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35 迎え

 コンラートが扉を開けると予想通りギルベルトが立っていた。


「遅かったですね」


 汗ばんだ髪にシャツは羽織っただけで前をはだけたその姿を見てギルベルトは顔を青くした。


「コート、ここにメイシャルは……」

「来ていますよ。今は俺のベッドで疲れて寝ている」

「なっ! コート……まさか……」


 ギルベルトはわなわなと震え。


「ええ、抱きましたよ」


 カッと頭に血が上った。


「彼女は私の婚約者だ!」

「だからなんです? 兄さんだって婚約者がいながら学園で散々不貞を働いてきましたよね?」

「ぐっ…………」


 それを言われると、メイシャルも同じことをしたまでだ。ギルベルトは何も言い返すことができない。


「だ、だが……彼女とはこれから愛し合える関係になろうと……」

「彼女はそれを望んでいましたか?」

「うっ……」


 ギルベルトは今日メイシャルから好きになることはありえないと言われたばかりだった。


「俺は兄さんに彼女を蔑ろにしないよう忠告しましたよ」


 それを聞き入れなかったのはギルベルト自身だ。


「彼女が望んで、彼女には俺の子種を注いだ。兄さんとは婚約解消をしてもらいます」

「だが! それは……父上が認めない」

「認めさせるよ。俺ならそれができる。もう絶対に兄さんには渡さない。彼女だって王太子妃にはなりたくないと言っている」

「メイシャルが……?」

「ええ、同盟のためにどんな嫌がらせを受けても我慢してきた彼女がそう言ったんです。だから俺は彼女の純潔を奪った。彼女のことは俺が幸せにする。父上からも俺が守る」

「っ! ………………私は……見限られてしまったんだね。コート、私は今、心底後悔しているよ。なぜ始めから誠実に対応しなかったのか」


 ギルベルトは拳を握って俯いた。


「まさか弟に寝取られるなんてな」

「寝取っただなんて人聞きの悪い。彼女から抱いて欲しいって言ってきたんだ。彼女を抱いたのは俺たちの愛し合う過程の一つであって、無理矢理彼女の気持ちを手に入れるために抱いたわけじゃない」

「そうか……」




 しばらくの沈黙の後、ギルベルトが答えを出す。


「…………分かった。彼女との婚約解消。私も協力するよ」


 ギルベルトは意を決してコンラートに告げた。


「父上の彼女に対する執着をなんとかしないといけない」


「私にもお手伝いさせてください」


 ギルベルトの後ろから、聞き覚えのある声がした。


「ユルティナ嬢!?」


 そこにはユルティナが立っていた。


「陛下がメイシャル王女を見る目は危ないものでした。メイシャル王女が心配で公爵家の者に探させていたのです。こちらにいたんですね……」

「ユルティナ嬢がなぜメイシャルのことを……?」

「あれ? 聞いていませんか? 陛下からメイシャル王女を助けたのはわたくしですのよ?」


 ユルティナが王子二人相手に腕を組んで、高慢な態度で物言いをした。

 その態度が面白くてコンラートは吹き出した。


「ふっ、ふははははっ! 頼もしい!! ユルティナ嬢、ぜひ頼む! さあ、作戦会議といきましょうか」



     ◇



 目覚めるとコンラートはいなかった。代わりに全く見知らぬ女性がいて戸惑った。


「メイシャル王女様、おはようございます。私、アザライア公爵家の侍女でございます。ユルティナ様よりメイシャル王女様の身支度のお手伝いをするよう申しつかっております」

「ティナから?」

「はい。私こう見えても武術にも長けております。メイシャル王女様のお迎えが来るまでの間、護衛もさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします」


