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(12)勇者令嬢、快諾する

「おじさん! タイムタイム!」

「へ……っ⁉」


 自害寸前だった俺の目の前に現れたのは、桃色髪に碧眼の少女――ベリームーンお嬢だった。

 お嬢は俺の手からひょいと短剣を取り上げると、「果物ナイフによさそう」と言い、血を拭って流れるような動作で懐に入れてしまった。


「え……。短剣泥棒……?」

「失礼ね。捕虜の物は私の物、私の捕虜は私のモノよ」


 彼女が敵軍の大将であると気が付いた俺は、噂の勇者が予想以上に幼くて驚いた。だがそれ以上に、彼女が俺に真っ白くて綺麗なハンカチを差し出したことに驚かされた。


「手、拭いたら?」

「えっ、でもこんなキレーな……。ダメだ。汚れちまう……」

「あなた、雑巾が汚れるのが嫌で掃除を躊躇う系のヒト?」


 だってソレ雑巾じゃないしと俺は言いかけたが、お嬢は問答無用で自ら俺の手をハンカチでゴシゴシと拭った。そして戸惑う俺をよそに、お嬢は俺の手を握って言った。


「あら。いい手じゃない? これは兵士の手じゃないわ。たくさんの幸せを作る手よ」


 今思えば、お嬢は適当なことを勢いで口にしていたのかもしれない。だが、勝気な瞳でにこりと微笑むお嬢は、俺に生きる希望を与えるくらいには眩しくて美しかった。

 そして俺は――。


「嬢ちゃん。俺をそばに置いてくれ!」


 彼女の手を強く握り返しながら、俺は深く頭を下げた。

 普通の指揮官なら、危険分子である捕虜を傍に置くことなんてない。そんなこと分かっていても、彼女にありったけの恩返しをしたいという衝動が抑えられなかったのだ。


「えと……、俺、細工師なんだ! 剣細工とか装飾品とか作れるし、手先の器用さにも自信があって――」

「いいわよ。歓迎する」


 その日、兵士のジェラルドは死んだ。

 お嬢は俺を救った英雄で、誰よりも大切な主になった。

 俺はお嬢のために、この手でたくさんの幸せを作ろうと思った。

 まぁ、まさか執事に任命されて、お茶を淹れることになるとは想像しなかったが――。


 ◆◆◆

「“執事のジェド”辞めていい?」


 どうしても耐えられなくなってしまった俺は、衝動的にそれを口にした。


 一生尽くしたいと願った相手に。

 大好きなお嬢に。

 大好きで、大好きでたまらないからこそ。


(俺はお嬢の花婿に嫉妬してんだ。くそ……。ちっせぇなぁ、俺……)


 年甲斐もなく、じわりと目に涙が滲む。

 いい歳したおっさんが、今さら独占心剥き出しにしてんじゃねぇよと、情けなさで死にたくなってしまう。


 そして、そんな俺にお嬢は言った。


「いいわよ。歓迎する」


いよいよクライマックス!

あと2話で完結です。

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