暴走
その男はまるでこうなることを予見していたかのように僕の目の前にゆっくりと歩いてきた
「お前だったかニック」
「その口ぶりからすると予想がついていたのかな?」
「ああ。最初に陣形を決めて僕を孤立させたのも、少しでも自分じゃないという可能性を残しつつ、この大技に巻き込まれないためか」
「君は頭も回るんだね。その通りだよ。だけどそうなると疑問だね僕の思惑を知っていながらあえて大技を打ったということだよね。その点が腑に落ちないな」
「それは気になったからだたしかに大技なんて使わなくても全員を倒せただろう。けど内通者がどの程度の実力かを確認したかったんだ」
「なるほどね」
「こっちからも質問させてもらうが、なんでお前は裏切ったんだ。そんなことをしなくても僕らのチームは簡単に勝てたはずだ」
「それは残念だけど教えられないね」
「質問を変えよう。僕をどうしたいんだ」
大技を使わせたところを見るに僕にだけ用があるのだろう。
「君にはこの学園から去ってもらう。そのために今ここで君には再起不能になってもらうよ。潔くついてきてくれるのが一番いいんだけどね」
「どこにだ?」
「あのお方のもとにだよ」
「なるほど。断っておこう」
「そうだよね。じゃあ行くよ」
その瞬間ニックは今までに見たことのないような踏み込みを見せた。かなり強くなっているな。あのお方ってやつに力をもらったか。もしくは力を隠していたか。
「今まで手を抜いていたのか?」
「力を授かったのさ。この莫大な魔力を。今なら誰にも負ける気がしない。たとえ君でもね」
その瞬間莫大な量の火力が彼の手に集まる。僕は問題ないが見ている人たちにまで被害が行きかねないな。
「トワライトエクリプス」
仕方ないな。そっちがそれほどの魔法を使うならこっちも使うしかないか。
「ヴォイド」
次の瞬間ニックの打った魔法が一気に消えた。
「何が起こったんだ?僕は確実に打って君に直撃したはず。あの魔法を受け止められるわけがない。あの魔法は禁忌とされる領域なのに」
「ああ。たしかにあれは禁忌魔法とされる物だな。だから僕もそれなりの魔法を使ったまでだ。向こうにいるみんなに当たったら大方消し飛んでいただろうからな」
僕が使った魔法は昔ある人から教えてもらった物だ。世界でも数人しか使えないと言われている。ニックが知らないのも無理はない。そして次は僕から踏み込んだ。先ほどのニックとは比較にならないほどの速度で。
「かはっ」
僕はニックの上に馬乗りになって聞いた。
「何が目的だ。素直に話さないならこのまま気絶させて先生たちに引き渡す」
「できるのならやってみなよ」
そういった瞬間にニックの体から黒い煙が出てきた。僕は一旦離れた。煙が晴れた時、ニックの体が一回り大きくなっていた。
「お前戻れなくなるぞ」
あのお方ってやつは相当な手練らしい。これまでニックが使った二つの魔法は両方とも禁忌とされている魔法だ。そして今使った魔法は寿命を削り一時的に身体能力と魔力量を底上げする魔法だ。
「行くよ」
「くっ」
流石に早いな。対応できないわけではないが少々手間がかかる。その間にニックの体が限界を迎えてしまう可能性がある。どうするか。こうして攻撃を受け流している間にもニックの体はどんどんボロボロになっている。
「ヒール」
「何をしているんだい」
「お前の体が壊れないように回復してやったんだ」
「バカにしてるのかい?」
まあ少なくとも負けることはないだろう。ただどうするか。
「仕方がないな」
そして僕は一度距離をとった。
「メテオノイズ」
僕は地面に向けて土魔法を打ち視界を遮った。そしてそれとほぼ同時にニックの懐に潜りんだ。
「アブソリュートカタルシス」
眩い光にニックは包まれて、元の姿に戻った。気絶している。かなり体力を使ったのだろう。そして先生たちが向かってきた。そしてその後ニックは取り押さえられて僕も少し事情聴取をされた。ニックをそそのかしたのは十中八九あの入学時に接触してきた男だろう。だがあいつにはあんな禁忌魔法が使える実力があるとは思えない。となるとまだ上がいるということか。ただ明日から少しめんどくさくなりそうだ。あれだけの大規模魔法を使いなおかつ暴走したニックを止めたのだみんなからかなり注目されることになってしまうだろう。修行の邪魔にならないといいが。
そして翌日学校に着いた瞬間に僕は取り押さえられた。
「フォンテ・ストレンド、闇属性の禁忌魔法を使用した疑いで拘束する」
「おいおいまじか」