42 結婚式
「すごい険しい顔をしてるけど、私……変?」
艶やかなダークブロンドはしっかりと後ろに撫で付けて、白地に金と濃紺が差し色になった、豪華な騎士の正装を身に纏ったコンラートは眉根を寄せてウェディングドレス姿のメイシャルを見た。
「いや……違う……綺麗過ぎて危険だ。今日は中止にしよう! こんなに美しい花嫁は閉じ込めておかないと拐かされてしまう」
メイシャルのプラチナブロンドは鎖骨から胸のちょうど真ん中くらいまで伸び、今日は清楚に、かつ可愛らしく結い上げられ、たくさんの白い花で飾られている。
身体は学園に入学したての頃とは比べものにならないくらい女性らしく成長し、ドレスはもう少し胸元が隠れるようなデザインのドレスにするべきだったかとコンラートは後悔していた。
ストレートに褒められて、メイシャルは顔を赤くするが、言っていることはおかしいので、しっかりと正さなければ。
「ありがとう、コート。でもね、警備も厳重な王族の結婚式で花嫁を誘拐なんてありえないでしょう?」
「いや! でもっ──」
「新郎新婦はいつまでゲストを待たせるんだい?」
腕を組んで控室の入り口にもたれかかるように立っているギルベルトがいた。彼もまた挙式に参列するため正装であった。
そして、ギルベルトもメイシャルを見て、すぐに褒め称える。
「メイシャル! すごい綺麗じゃないか。やっぱりあの時、聞き分けよく婚約解消をするのではなく、粘って粘って君を口説き落とす選択をするべきだった──」
「ほら、シャル! こういう不埒な輩がいるから、やはり中止にして……」
コンラートはギルベルトからメイシャルが見えなくなるように立ちはだかる。
「ちょっと、ギル!? 変なこと言わないで。私とギルとじゃ絶対にありえないから!」
「うぐっ」
メイシャルはコンラートの後ろからひょっこりと顔だけ出してギルベルトに言うと、ギルベルトは胸をナイフで刺されて抉られたかのように、ぐはっと苦しんだ。
こんなリアクションをとっているが、これがギルベルトの軽口なのはわかっている。
ギルベルトはメイシャルと婚約解消をして、最近ユルティナと再び婚約をした。
第二王子が結婚をするのに王太子には婚約者もいないという問題と、政治的な絡みでユルティナとの婚約が決まったが、ここのところギルベルトの女性関係の話は出てこなくなった。しっかりと精算してからユルティナと婚約したらしい。
ギルベルトとの婚約にユルティナは良かったのかと心配したが──
「顔も良くて、頭も良い、立ち居振る舞いは理想的な貴公子、そして本物の王子様なのですよ。ただ実態が女性関係にクズ男というだけでしたら、そこを徹底的に再教育いたしますわ! 大丈夫です。本人も誠実な人間になりたいとおっしゃっているのですから、良いタイミングです。えっ? 改心しなかったら? それでもわたくしには王妃という立場は残るのでしょう? それだけでもギルベルト殿下と結婚するメリットはあるわけですから──」
と捲し立てるように話し、ギルベルトとの婚約を非常に前向きに考えていた。
王子相手に「クズ男は徹底的に再教育する」と言えるところも清々しい。
今日はそんなユルティナも参列してくれているはずだ。
「そういえばコート、君、明日から騎士団勤めの後、王宮にも寄ってね」
「兄さん、明日は結婚休暇で騎士団へは行きません!」
「なら、なおさら都合が良いな! 朝から来てくれ!」
「だから、俺は明日は結婚休暇で離宮から出るつもりありませんが」
「君さ、大学で帝王学学んだんだから、ちゃんと公務も手伝ってよ。父上が公務ほとんどできなくなっちゃったから、忙しくて回らないんだよ」
コンラートは苦い顔をした。
「……クソっ、ここで帝王学科にコース変更したことを言われるのか」
あのときはメイシャルをギルベルトから守らないとと必死で、本来は騎士科へ通うはずだったが、帝王学科に変更してしまった。今更コース変更したことを後悔する。
コンラートは頭をガシガシと掻きながらギルベルトに言う。
「……わかったよ。その代わり明日は午後からにしてくれ」
ギルベルトの瞳は弧を描く。
「それくらいは譲歩しよう。さぁ、みんなが待っている。行きたまえ」
「コート、いきましょう?」
メイシャルから手を差し伸ばすと、コンラートは不満そうな顔をしつつもその手を取る。
式場へ向かう廊下を二人で歩く。
この扉の先は二人を先導するシスターと神父がいる。二人で話すなら今しかない。
「コート。今日のコート、すごく素敵よ。普段の騎士服姿も格好良いと思っていたけど、今日の正装姿は一段と格好良い」
「シャル……っ!」
コンラートが感極まったような顔をする。
そこまで感動するようなことを言ったかしらとメイシャルは不思議な顔をする。
「初めて……」
「初めて?」
「初めてシャルが俺のことを格好良いって言ってくれた……!」
「えっ? 初めてだったかしら?」
「そうだよ。……嬉しすぎる」
コンラートは頬を染め、ニヤけるそうになる顔を口元を押さえて我慢する。
「ふふふっ、私もね、今日はコートとずっと同じ気持ち。今日の格好良いコートは独り占めしたいって思ってたの」
「シャル! やっぱり今日は中止にして──」
「でもね、私の素敵な旦那様をみんなに見せびらかしたい気持ちもあるの!」
「……わかった。この国の男どもにはこの美しい花嫁は俺のものだって存分に見せつけてやる」
コンラートの表情が威嚇するような表情に変わる。
「もう! そんな威嚇しなくても、私はずっとコートだけよ」
「当たり前だ。俺の愛は重いんだ。嫉妬もすごいし独占欲もすごい。シャルのこと絶対に離さないから」
握りしめたメイシャルの手を口元へ持っていき口づけをする。
「コート、忘れてない? 私も愛が重いと有名な王族なのよ。そんな私の重たい愛も受け止めてちょうだいね」
「喜んで」
二人は微笑み合い、結婚式が始まる前に熱い口づけを交わした。
本編はこれで完結とさせていただきます。
拙い文章でしたがお読みいただきありがとうございました。
評価いただけると嬉しいです。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました(^^)
せいかな




