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33 これから先、一生、絶対、一瞬たりともありえない

「それにしても……メイシャル、君が無事で良かった……。あまり無謀なことをして、私をハラハラさせるのはやめてくれ」

「ごめんなさい」

「君は私の()()()婚約者なんだ」

「……」

「父上は間違いなく君に執着している」

「国王は私に手を伸ばしてきたわ……記憶を書き換えるとも言われた……」

「そう。父上は記憶を操作できるから、たとえ父上が君に危害を加えても、君の記憶の中の危害を加えてきた相手を別の誰かに書き換えることができるし、それすら無かったことにすることもできる」

「危害を加えたことも無かったことに……」


 たとえあの場で乱暴をされたとしても別の誰かのしたことにされたり、忘れてしまってまた何事もなくファルダス国王と会話を交わしたりするのかと思うと背筋に寒気が走った。


「君を我が国へ嫁がせることに必死になっているから、今回の件で国を通して君に何かお咎めがあるってことはないと思う。君がシャルル王子と入れ替わっていた件もおそらく黙認すると思うよ」


 アマリアに迷惑を掛けることにならないのであれば、ファルダス国王のメイシャルに対する執着も悪いことだけではないが、やはり気持ち悪い。


「だが、君がファルダス王宮にいるのが知られてしまったから、君の記憶を書き換えるため君のことを探すかもしれない。君の言う通り賓客室に戻るのはまずいと思う」

「だよね……」

「しばらくはこの部屋にいると良いよ。流石に父上も私の部屋の奥までは入ってこない。奥の寝室が一番安全だ」

「は?」


 何故か話の流れがおかしくなってきた。


「メイシャル……君がシャルルでなく、メイシャルで良かった」

「え?」

「君のことが好きになったんだ。私は男を好きになってしまったのかと思っていた」

「……」

「でも君はシャルルじゃなくてメイシャルだった。私と君は婚約者同士だ。なら何も問題はない」

「……」

「大丈夫! 父上からは私が守ってあげるよ。父上は私にメイシャル王女には手を出すなと言ったんだ。だが、もし君がすでに私の子種を受けていたら、私の子を孕んでいる可能性があったら、父上は諦めざるを得ない。国的には王太子妃が王太子の子を孕んでいても何も問題はないからね」

「……」

「うん! なかなか良い手段かもしれない」

「良い手段……?」

「ああ! 私は本当に君のことを愛しているんだ。本来なら結婚初夜まで待つべきところだし、君のことは大切にしたいと思っている。だが、父上からも守るためにも一刻も早く抱いてしまった方が良い」

「……」

「メイシャル、愛しているよ。君のことを抱かせてくれ」


 ギルベルトはメイシャルを優しく抱き込み、顎を掴んで引き上げた。


「ギル……。やめて……」


 メイシャルは冷ややかな目をしてギルベルトを見る。


「えっ?」

「無理矢理するなら力を使うわ」


 ギルベルトはギョッとしてメイシャルから一歩離れて両手を挙げた。


「私のことは大切な婚約者?」

「ああ……大切に想っている」

「学園生活での三年間あなたに大切にされたことは一度もなかったわ。それどころかあなたは他の女子生徒と常に一緒にいて、私は惨めな想いをしてきた。他の生徒たちからの嫌がらせにもずっと我慢してきたわ」

「そ……それは申し訳ないと思っている」

「私とあなたは同盟のために結婚するわけであって、そこにはなんの感情もない」

「今はなくともこれから愛情を育んでいけば……」

「あなたが言い出したことよ!」

「……っ!」

「ギル……大学での生活のことは、あなたに色々と教えてもらってとても感謝してるわ。学園生活と違って充実していたし、とても楽しかった。あなたのことを見直した」

「では……!」

「でも……それとこれとは話は別!」


 メイシャルはギルベルトの胸ぐらを両手で掴んで顔を近づけて言う。


「私……不誠実な人って大っ嫌いなの。私があなたのことを好きになることは、これから先、一生、絶対、一瞬たりともありえない!」


 メイシャルはギルベルトをドンと軽く押してから胸ぐらを放して、ギルベルトの部屋を出て行こうとした。


「あっ、メイシャル! どこへ!?」

「ここには居たくない。ギルベルト・ローパー・ファルダス、ついてこないで!」


 ギルベルトの足は床にくっついたまま上がらない。

 メイシャルを追うことはできなかった。



     ◇



 メイシャルは行く宛てなどないが、とにかく走った。王宮を出てからもひたすら走った。




 ――いやだ。いやだ。結婚だって嫌なのに!


 結婚前からわざわざ好きでもない相手に純潔を散らされるなど……たとえ、ファルダス国王から逃れるためだとしても……



 ――もう無理かも……


 同盟のためにもギルベルトとの結婚は絶対だ。ファルダス国王からは逃れることができたとしても、こんな気持ちのままギルベルトの下へ嫁ぐことが出来るのか。



 メイシャルは足を止め俯いて、涙の流れる顔を押さえた。


 そんなメイシャルを見て通りかかった馬に乗った騎士が声をかける。



「シャル……?」


 聞きたかった声がしてメイシャルは顔を上げる。


 目の前にはコンラートがいた。


「えっ、ちょっ、泣いてる? どうしたんだ? 今から寮に帰ろうと思ってたんだけど、王宮まで送るよ」


 コンラートが馬から降りて「乗って」と言う。



「王宮には……戻りたくない」

「シャル、その服、ギルベルトの服だよな。何かあったのか?」

「お願い。コートの部屋に連れてって」


 メイシャルはコンラートの馬に跨った。


「……まぁいいけど」


 メイシャルの涙には弱い。コンラートは困った顔をしながらメイシャルの後ろで馬に跨った。


 コンラートがメイシャルの涙するところを見たのは過去に一度だけ。

 媚薬に充てられた不安と恐怖からポロポロと涙を流していた。

 それ以外は学園でどれだけ嫌がらせを受けていても絶対に涙を流したりなどしなかった。あの暴行事件のときでさえも。



     ◇



「シャル、どうぞ」


 寮に着き、コンラートは自室の扉を開けてメイシャルに中に入るように促した。


「シャル、何も言わないけど、何があったのか言ってくれ。何も言わなきゃ、何の助けもしてあげられない」

「コートは」

「ん?」

「私のこと助けてくれる?」

「当たり前だろう」


 コンラートにはメイシャルに助けられた過去がある。メイシャルが困っているのならどんなことでも助けになってあげたい。


「ギルと結婚したくない」

「え?」

「お願い。私のこと抱いて……」


 メイシャルはコンラートに抱きついた。


お読みいただき、ありがとうございました。

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