34 私じゃダメ?
「えっ? でも……」
「お願い、コートに抱いてもらいたいの。私では、その気になれない?」
メイシャルは着ていた服をはだけ始めた。大きなシャツの釦を全て外して、胸を露わにし、ズボンもすぐに脱ぎ捨てた。
「うわっ、シャル! ちょっと、服着て!」
コンラートは顔を横に向けて腕で顔を押さえた。
メイシャルはしゃがみ込んで、コンラートのベルトに手を掛け、カチャカチャと外し始めた。
「えっ!? あっ! ちょ、なにを!!」
「閨の教育で聞いたの。その気になってもらえないときはこうするって……」
「わっ! やめろ! シャル!!」
コンラートはメイシャルの肩を掴んで向こう押しやった。
「なんで? やっぱり私じゃダメ?」
メイシャルは目に涙を溜めて眉を下げコンラートを見上げた。
「ぐっ……」
この状況で耐えるのが辛い。
「ダメだ。俺が相手じゃシャルを王太子妃にしてやれない……」
「そんなものなりたいなんて思っていない。ギルと婚約しているのに、こんなのいけないのはわかってる! でも、お願い! ギルの下に嫁げない身体にして欲しいの!」
コンラートは目を見張った。
「……シャル、本当に良いのか? 後戻りは出来ないぞ」
メイシャルはコクリと頷く。
コンラートはメイシャルのことを横向きに抱き上げた。
「わかった。ベッドに行こう」
ベッドに向かう途中で、メイシャルの胸の傷に気付く。
「シャル、これは? 刃物で出来た傷だよな? 誰にやられた?」
尋ねるコンラートの顔は鬼のように険しい。
「ファルダス国王に……」
「……とりあえずあの男は引き摺り下ろすか」
コンラートはボソッと呟き、メイシャルをベッドの上に優しく降ろす。
コンラートが傷口にそっと手を当てると、スッと傷が消えていく。
「後でちゃんと説明してくれ」
「う、うん……ありがとう」
「とりあえず今は先にシャルを抱きたい」
「コート……」
コンラートの優しい琥珀色の瞳はギラギラとした熱を孕んだ色に変わる。
そして、メイシャルの上にのしかかり、メイシャルの手に自身の手を重ねて顔を近づける。
「シャル、メイシャル。もう離してあげられない。シャルが好きだ。愛している」
想いを伝えてすぐにメイシャルに口づける。
◇
「で……何があって、シャルは泣いていたんだ? なんで父上から傷をつけられた?」
コンラートは下穿きとズボンだけ身につけて、ベッドの中で横たわり、メイシャルの短い髪に手を通して頭を撫でながら尋ねる。
メイシャルもコンラートの隣で横たわり、鍛えられた胸に手を添えながらコンラートを見上げるようにして、事情を説明した。
不平等な同盟のこと、アザライア公爵に力を使ったこと、ファルダス国王に力を使おうとしたが、返り討ちにあったこと。
そして、ギルベルトに抱かれるのが嫌で逃げ出したこと。
全てを話した。
「どうしよう……私、ギルが嫌でコートの迷惑も顧みず、こんなことしちゃって……」
自分からお願いしたことだが、王太子の婚約者が別の男性から子種を受けるなど大問題だ。メイシャルから誘ったにしてもコンラートも処罰の対象となる可能性が高い。
コンラートはメイシャルの頭を優しく抱えた。
「シャル、そんなことは気にするな。確かに昔から父上は王家の力に拘っている。ギルベルトが言う通り、父上が王家の力を持つメイシャルに執着するというのも納得できる。父上は十年前にシャルが王家の力を使うところを見ていたんだ」
「えっ? 十年前? そんなことあったかしら……?」
「あの時の出来事は記憶操作でなかった出来事にされたから誰も知らないんだ。シャルの記憶も弄られている」
「なかった出来事に……」
メイシャルは幼い頃に記憶を弄られていたと知って、身震いした。
「大丈夫。後は俺がなんとかする。ギルベルトともちゃんと話すよ」
「大丈夫?」
「ああ、絶対に大丈夫だ。それにそろそろシャルには迎えが来るはずだ。せっかく結ばれたのに離れるのは辛いけど、少しの間アマリアで待っててくれ」
「え? 迎え?」
「ああ、今向かってるんじゃないかな」
「えっ、誰が?」
話しながらメイシャルが目を擦る。
「あっ、疲れたよな。寝てて良いよ」
メイシャルが眠たそうにしていることを察して言った。
「まだ話の途中……」
「大丈夫。必ず俺がシャルのことを守るから。安心しておやすみメイシャル……」
コンラートはメイシャルの額に口づけを一つ落とすとメイシャルは押し寄せる睡魔の波に身を任せた。
メイシャルが寝入ったところで、コンラートの部屋を強くノックする音が響き渡る。
「お迎えの前に、一戦交えないといけないな……」
コンラートはシャツを羽織って扉へ向かった。
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