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32 ユルティナの王家の力

 そう思った瞬間、ファルダス国王の動きが止まる。


「えっ?」


「シャルル様! 早く!!」


 声のする方を見ると扉を開けてユルティナが立っていた。

 考えることを後回しにして、とにかく慌てて扉の外に出た。

 すぐにユルティナが扉を閉めて言う。


「シャルル様! いえ、メイシャル王女様! 私の王家の力は時間停止。対象は人。一回五秒、一日三回が限度です。陛下が出てきたら再度陛下の時間を止めて足止めしますので急いで逃げてください」

「わかったわ!」


 その場をユルティナに任せて、破れたシャツの前を押さえながら、とにかく走って逃げた。



     ◇



 ユルティナは先ほどまで父の執務室で、シャルルの紹介をしていたはずなのに、気がついたら執務室の外にいた。


 ――外すように言われたのかしら?



 それにしては父に渡すはずだった届け物は手に持ったまま。渡すだけで良いので、その場を外すなら渡してから外せばそのまま帰ることが出来るのに、なぜ外で待っていたのだろうか。

 モヤモヤとした違和感を抱えたまま、考えていると父の執務室からシャルルが出てきた。


 話しかけようとしたが、上機嫌な様子にまた違和感が増え、つい隠れてしまった。

 父との会話で何をそんなに上機嫌になることがあるのか? その後に呟いたシャルルの独り言に一気に不信感が募る。


「簡単だったなぁ」



 何が簡単だったの?



 シャルルはそのまま王宮の一般には立ち入れない区域へ進んでいくため、様子を見ていた。

 途中騎士たちに阻まれていたが、何やら会話をすると騎士たちはすぐに道を空ける。

 どういうことかと思い、すぐに騎士に話しかける。


「ちょっと、騎士様? 先ほどシャルル王子が通られたけども、よろしかったのでしょうか?」

「……」


 騎士の瞳は虚ろで、呆然としていてユルティナの声は届いていない様子だった。


 ――これは……王家の力……?


 シャルルが何かよからぬことを企んでいる。そんな気がして、シャルルの後を尾けた。


 シャルルはどんどん奥へ進んで気がつけばもうそこはファルダス国王の執務室。

 シャルルは躊躇うことなく騎士へ何か話をして、中へ入った。


 堂々と中へ入っていくシャルルにファルダス国王が気を取られているうちに、扉を閉めようとした騎士に時間停止を掛け、こっそり中に忍び込んだ。


 隠れる場所がなかったらどうしようかと入ってしまってから思ったが、隠れるのにちょうど良い大きな柱時計があり、そこに隠れた。


 シャルルとファルダス国王が会話をしているが、会話の内容は穏やかではない。

 自分が聞いてはいけない内容だったのかもと思うがもう後には引けない。

 シャルルがファルダス国王を罠に嵌めようとしたが、返り討ちにあったようだ。



 そして、その後のファルダス国王の発言と行動に一気に血の気が引いた。


()()()はいけないな、メイシャル王女」


 ――っ!!? メイシャル王女!?


 ユルティナは堪らず、様子を覗く。

 そこには服を切り裂かれて、明らかに女性の身体つきをしたシャルル──メイシャルがいた。



 ユルティナにはどちらが善で、どちらが悪かなど分からなかった。ただ、その後の会話、ファルダス国王の行動から、咄嗟にメイシャルを助けた。


 自国の王と他国の王女では、自国の王の手助けをするべきなのかもしれないが、どうしてもそうしたくなかった。

 メイシャルを助けたかった。


 だから一回にたったの五秒しか止められないし、一日にたったの三回しか使えない、あまり役にも立たないような王家の力を使った。




 ユルティナの時間停止は停止したい相手を念じるだけ使用可能だ。

 時間の制限、回数の制限から一見あまり役立たなさそうな力だが、父であるアザライア公爵はユルティナの力を軍事利用されるのではと危惧して、偽った力の内容を公表するようになった。

