第5話~森の中のシャーロット~
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「私が限界まで魔力を放出したのに、きみは痛がっただけ……怪しいと言わざるを得ませんでした」
シャーロットさんは俺を探るような目で見つめてきた。
そんな彼女の目を真っすぐに見返しながら口を開く。
「目立ちたくなかったんです。僕の魔力はあまりにも多いから」
「魔力が多い?」
「はい」
「5歳の子供が何を言っているんです?」
俺が頷くと、シャーロットさんは信じられないという表情を浮かべた。
魔法の発動まで見られたので、誤魔化すことは無理だ。
師匠の協力を得られればそれに越したことはない。
そんなことを思いながら彼女に俺は笑いかけた。
「事実です。こんな風に」
俺は魔核を介して魔力を放出することにした。
あえて魔力に闇魔法の属性を付与し、黒いもやを噴出させる。
「なっ!?」
シャーロットさんが驚愕に目を見開く。
「どうですか? これでもまだ多くないと言えますか?」
「……確かに、その魔力量は異常です」
シャーロットさんは俺の魔力を見て納得したように頷いた。
「でも……本当に目立ちたくないというだけですか?」
シャーロットさんは俺を探るような目で見てくる。
その目は未知の生物を警戒するような目だった。
多分、【真偽判定】の魔法を使っているかもしれない。
王宮魔法団に所属しているシャーロットさんは上級魔法である【真偽判定】を使える。
発言が嘘か本当か判定をする非常に便利な魔法だ。
ただ、魔力の消耗が激しいため、重要な場面以外では使わない。
ここで嘘をついて信用されない方が後々面倒になるな。
俺はそう考えてシャーロットさんに本心を語る。
「僕は……貴族としての責務を全うしたくないんです」
「ハハッ……そんなことをはっきりという子供は初めて見ましたよ」
シャーロットさんは呆れたように笑う。
俺が本当のことを言っているのを確信しているようだった。
「あなたの願いは難しいと思いますよ。男爵家とはいえ、君は貴族です」
シャーロットさんが探るような目を向けてくる。
彼女の言っていることは正しい。
貴族として生まれた以上、国のために尽くす義務がある。
しかし、それは普通の貴族の場合だ。
俺は自分や妹が【普通ではない】ことを知っている。
人智を超越した才能の前では普通が普通ではなくなることもある。
だから、俺は普通であることを求めた。
「妹が王宮魔法団長以上の魔力を保有している……としたら、どうですか?」
「なにを言っているのですか?」
「可能性の話です。俺以上に妹は魔力を保有しているかもしれませんよ?」
「そんな夢物語を私が信じるとでも?」
そんなのはあり得ないという目で俺を見つめてくる。
「夢物語……そうかもしれませんね」
けれど、俺は知っている。
キャロルも俺と同等の魔力を保有していることを。
それにより、俺は王宮魔法団の団長となり、キャロルが副団長となった。
国ではなく王やその親類に利益をもたらすだけの存在になってしまったのだ。
その結果、妹に殺されるなんて結末はもうごめんだ。
自分の未来を変えるために俺はここにいる。
俺はシャーロットさんに向かって笑いかけた。
「可能性は0じゃない。昼間にシャーロットさんが僕に言ってくれた言葉です」
「確かに言いましたが……」
シャーロットさんは顎に手を当てて考え込む。
俺は彼女を見つめながら言葉を待つ。
「わかりました。あなたの夢を【一旦】は信じます。ですが……」
シャーロットさんはそこで言葉を切ると俺の目を見つめてきた。
彼女の黒縁メガネが月明りを反射してキラリと光る。
「あなたの妹の魔力判定も私が行うことにします」
「もちろんです」
「もし魔力が普通だった場合は……わかっていますね?」
シャーロットさんは俺に向かって微笑んだ。
その笑顔は怖いくらい綺麗だ。
「はい。妹の魔力が普通だった場合、僕の魔力判定を【訂正】していただいて構いません」
「なるほど、そこまで知っているんですね」
俺の返事にシャーロットさんは一瞬だけ眉を寄せた。
今回の魔力判定の結果は王様に報告書が送られる。
将来有望な子供を魔導士として教育するという目的のためだ。
そして、判定【H】──魔力量が常人の数倍あると判定された者は直ちに招集させられる。
本人や家族の意思とは関係なくだ。
俺は自由に生活したい。あんな人生は一度きりでいい。
シャーロットさんもそれがわかっているから、俺の行動に理解を示してくれている。
「それでは、私はこれで失礼します」
シャーロットさんはそう言って踵を返す。
俺はその背中に向かって声をかけた。
「ありがとうございます、シャーロットさん」
俺の言葉に反応したのか、シャーロットさんの足がピタリと止まった。
彼女は振り返らずに口を開く。
「お礼はいりませんので……それではまたお会いしましょう。あなたもあまり遅くならないように」
シャーロットさんはそのまま森の中に消えていった。
「また……か」
俺は彼女の言葉を繰り返す。
次に会うのは短くてもあいつが魔力判定をするときだろうな。
俺はそう思いながら家に向かって歩き出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ロジャー、お前の家庭教師をしてくれることになったシャーロットさんだ。挨拶をしなさい」
「……………………え?」
次の日、父に呼ばれてリビングに行くとシャーロットさんがそこにいた。
シャーロットさんが父の隣に座っており、俺に向かって微笑んでいる。
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