 そういえば、コンラートにもうすぐ迎えが来ると言われたことを思い出す。


 なぜユルティナの侍女がいるのかよく分からないが、コンラートが引き入れたのであれば問題ないだろうと思い、侍女に支度を手伝ってもらい、身体を清め服を着た。


 着た服は久々のスカートだった。簡単な化粧を施されれば、髪は短いが、女性らしく違和感のない仕上がりとなった。




 そして少しの間待っていると扉をノックする音と懐かしい声が聞こえた。



「シャル! 僕だ!」


 侍女が扉を開けると、シャルルがいた。


「待たせたな、メイシャル!」

「えっ、ルル? 内乱は? ギル……ギルベルト王子からはもうすぐ収束するって聞いたけど……」

「ああ! もうすぐ片付く。もう僕がいなくても平気だ。コンラート王子に助けられた」

「コートが!?」

「ああ、内乱の地まで騎士団の特務隊を派遣してくれたんだ!」

「でもそれって、ファルダスに借りを作ったってことにならない……?」

「心配すんな! コンラート王子がギルベルト王子と相談してくれて、ファルダス内でこれ以上アマリアが下に見られないように配慮もしてくれている」



 コンラートは騎士団の特務隊の隊長をしており、メイシャルとシャルルの入れ替わりの理由を極秘に調査していた。そこでアマリアの内乱を知り、特務隊を派遣を決めた。

 特務隊の派遣にあたっては王太子であるギルベルトに許可を取り、王太子権限で派遣した。

 ギルベルトはアマリアの内乱を収めるなら、アマリアにも恩が売れる、父王も否とは言わないだろうと判断し、事後に報告書を上げておけば良いと言った。


 コンラートはギルベルトと相談をし、提出予定の報告書の内容はもう決めてある。

 アマリアの内乱を知り応援を送ったが、一足遅くすでに収束していたため事後処理の手伝いのみ行った。という内容で上げるつもりだ。

 メイシャルがファルダスに嫁いでくるにあたって、ファルダス内でこれ以上アマリアの立場を悪くするのは良くないと思い、そういった内容の報告書を用意した。ギルベルトもそれに同意した。



「内乱を食い止めるのに、兄様が怪我してヤバかったんだ。酷い出血で三日間寝込んでいたから、兄様マジで死ぬかと思ったけど、コンラート王子が来てくれて、彼のおかげで助かった」


 きっと王家の力を使って助けてくれたのだろう。


「そっか、良かった。……でも、コートが騎士団特務隊の隊長だなんて知らなかった」

「王子だから、名ばかりの隊長で実務はほとんど部下がこなすって謙遜していたよ」

「そう」


 コンラートは大学に通いつつ騎士団に所属していたので、本当に忙しく、実務は部下がこなすというのは事実で、謙遜でも何でもなかった。

 大学に入ってからは書類に目を通し、指示を出すばかりで、たまに授業後や休みの日に近場で任務をこなすことはあっても、遠征に付き添ったのは今回が初めてだった。


「それにしても、僕、学園でそれなりに仲良くやってたと思っていたのにコンラート王子とコートニーが入れ替わっていたなんて、本当騙された」

「だよね……私も気づかなくて──」


 コートニーを殺しそうになったこと。その他の入れ替わりの期間に起きた出来事。そして、つい先ほどコンラートに抱かれたことまでシャルルに包み隠さず報告した。


「え゛!? シャル……コンラート王子と……やっちゃったのか……?」


 直接的な表現にメイシャルは顔を赤くして頷いた。


「いや……チャラチャラしたギルベルト王子よりもよっぽど良いとは思うけど……。好きなのか?」

「うん……。ギルが嫌って思うくらい好きになっちゃったの。でも、まずいよね? 婚約破棄もしてないし、同盟のことだって……」

「同盟のことか……アマリア側は何とでもなる気がするんだよな。あとはファルダス国王が認めるかどうか……。シャルの話を聞く限りだと、嫌な目でシャルを見ているようだしな……」

「色々勝手にしちゃってごめんなさい……」

「仕方ないさ。メイシャルの性格を知ってて、ファルダスの大学に行くことを許可したのも父様だし、愛の重さゆえに勝手なことをする王族には父様も慣れてるんじゃないか?」


 アマリアの王族は結婚すると深く愛し合うため、子宝に恵まれるが、婚約段階で上手くいかないと、婚約者とは別の人間と駆け落ちし、国を出奔する者もたまにいる。

 アマリア国王は過去の経験から子どもたちの結婚相手には寛容で、メイシャルの姉のアマリアの第二王女は王族を抜け、臣籍降嫁し、平民である商家へ嫁いだ。

 駆け落ちされて二度と会えなくなったり、不必要な遺恨を残すよりも認めてしまった方がよっぽど良いと考えたようだ。

 もちろん、娘を託すのに相応しい相手かどうかの判断はかなり厳しいものだったようだ。


「まっ、とりあえずアマリアに帰って、父様にこってり絞られてこいよ! 入れ替わりは今日で終わりだ」

「えっ……?」

「シャルがこっちでやらかしたことは、シャルが仲良くなってくれた二人の王子と相談しながら何とかしてやるよ!」


 メイシャルは押されるように用意されていた馬車に乗り込んで、母国、アマリア王国へと出発した。

お読みいただき、ありがとうございました。

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