(13)勇者令嬢と××執事
クライマックスです!
「はは……、ははは……」
俺は力ない笑いと共に、その場にドスンと座り込んでしまった。
(ちょっとも引き止めてくれないのかよ……)
俺は、心のどこかで自分だけが特別なんじゃないかと期待していたらしい。誰か、この身の程知らずの大馬鹿野郎を殺してくれと思いながら、俺はポケットに突っ込んでいた指輪を引っ張り出した。
(これ、渡したらお別れだ……)
「お嬢。プレゼントだよ」
不思議そうな顔で俺を見下ろしているお嬢に向かって手のひらを差し出す。そこにあるのは、お嬢と花婿のために作った二つの指輪だ。
「うそ……。ジェド……」
お嬢は驚いた顔で指輪を手に取り――。
サッ。スッ。じゃじゃーん!
「素敵‼ 超似合うじゃない‼」
わずか三秒の出来事。お嬢は俺の左手を持ち上げると、すごい勢いで花婿用の指輪を薬指にはめたのだ。
「なんで俺?」
「え? だってこっちはジェドのでしょ?」
「花婿のだよ」
「分かってるわよ」
きょとんとしているお嬢の綺麗な碧眼に、俺の間抜け面が映っている。なんだかおかしい。会話もテンションも噛み合わない。
「……ん~と?」
「えぇっ⁉ もしかしてさっきの執事辞めるってヤツ、プロポーズじゃないの⁉」
お嬢は「うそでしょ」と頭を抱えて悲鳴を上げた。
「てっきり私の花婿にジョブチェンジする的な感じかと……。いやぁぁぁ! もう恥ずかしくて死にそう!」
「えっ、待って待って。どゆこと?」
「だから――!」
お嬢は俺の目を真正面から見つめ、大声で叫んだ。
「私はジェドを花婿にしたいって、ずーーーっと思ってたの!」
「俺を花婿に……?」
「そうよ! 花婿募集を亜人に限定にしたのは、あなたに立候補してほしかったから。教会に来たのは、式の妄想に繋げて結婚欲をアップさせようと思ったからだし、遡れば異種族婚を認める法律を作ったのだって、あなたと堂々と結ばれたかったから! 一生懸命外堀を埋めまくってた私の気持ち、ちょっとは伝わってると思ってたのに……」
涙目でぷるぷると震えているお嬢を見て、俺は「えぇぇぇ⁉」と仰天の声を上げる。
「俺なんかのためにそこまでする⁉ 周囲の巻き込み方が半端じゃないよ⁉ ひとこと言ってくれたら俺だって……」
「だって私から告白したら、夫になれっていう命令みたいになるじゃない……! っていうか、告白されたい願望持ってちゃ悪い?」
耳まで真っ赤になっているお嬢は、「でもまだその願望は捨ててないんだからっ!」と左手をぐいと突き出して来た。
「ったく……。俺の気持ちは聞かねぇのかよ……」
「聞かなくても、その顔を見たら分かるもの」
俺の目からは涙がぼろぼろ流れ出ていて、「だよなぁ」とくぐもった声でしか返事をすることができなかった。
「巨人族とドワーフの混血だぞ……? 手先が器用で体が頑丈ってだけで、ろくに戦えねぇし、半分巨人だからって未だに賞金かけられてるし、王族でも大魔術師でもねぇし、金もねぇし、おっさんだし……。お嬢……、ほんっとにいいのか……?」
「私は、あなた以上に私を大切にしてくれるヒトを知らない。私はジェドを愛してる」
「つくづく男前だよなぁ……」
俺はぐすんと鼻をすすると、お嬢の綺麗な手を俺のごつごつとした手でそっと取る。
俺は自分の手が嫌いだった。でも、お嬢を幸せにすることができるなら悪くない。
「俺もお嬢を愛してる。必ず幸せにするよ」
お嬢の左の薬指がきらりと輝き、俺たち二人はなんだか照れ臭くなって大笑いした。ロマンティックもクソもないが、つよつよ勇者令嬢と亜人のおじさん執事にはこれくらいがちょうどいいに違いなかった。
次はエピローグ的な最終話です。最後までお付き合いいただけますと幸いです。