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29 王家の間

 四人が中に入るとすぐ二筋道になっていた。


「どっちに行く?」

「二手に分かれるか」



「私はさ、やっぱり婚約者のいる身だから、ユルティナ嬢と二人きりになるのは良くないと思うんだ。だから、ここはシャルルと私がペアで進んで──」

「──兄さん? シャルもユルティナ嬢も先に右の道行っちゃいましたよ?」

「えっ?」


 二手に分かれると聞いてすぐにユルティナはメイシャルの腕を掴んで右の道を進んでいた。


「仕方ない……コート、左へ行こうか……」

「……ええ」



 ギルベルトとコンラートは二人で細い道を進む中、コンラートは気になっていたことを口にした。


「兄さん……さっきの扉って王家の力がないと入ることが出来なかったんじゃないんですか?」

「ああ、そうだと思った。実際コートニーは入ることが出来なかったし」

「てことは、兄さんも王家の力を持っているんじゃ……」

「私もね、なんとなくこれじゃないかと思うことがあるんだ」

「それは……」

「あのさ、コート。こないだ父上と食事した時のことを覚えているかい?」

「食事? ええ、シャルと一緒に」

「そうそう、それ!」

「父上がさ、シャルルの前で私たちの血筋が悪いって貶めたの覚えてる?」

「えっ? そんなこと言ってなかったと思うけど……」

「……だよね」


 ギルベルトはここで自分の力をなんとなく理解した。

 先ほどの壁画にも絵ではわかりづらいが、古代文字でそういった力についても書かれていた。


「ん? 兄さん?」

「なんでもない。忘れてくれ」



 どんどんと細い道を進むとまた一つの扉に当たる。

 今度はなんなく開けることが出来た。


 扉を開けた先には大きく開けた間があって、そこにはメイシャルもユルティナもいた。


「シャル! ユルティナ嬢も! 一本道だったか?」

「うん、一本道だった。そっちも?」

「ああ! 結局同じ場所に繋がるように出来ていたんだな」


 開けた間には黄金で出来た竜の形をした置き物が大量にあった。埃をかぶって古びているが、価値のあるものには違いない。


「すごいな、ここ。王家の間ってところかな」

「これだけ竜の置物があると、古代には本当に竜がいたんだと……そして、俺たちの中にも竜の血が巡っているのかと思うよな」

「案外本当のことかも知れないね。で、ギル? ここまで来たけど、どうする?」


 これより先はなく、この部屋がこの遺跡の最奥となっていた。


「まぁ、本来は立ち入るべき部屋ではないから、ここの部屋のことは論文には記述しないようにしてくれると助かるかな」

「うん、わかったよ」

「じゃあ、コートニーのところまで戻ろうか」


 帰りは四人で同じ道を通りコートニーと合流した。コートニーにも奥の部屋に入ったことは内密にするように指示をして、遺跡を出た。


 遺跡を出るとすっかり暗くなっていた。

 予約していた近くの宿に移動して、夕食にした。



     ◇



「ここの食事、とっても美味しいじゃないか! こういった店は初めてだし、初めて見る料理ばかりだが、どれも美味しい!」


 ギルベルトがいつもの大人っぽい雰囲気を崩して、子供のように瞳をキラキラさせて料理を頬張る。


「こ、これはどうやって食べるのでしょう?」


 ユルティナはナイフとフォークを手に骨付きの鶏肉と格闘していた。


「ねーちゃん! これは手で持って食べるんだぜ!」


 隣のテーブルから見知らぬ中年男性が声を掛けてくる。


「手で?」

「こう食うんだ!」


 その男性は片手で骨付き肉を持ち、ガブリとかぶりつき食べ方の見本を見せた。


「こ、こうかしら?」

「おっ! 良い食いっぷりだ!」


 ユルティナの食べる様子を見て満足げにそう言った。


「シャル! これも美味い。お前の分も切り分けてやるよ」

「ありがとう! 本当、美味しい!」


 宿屋兼酒場の女将がやってきた。


「あんたたち、やたら上品な客だから、こーんな田舎くさい店、嫌味の一つでも言ってくるかと心配してたけど、美味しそうに食べてくれて良い客じゃないか! これはサービスだよ!」


