39 種明かし
「えっと……何から聞いたら良いのかしら?」
「まず、シャルの王家の力のことから説明しようか?」
「あっ、ええ! 私、本当に知らない間に王家の力を失ってしまったみたいで……」
「ごめん、シャル、あれは嘘なんだ。シャルは王家の力を失ってなどいない」
「え? でも力は使えなかったわ」
何度も王家の力をかけてきたギルベルトに試したが効かなかった。
「俺がシャルの王家の力を覚醒前まで戻したんだ」
「えっ?」
いつ? そう質問する前にコンラートは答える。
「ほら、歪んだチョーカーを直したときに。十八年分、時を戻さなきゃいけなかったから、慌てたよ。でも時を戻すのは能力の部分だけだからすぐ出来た」
あのときコンラートはメイシャルが王家の力を行使する部位である喉に手を当て、コンラートの王家の力である遡行を使った。
「身体の怪我なんかは血も肉も皮膚も全部戻さなきゃいけないから時間がかかるけど」
「そうなんだね。……じゃあ、私の王家の力はまた戻るの?」
「うん、半年以内には戻るよ」
「そうなんだ……」
メイシャルは感情のはっきりしない表情をした。
「あれ? 嬉しくない?」
「う、ううん。便利だし助けられることの多い力だけど、私はこの力が怖くて……」
「俺はシャルの力に助けられたけど、シャルが嫌なら、また覚醒したときに時を戻すこともできるよ」
「助けられた?」
コートニーを殺しかけて迷惑をかけたことならあるが?
「うん。ああ、ごめん、話が逸れるからまた今度話すよ」
そうだった。今は他に気になることがある。
「あっ、そうだね。じゃあ、ファルダス国王の王家の力は……?」
「うん。俺が時を戻した。流石に四十年以上遡るのは短時間では無理だと思ったんだけど、ギルベルトが父上の王家の力を覚醒したときの年齢を知っていたんだ」
ファルダス国王は王家の力のことで愚痴をこぼすことが多かった。
そこで自分が王家の力を覚醒するのが遅く、結婚直前に覚醒したことも話してしまっていた。もちろんその後に記憶操作でギルベルトの記憶を消したつもりでいたが、絶対記憶の力を持つギルベルトはしっかりと覚えていた。
「二十年程度だったから手を引いてるように見せかけてしっかりと時を戻させてもらったよ」
コンラートがファルダス国王の手を引いて、先王の下へ連れていったのはそういうことだった。
「父上の力はまたすぐ覚醒するといけないから、定期的に時を戻してやらないとな」
「先王陛下に力を見てもらったのって……?」
「ああ、それも計画のうちさ。ほら、うちのじい様、こういう機会でもないと王宮には来てくれないから、お披露目会ってことで呼び出してさ。ギルベルトがじい様に力を見てもらうように頼むところだったんだけど、じい様が見るって言ってくれて丁度良かった」
また、あの場はメイシャルの力が失われたことを見せる場であったため、今後メイシャルが貶められることのないよう小人数のパーティーにしたり、ファルダス国王が力を失ったことを好機にファルダス王家に謀反を企てるような力のあるものは呼ばないようにしたりと準備も入念だった。
「全部が計算だったのね……」
「ああ、上手くいってよかった」
「結果は良かったから良いのかもしれないけど、少しぐらい事前に教えてくれてもよかったじゃない?」
メイシャルは少しむくれて、不満を漏らす。
アマリアで過ごした五ヶ月の間、先々がどうなるのかずっとやきもきしていた。
「言おうと思ったさ! なんなら、アマリアから同盟の条件だった婚約者変更の了承がもらえた時点で、すぐにアマリア国王に挨拶をしにアマリアまで行ったんだ。でも、アマリア国王が……」
「えっ? コート、アマリアまで来たの!?」
初耳だ。アマリアへ来たのなら顔を見せてくれても良かったのではないか。そう思ったが──
「ああ。シャルにも会えたらとも思って行ったんだ。でも……シャル、同盟のことで勝手な行動したと怒られただろ?」
「ええ、これ以上余計なことをするんじゃないって叱られたわ」
「それで、アマリア国王がメイシャルには少しお仕置きが必要だから、しばらくモヤモヤさせておけって。俺にも結婚前に純潔を奪ったのだから、少し会えないくらい我慢しろって……」
「えっ……」
そこまで言ったの? メイシャルはコンラートと身体を重ねたことは父王には言わずにいた。
だが、馬鹿正直にコンラートはアマリア国王に話してしまった。
なんて恥ずかしいことを言ってくれたんだ。そう思ったが、それに対して父王はメイシャルを叱ったりはしなかった。きっと二人の関係を認めてくれているということだろう。
「だから、言いたくても言えなかったんだ。ごめん」
「いいえ……こちらこそお父様がごめんなさい」
「えっと……これで大体知りたいことは分かった?」
「うん。急展開で頭が追いつかないところもあるけど大体良いと思う」
「じゃあ、料理も出揃ったみたいだから食事にしようか」
コンラートと二人きりで摂った食事はやはりメイシャル好みの味付けで、コンラートはどこまでもメイシャルに優しかった。
「食事はシャルの口に合った?」
「ええ、とっても美味しかったわ。ありがとう」
「何よりだ。じゃあ、次はこっちも食べていいか?」
コンラートがメイシャルを後ろから抱き込み、顎を掴んで、自分の方へ向かせて、メイシャルの唇に軽く口づけた。
「ひゃ……っ!」
「ずっと我慢してたんだ。もう良いよな?」
メイシャルを見つめる琥珀の瞳は情欲に染まる。
メイシャルだって再会したそばからコンラートに抱きつきたい気持ちを堪えていた。
コンラートに見つめられてメイシャルのアメジストも自然と潤む。
「コート……っん!」
メイシャルの表情でオーケーと判断し、すぐに再び口づけた。
唇が離れた瞬間にメイシャルは声を出す。
「あっ……まっ、まって……だめっ」
「待てない」
婚約した日にこんなことして良いのか? 普通なら身体を重ねるのは結婚してからだ。
メイシャルの冷静な部分が、ダメだと言っている。
「だめよ……結婚前にこんなのっ……!」
「もうすでに一回してるよね」
しかもその一回はメイシャルから誘った。
「あっ、でも……結婚前に妊娠は……」
以前はそれも望んでいたが、流石に体裁が悪い。
「避妊薬は用意してある」
逃げ道がなくなってきた。
「シャルと愛し合いたいんだ」
ドクンと大きく心臓が跳ねる。
本当はメイシャルだってコンラートと愛し合いたい。離れていた間の愛を確かめ合いたいと思っている。
でもいけない。
「あっ、だめ……っ、ほんとに」
「ダメじゃないだろ?」
コンラートがドレスの中に手を入れようとしたので、メイシャルはどうしようもなく声を上げた。
「今、月のモノがきているの!!」
「……えっ?」
コンラートは青ざめる。
「ご、ごめん!! シャル!!」
メイシャルは顔を赤くして蹲る。
「だからダメって言ったのに……」
メイシャルは月のモノ真っ只中だった。
「本当にごめん!」
「もうっ、お願い。ちゃんと初夜まで待って……?」
手で鼻と口を押さえながら、顔を赤くして目を潤ませて、上目遣いでお願いされれば──
「うん、わかった。本当にごめん……」
コンラートは返事をしてから思う。
――えっ? 初夜まで待つの?
お読みいただき、ありがとうございました。
 




