(14)勇者令嬢は亜人の花婿を手に入れる
「おじさんに無茶言わないでくれよぉ……」
俺の情けない声が控え室に響く。
「だめ! すぐに脱いで!」
お嬢に服を剥がされそうになり、俺は「ひぇぇっ」と悲鳴を上げた。
この光景、お嬢が乱暴をはたらいているように見えるかもしれない。だが実際は、いつまでも俺が執事の恰好をしているがために、お嬢が乱暴をはたらいているというわけだ。あれ? 結局乱暴?
「だってさぁ、執事の服が馴染んでんだよ? お貴族様のいい服なんて、俺には似合わないしさ。お嬢だってそう思――」
「違う……っ! “お嬢”じゃないわよ……っ!」
言い訳をしていた俺の言葉を遮り、お嬢がぎゅっと俺の腕にしがみつく。潤んだ上目遣い付きで。
(くそっ。この顔反則だっての!)
そして俺は年甲斐もなくバクバクうるさい心臓を鎮めることもできず、顔を真っ赤にしておずおずと口を開く。
「ベベベベベリー……ムーン……」
「うーん、50点! メイド長に言いつけるわ!」
「採点がカラい!」
おじさんを辱めておいて、その採点基準は厳しすぎる。っていうか、メイド長にチクるのは勘弁してください。怖いから。
それから俺は観念して新郎のタキシードに着替えると、改めてウエディングドレス姿のお嬢の前に立った。
俺の花嫁は、今日も凛として美しい。
初めて会ったその日から、俺の命も心もこの子のものだ。
「やばい。女神すぎて、俺泣きそう」
「ジェドは泣き虫ね。大丈夫。いつだって私が涙を拭いてあげるもの!」
「そりゃ心強い」
お嬢をひょいとお姫様抱っこして、彼女の綺麗な碧眼を覗く。そこには相変わらず冴えない亜人のおじかさんが映っていたが、そいつは人生120年の中で一番幸せそうなツラをしていた。
「君を好きになってよかったよ。ベリームーン」
「ふふっ。100点!」
その後俺がご褒美キスをもらったとか、復活した魔王討伐の旅に夫婦で出たとかなんとかは、また別の機会にどうぞ。
(おしまい)
お読みいただきありがとうございました!