 公爵は娘を戦争の前線に送り出すようなことはしたくなかったため、国王にですら偽りの力を説明し欺いていた。



     ◇



 メイシャルは途中にいた警備の騎士には再び王家の力を使い、道を空けさせた。


 どこに向かって逃げれば良いのか。とにかく逃げないと、メイシャルは王宮内を闇雲に走った。


 だが、曲がり角で人にぶつかって、後ろに尻もちをつくようにして倒れた。


「わっ、すまない! って……シャルル? どうした? その格好……? えっ……シャル……ル……?」


 ぶつかった相手はギルベルトだった。


「ギル……」


 前を押さえていた手は床にある。前がはだけてしまえば、今倒れている人物が男でないのはすぐにわかる。


 ギルベルトは着ていたジャケットをメイシャルにかけた。


「しっかり前を押さえて……、賓客室まで送るから」

「賓客室はダメ!!」


 メイシャルが滞在していた部屋はファルダス国王が探しにくる可能性が高い。


「……わかった。とりあえず私の部屋へ行こう」

「ありがとう」


 ギルベルトの後に続いてギルベルトの部屋へ入った。




「シャルル……じゃなくて……」

「……メイシャルです」

「メイシャル……手当は……?」


 前がはだけたときに切られた胸の傷が見えたのだろう。


「いらない。そんなに深くないから」

「わかった。とりあえず、洗面室にある手巾使って良いから血液を綺麗にして、私の服だけど、着替えておいで」


 メイシャルはコクリと頷き洗面室へ移動した。


 着替えて出てくれば、ギルベルトはすぐさまメイシャルに尋ねた。


「どういうことか聞いても?」


 もう隠しきれない。正直に話すしかない。


「ええ、ちゃんと話すわ」


 シャルルと長兄の王家の力は伏せたまま、アマリアでの内乱でシャルルと入れ替わる必要があったことを説明した。


「内乱のことは知っている。もうすぐ収束するはずだ」

「えっ!? だって半年から一年はかかると……」

「その辺は私はあまり詳しくないからコートに聞くといいよ」

「コートに?」

「で? 君とシャルル王子との入れ替わりのことはわかったけど、何故君は王宮内であんな格好になっていたの?」


 これもどこまで話すべきか。


「……ファルダス国王に……」

「はっ!!? 父上にやられたのか!! 何故? 逃げる術はあっただろう」


 ギルベルトはメイシャルを問い詰める。

 逃げる術とはメイシャルの王家の力のことを指している。


「同盟を……。不平等な同盟をなんとかしたかったの」

「ああ、支援金のやつか」

「そう。アマリアはあんなお金の受け取り許可してない! ファルダス国王が王家の力を使ったの!」

「なんか上手くいきすぎているとは思っていたが、そういうことね……」

「支援金の返還も何度掛け合っても良い返事はもらえない」

「父上はどうしてもアマリアより優位に立ちたいみたいだしね」

「だから、支援金返還の申請書に判を押させようと思って──」

「──王家の力を使った?」

「……そう。私の王家の力は従属。相手のフルネームを言えば一分程度は私の命に従う。だから私はファルダス国王の名を呼んだの……でも……」

「フルネーム……名前が違った?」

「……そう」

「そうか。一般には知られていないけど、我が国では王位を継ぐと中間名が付け加えられるからね。父上の正式な名前はわたしも知らないんだ」

「名前が間違っているなんて考えもしなかった。本当に私は浅はかだった……。どうしよう……」


 メイシャルは俯いて、両手で額を押さえた。


「メイシャル……君のしたことは良くないけども、私は父上のやり方も良いとは思っていない。同盟のことは私がなんとかするから、君はこれ以上手を出すな。危険すぎる」

「ギル……」


 メイシャルはギルベルトの頼もしい発言に目元が緩んで、涙を溜めた。

お読みいただき、ありがとうございました。

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