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6 兄との昼食

 最近、ギルベルトの周りでいつも同じ女子生徒を見かけるようになった。

 今まで特定の女子生徒を侍らせることがなかったので、いつも同じ子を連れて歩く様はとても目立つ。

 緩くウェーブのかかったピンクベージュの髪を靡かせ、グリーンの大きな瞳の少し幼さの残る顔立ちの女子生徒は一年生であるにも関わらず、幼い顔立ちとは違って、肉付きが良く女性らしい豊満な身体をしており、ギルベルトの好みに合っていたのだろう。




 この日は双子の兄のシャルルに誘われて学園内のカフェテリアで昼食を摂っていた。

 シャルルは妹であるメイシャルを心配して、週に一度は一緒に昼食を摂っていた。

 


 ギルベルトと例のピンクベージュの髪の女子生徒がベッタリとくっついて食堂にやってきた。

 ギルベルトはメイシャルを見つけると少し気まずそうに目を逸らすが、その女子生徒はメイシャルを見下したような視線を向けた。



「メイシャル、あれは良いのかよ」

「良いも何も……」


 正直メイシャルの心中は穏やかではなかった。今までギルベルトに特定の相手がおらず、一人に深い愛を注いでいる様子は見られなかったから、ギルベルトを見ないことで平静を保ってきたが、特定の誰かを愛しているとなると話が別だ。

 本来であれば婚約者であるメイシャルに注がれるべき愛が他の女性に注がれている。

 メイシャルは胸の痛みを感じた。きっとこれは嫉妬だ。

 最低な人だと関心のないふりを貫いてきたが、まだギルベルトのことを諦めきれていなかった。


「ギルベルト様が彼女を選んだのなら仕方ないじゃない……」


 同盟のことがあるから、メイシャルとギルベルトの結婚が揺らぐことはないだろうが、きっと彼女は愛妾の座にでも収まるのだろう。そしてメイシャルは嫉妬に駆られながら仲睦まじい二人の様子を見て過ごすことになるのか。

 容易に近い将来が想像できてメイシャルは眩暈がした。


 とはいえ、最近メイシャルへの嫌がらせは減ってきている。メイシャルの受けていた嫌がらせが彼女へと向かっている可能性が高い。

 メイシャルは彼女のことを少し心配したが、すぐに考えるのをやめた。

 嫉妬の対象を気遣うほどの優しさは持ち合わせていない。


「あまりにも酷いようなら、僕から父上に進言してやろうか?」

「ううん。この結婚は国を守るためのものでもあるから、私が耐えれば良いの。政略結婚で愛し合える関係なんて夢のようなこと考えた私が馬鹿だったのよ」

「政略結婚でも愛を求めるのは悪くないと思うんだけど、メイシャルは相手が悪いよな」


 本当にその通りだ。見目が多少悪くとも誠実な男の方が良かった。

 それでも一度好きになってしまってすぐには吹っ切れずにいる。


「あんなチャラい性格してるくせに、顔が良くて頭も良い、運動神経まで良いってのもずるいよな。モテるのも仕方ないというか」


 とんだ駄目王子であればすぐに熱も冷めるものの、ギルベルトは奔放な性格とは反対に、優秀で成績も学年首席。騎士学を履修する生徒だけで行う剣術大会でも上位に食い込むほど手練れている。


「弁論大会でもギルベルト王子のスピーチは聞いてて感動したもんな」


 話し方から間の置き方、言葉選びも巧みで、聞いている者を引き込むようなスピーチだった。




 シャルルとそんな会話をしていると、第二王子のコンラートとその護衛のコートニーが視界に入る。

 彼らは奥の方の席へ座るために目の前を通っただけだったが、シャルルは思い出したかのように話しだす。


「コンラート王子の弁論も内容はすごく良かったけど、ギルベルト王子ほどの引き込まれる話し方ではなかったんだよなー」


 コンラート王子も原稿はテーマも内容も素晴らしく、考えさせられるような弁論だったが、淡々とした話し方で少しもったいなく感じた。


「それを思うと、討論部門は悲惨だったな。コンラート王子の護衛がことごとく論破して、全然討論にならなくて」

「確かに、あれは頂けなかったわね」

「彼の評価点はすこぶる悪かったな。正論を言っているのだから、僕は見ていてスッキリはしたけど」

「そう? 私ならあれは──」


 メイシャルは意見を言おうとしたが、ギクリとして口を噤んだ。


 すぐ目の前の席に話題の人物が座っていた。


「続き、言ってよ。メイシャルさん」


 満面の笑みでコンラート王子の護衛のコートニーが言った。


 メイシャルはふうとため息をついてから声を出した。


「騎士であれば、民の模範となり、国のために戦い、敵は斬り捨てる。あの討論で良かったのかも知れません。ですが、人の上に立つ人間はあれでは人はついてこない。どれだけ正論を述べたとしても、その者には否定された事実しか残らない。あのとき、あなたはまだ反論する余力を残しているように見えました。その者を否定するのではなく、自分の描く道筋へと誘導する。論破した内容だけでもそれは十分可能だったと思います。私はそんな討論が見たかったです」


 メイシャルが一気に言い切ると、コートニーは笑みを崩さずに応えた。


「俺も同じ意見だ」

「?」


 では何故そうしなかったのだろうか? 不思議に思い首を傾げた。


「俺は騎士だから」


 それだけ言って、コートニーは去っていった。


 騎士だから、評価点は悪くても正解を答えたということなのか。

 大会の内容も成績に影響をするのだから、評価点を気にするべきだろうと思いながら、メイシャルはコートニーの背中を眺めた。


「びっくりした。気配もなく急に目の前にいるんだもんな。メイシャル、彼と話したことあったのか?」

「ないと……思うけど……」


 メイシャル自身もびっくりしていた。

 彼の討論を否定するような意見を述べたから、文句を言われるかも知れないと想像した。

 かといって、彼を肯定するために自分の意見を翻すような真似はしたくなかった。



 ただ今日一つ学んだのは、人の多い場所で他人のことをあれこれ言うのはやめた方がいいということはよく分かった。

お読みいただき、ありがとうございました。

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