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3 隠れたい王女

 翌日、ギルベルトは昨日の少女を探した。

 授業後に一年生のフロアへ行き、一番にアマリアの王女、メイシャルを探すことにした。


 あのときギルベルトは自分の意志とは違い、勝手に言葉を発してしまった。王家の力が関係しているのではないかと考えた。

 また、少女から問われた内容もメイシャル王女に関する内容だったから、昨日の少女はメイシャルであると確信していた。


 ギルベルトが一年生のフロアへ行くだけであちこちで黄色い声が飛び交う。入学してからずっと学園で持て囃されてきたギルベルトは気分が良くなった。


「ちょっと、ごめん。アマリアのメイシャル王女ってどこにいるかわかる?」

「きゃっ! ギルベルト様! あっ、はい。メイシャルさんは一番奥の後ろの席で、今鞄を持って席を立とうとしている方です」

「ふぅん。アレがメイシャル王女……」


 ギルベルトはメイシャルの姿をまじまじと眺めた。


 ――似ているけど違うか……。瞳の色は同じだが、瞳の大きさも髪色も少し違う。第一、昨日と雰囲気が全く違う。メイシャル王女は王族の割に平凡な地味顔。あの少女はメイシャル王女ではなかったか……。まぁいい、一応挨拶くらいしておくか。




 一方、メイシャルは綺麗なアメジストの瞳は瓶底眼鏡で隠し、艶のあるプラチナブロンドの髪は灰を混ぜた香油でくすんだ色にした。そして豊かな髪はぴっちりと一つに纏めて、シニヨンを作り、地味な装いで自身の存在を隠すようにした。


 出来るだけ、ギルベルトの目に触れたくなかった。ギルベルトには負け惜しみであんな啖呵を切ったものの、子供っぽいと馬鹿にされて傷ついていた。

 派手で大人っぽい女子生徒を引き連れている彼を見ると、傷ついた心がさらに抉られる。



 元々メイシャルは視力が悪く毎日分厚い眼鏡をして過ごしていた。分厚すぎる眼鏡を通して見えるメイシャルの瞳は二回りほど小さく見え、そのせいで華やかな装いが似合わず、毎日地味な装いで過ごしていた。


 だが、学園に入学してからは最近開発された一時的に視力を上げる魔法薬を飲んで、眼鏡を外し出来るだけ綺麗だと言ってもらえるような姿でギルベルトの前に出たいと努力を決意した。

 しかしそれも無意味だった。努力の甲斐なくギルベルトにはプライドを粉々にされた。



 ――会ったこともない人に勝手に憧れて好きになって、本人に会って、想像していた人とは違って、傷つくなんて馬鹿みたい……



 そう思っていても、手紙の件は許せなかった。自分の婚約者を人任せにして、期待を抱かせた。

 何もしないでいてくれたら、ただの政略結婚だと期待なんてせずに済んだのに。

 アマリアとファルダスの同盟にはメイシャルとギルベルトの結婚が絶対条件だ。

 せめて学園で過ごす三年間は彼とは関わらず穏やかに過ごしたい。そう思った。



 それなのにメイシャルの目の前にギルベルトが現れた。


「初めまして、メイシャル王女。やっと会えたね」


 メイシャルは昨日の出来事を咎められるのではと一瞬ドキリとした。

 だが、ギルベルトは「初めまして」と言った。


「初めまして、ギルベルト様。アマリア王国、第三王女メイシャルでございます。ご挨拶にも行かず申し訳ございません」


 メイシャルは平然を装って挨拶をした。


「いいや、構わないよ。新入生は色々と忙しいでしょう。私と君は婚約者同士で、私は学園の先輩だ。何か困ったことがあればなんでも相談してくれ」


 ギルベルトが婚約者という単語を出したとき、室内がざわついた。


「わざわざありがとうございます。すみません。せっかくお声がけをいただきましたが、この後予定がありますので、これで失礼させていただきます」

「ああ、話ができて良かったよ」


 メイシャルは急いで教室を出た。



「メイシャル!」


 出てすぐに呼び止められ、振り返ると双子の兄のシャルルだった。

 廊下を歩きながら話をする。


「メイシャル、あんなにキャーキャー騒いでいた、愛しの王子様が声かけてきたのに、あんな素っ気ない態度で良かったのか?」

「良いのよ。あんなチャラ王子……」

「昨日、何かあった?」

「あった。でも言いたくない」

「ふーん。昨日はもっと可愛くしてたのにまた地味な格好に戻っちゃったのは昨日何かあったせいか?」

「そうよ」

「視力回復の魔法薬たくさん持ってきたのに、せっかくのお前の綺麗な顔が眼鏡で台無しだ」

「私と全く同じ顔で綺麗な顔って言われても、ナルシストの自賛にしか聞こえないわ」

「まあ、元気そうだからいいか」


 メイシャルは元気そうに振舞っているだけだ。


 ギルベルトに会って、また傷が抉られるのではないかとビクビクしたが、特に嫌なことを言われることもなかった。それでもギルベルトの顔を見ると昨日のことが思い出され、頭からそれを追い出そうとメイシャルはきつく拳を握って頭を振った。



「シャル……つらいことがあったら言えよ。僕はお前の兄だ。僕がお前を守ってやるから」

「ふふふ、ありがとう。ルル。頼りにしてる」



 ずっと一緒に育ってきた兄のシャルルはとても妹想いだった。メイシャル自身も兄に大切にされている自覚はある。

 とはいえ、学園では履修している授業も違えば、男女で寮が違う。いつまでも兄に頼りきりというわけにはいかない。


 「頼りにしてる」と言いつつも、もっと自分で頑張らなくてはとメイシャルは気合いを入れた。



     ◇



 昨日ギルベルトの方から声をかけてきたので、また声をかけられたら嫌だなぁと鬱々とした気持ちで廊下を歩いていたら、正面からたくさんの取り巻きを引き連れて、ギルベルトがやってきた。


 大人っぽい美貌の王太子はすごく目立つ。ギルベルトの周りはキャアキャアと黄色い声が飛び交っている。


 メイシャルは廊下の端に寄り、軽く頭を下げた。


 ギルベルトはメイシャルを注視していた。そして通り過ぎるころにようやく視線を前に戻した。


 ――すごい見られたけど、話しかけられることはなくて良かった。


 ギルベルトを見るとまだ胸がズキッと痛んだが、吹っ切るように前を向く。あんな男に感情を左右されたくない。



 その日の授業はシャルルと被っているものはなく、教室に一人で席に着いた。目立たないよう隅の方に座ったが、何となく嫌な視線を感じる。


「ほら……アレがギルベルト様の……」

「えー、あれで王女? 地味ダサじゃん。ギルベルト様可哀想」

「政略結婚らしいわよ」

「王女なんて身分だけでギルベルト様と結婚できるなんて羨ましい」


 昨日のギルベルトの婚約者発言が広まって、メイシャルは意図せず嫉妬の対象となってしまった。



 しばらくの間はヒソヒソと嫌味を言われる程度だった。


 学園で友達でも作れたらと思っていたが、そんな状態のメイシャルに声をかける人物はいなかった。

 メイシャル自身も、相手に迷惑をかけるのが分かっていたから、友達作りは諦めた。

お読みいただき、ありがとうございました。

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