそう答えた。

 確かにその通りだ。


 けれど、両親は俺に嘘をついている。


 両親はマリーが親戚が亡くなったから引き取ったと俺に言っていた。

 しかし、マリーは平民出身だ。

 どちらかの親戚なら貴族とでなければおかしい。


「母さん、何か隠していない?」

「な……なにも隠していないわ」


 母の言葉には動揺が見て取れる。

 そんな母に構わず、俺は話を続けた。


「じゃあ、マリーのご両親のお墓参りをしたいから場所を教えて」

「…………」


 俺の質問に母は黙ってしまった。

 お墓参りは無理だ。

 マリーは教会に預けられた孤児。

 両親のことなんて誰もわかりはしない。


 俺がさんざん調べてもわからなかったんだ。


 今の母に答えられるはずがなかった。


「母さん、何か言ってよ」

「……ごめんなさい」


 母はそれだけ言うと部屋から出て行ってしまった。

 俺は母の背中を見送りながらため息を吐く。

 聖痕があるマリーと仲良くしておきなさい……なんて言えないよな。


「ふう……」


 俺は椅子に座り、目を閉じて捜査資料の内容を振り返る。

 マリーの体にはすでに聖痕が刻まれているはずだ。


 4歳で聖痕が発現したらしいからな。


 おそらく、この領にある教会から聖痕発現報告を受けた父がマリーを引き取ることにしたのだろう。


「ただ……父がマリーを引き取ったなんて資料はなかった……」


 俺は意図的に抜き取られた資料が気になって仕方なかった。


 誰が何のためにしたのかが不明だな……


 高確率で抜き取られた資料はマリーがこの家にいた事実を隠している。


「今は考えても仕方ないか……」


 俺はそう呟いてから椅子から立ち上がった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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