 恰幅の良い店の女将は麦酒をなみなみと注いだ大きなジョッキを人数分、ドンとテーブルの真ん中に置いた。


「ありがとうございます! こんな美味しい料理を出してくれるお店に嫌味なんて言いませんよ!」


 ギルベルトは女将に愛想よく応える。


「遺跡から近い町に貴族向けの料理店がなかったから、殿下をご案内するのはハラハラしたけど、正解だったみたいですね!」


 宿屋の予約を取ったコートニーは、自分は騎士団の遠征などで、大衆食堂や酒場の料理に慣れていたが、高貴な彼らの口に食事が合うか心配していた。


 一般人との交流についても心配だったが、四人とも高圧的な態度をとることもなく、相手を尊重するような振る舞いをしてくれてホッとしていた。


「貰ったはいいが、私、麦酒って初めて飲むよ」

「えっ、兄さん麦酒飲んだことないんですか?」

「晩餐や夜会ではワインばかりだし、王宮で用意される夜酒はウィスキーなんだ」

「そうか、王宮じゃ麦酒は出ないか」


 コンラートは騎士団の訓練終わりに酒場へ行くことがあったので、麦酒は飲み慣れていた。


「あ、シャルは飲むなよ。俺が代わりに飲んでやるから」

「う、うん、ありがとう」


 ユルティナが麦酒のジョッキに手を伸ばす。


「わたくしでも飲めるかしら?」

「ユルティナ嬢も無理そうなら、俺が飲むから無理して飲むなよ」


 ユルティナが恐々と一口、麦酒を口にするが、無表情でコンラートにジョッキを差し出した。


「コンラート殿下、ごめんなさい」


 ユルティナは美味しくない顔をしては失礼だと思い必死に苦味を堪えていた。


「いいよ。これくらいは俺も飲めるから」


 コンラートの前にあった麦酒は大ジョッキ三つになった。


 ギルベルトも麦酒に手を伸ばし一口飲んだ。そして、ニコニコとした笑顔を崩さずに言う。


「コート! そんなに麦酒が好きならお兄様の分も君にあげよう!」

「え゛?」


 コンラートの前にあった大ジョッキは四つに増えた。

 そして、よく見るとギルベルトの手にはワインがあった。


「ちょっと、兄さん? 自分はちゃっかりワイン頼んでるし……」

「やはり私にはこっちの方が合うかな」


「コート……言いづらいのだが、私も護衛という立場上、これを飲むわけにはいかなくて……」


 コートニーもすーっと自分の麦酒をコートニーの前に差し出した。


「え゛……、そうなるとあっちの護衛の人たちに……」


 別のテーブルに座っていた護衛たちをチラッと見た。


「飲んでもらうわけにはいかないな……」


 コートニーがコンラートの台詞の続きを言った。

 コンラートは目の前の五つの大ジョッキを見て深くため息を吐いた。


「コート、やっぱり僕は自分の分は飲むようにするよ」

「いや、シャルは絶対飲むな! まあ。五杯くらいならいけるか……」


 コンラートが目の前のジョッキに必死になっていると、ギルベルトとユルティナが他の常連客と見られる男性たちからニコニコと麦酒の入ったジョッキを受け取っていた。


「すまない、コート……」

「ごめんなさい、コンラート殿下……」


 二人が受け取ったジョッキをコンラートに差し出した。


「ちょっ、なんで受け取るんです!!?」


 目の前のジョッキが七つに増えてコンラートは焦った。


「だって、好意を持って奢ってくれているのに断るなんて出来ないだろう!」

「自分で飲まないなら断ってくださいよ!!」

「今さら断ったり出来ないよ」


 かといって、残すのも失礼だ。通常なら七杯くらいの麦酒なら飲めなくもないが、この店のジョッキは通常よりも大きすぎた。





「うぅぅ……なんとか飲んだぞぉ……」

「コート、お疲れ様」

「もう酒はいらんー。部屋……部屋に戻りたい」


 コンラートはすっかり酔ってしまっているのかキリッとした綺麗な顔の表情は緩んでいて、顔も赤く瞳も潤みきっていた。


「あっ、僕が連れてくよ。行こう! コート!」


 メイシャルがコンラートの腕を引いたが、ぐでんぐでんに酔っているコンラートはメイシャルでは持ち上げることが出来なかった。


「シャルル王子! 私が連れて行きますから! 立て! コート!」

「シャルと部屋に戻るからいい」

「我儘を言うな」


 コートニーが強引にコンラートの腕を肩に回して担いだ。


「シャル……みず……」

「あっ、じゃあ、僕は女将さんから水もらったら部屋に持っていくから」

「すみません、シャルル王子……よろしくお願いします」

お読みいただき、ありがとうございました。

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