28 テーレグロッサ遺跡
遺跡には三連休を利用して行くことにした。
移動で丸一日取られる為、遺跡の調査は一日で行う。
ファルダスの奥地にあるため、護衛をつけて馬車で移動をする。もちろん護衛の一人にコートニーも含まれていた。
そして、ギルベルト、コンラート、ユルティナ、メイシャルは目立たないよう、町人に扮した格好をしてお忍びで王都を発ったのだが、コートニーは四人を見て言った。
「顔がキラキラしすぎていて、全く忍べていませんね」
所作の綺麗な美形な王族が並ぶと圧巻だった。
どんな質素な服を身につけていても、内面から滲み出る高貴な様は隠せていない。
「王族だとバレたところで問題はないさ。悪さをするような輩がいれば、君がなんとかしてくれるんでしょう?」
「余計な悪さをするような者を出さないためにもしっかり忍んでください」
「それもそうだね」
ギルベルトは顔を隠すためにも眼鏡をかけた。
だが、優美な佇まいに知的な雰囲気がプラスされて、余計にキラキラ感が増していた。
「ギルベルト殿下、さらに目立つので、余計なことをしないでください」
「そう?」
コートニーに注意されて、ギルベルトは眼鏡をかけるのは諦めた。
「シャルのその格好もヤバいな」
町の少年のような、簡素なシャツとズボンにハンチングを被っただけなのだが、顔が綺麗すぎてかえって危険な気がした。
「シャル、絶対に離れるなよ。こんな綺麗な顔した少年が町をうろうろしていたら、誘拐されそうだ」
コンラートが言うと、皆がうんうんと頷いた。
メイシャルの変装にはそういう危うさがあった。
「僕だってみんなに迷惑をかけたいわけじゃないから、ちゃんと離れずに一緒に行動するさ」
「ああ、心配になるから絶対に離れるな!」
ユルティナはシンプルなワンピースに豊かな金髪は纏めて簡単に結いあげ眼鏡をしていた。
「ティナは……なんていうか、よく似合っているんだけど……こういうマナー講師、王宮に出入りしていたよね」
皆が口を揃えて「いたいた」と言う。
「いや、本当よく似合っているよ! ユルティナ嬢はもともと華やかな美人だから、そういうシンプルな格好も悪くない!」
ギルベルトが明るくユルティナを褒めるとユルティナは満更でもないような顔をして笑った。
一日目はほとんど馬車で過ごし、夜には遺跡近くの宿に一泊した。
そして、二日目の午前中に目的の遺跡に到着した。
「とりあえず、午前中は遺跡の隣にある資料館で遺跡について調べて、遺跡の中に入るのは午後からにしよう」
ギルベルトの指示で皆が各々調べたいものを見て回る。
資料館には遺跡に関する書籍以外にも、遺跡から見つかった宝物や石像などの展示もあり、興味深いものもたくさんあった。
「この石像って、口から火が出ているように見えるけど、昔の王家の力はそんな力もあったのかな?」
「ないとは言えないよ。言い伝えでは、我々の先祖が竜の血を飲んだことによって、不思議な力を手に入れたと言われているんだ。昔は火を吹く竜くらいいたんじゃないかな?」
メイシャルの素朴な疑問にギルベルトは自分の考察も交えて応えてくれた。
「こういう火を吹く力みたいな、目で見てすぐわかるような力が失われていったから、皆、王家の力は過去のもの、おとぎ話のものと思うようになったのではないかな」
「なるほど」
王家の力は王族では当たり前のように意識する力であるが、下級貴族や平民にはあまり知られていない。知っているのは王族と王家と繋がりのある高位貴族だけだ。
それも、王家の力の有無や内容は秘匿とされるので話題にも出さないため広まることもない。
「混乱や恐怖を与えないためにもこんな力なくて良いのにな……」
メイシャルはふと思ったことを口にする。
「強大な力を持っていて、尚且つ力を乱用しているような君が、力を持たない私に言うことかな?」
「あっ、ごめん……」
「ふふふっ、いいよ。今更気にしていない」
「でもさ、不思議に思っていたんだけど、ファルダスではどうやって王家の力を持つことを判別するんだ?」
「ああ、それは先代の王である祖父上が王家の力の有無や能力を見ることが出来るんだよ」
「へぇ……」
「王家の力は生まれて半年くらいで覚醒するだろう? だからその頃に祖父上に見てもらったんだ」
メイシャルは父王と同じ能力だと心の中で思った。
「今は隠居してしまったから余程のことがないと会う機会もないけどね」
「そっか」
「さあ、そろそろ昼食にして、食べたら遺跡の中に行ってみようか」
「うん! 楽しみだ」
◇
昼食を終えて、遺跡の中に入るが、護衛全員を連れて行くには大所帯なので、護衛はコートニーだけにした。
午前中には観光客もそれなりにいたが、午後からは人はめっきり減っていた。
「これがティナの気にしていた壁画だね! さすがに寝ている人を起こすような絵は描かれていないね!」
「やっぱりないですか」
「他にはどんな力があるんだろうか?」
「見てみましょう!」
「これは……? 倒れている? 絵だけじゃわかりづらいなぁ」
横に古代文字で何か書いてあるが、流石に古代文字はわからない。
「相手を気絶させる力みたいだよ」
「ギルは古代文字が読めるのか!?」
「少しだけね」
「さすが王太子だね。よく学んでいる」
メイシャルは期待するような目をコンラートにも向けた。
「コートも読めるのか?」
「俺の専攻は基本的には騎士学なんだ」
「読めないってことね」
読めないのが普通であって読める方がすごいので問題はない。
「ギル! これは?」
「これは相手の時を止める力みたいだよ」
メイシャルは長兄であるアマリアの王太子の王家の力を思い出した。
そして、ユルティナが食い入るようにその壁画を見る。
「これって、どのくらいの時間を止められるとかあるのでしょうか?」
ユルティナが尋ねた。
メイシャルの長兄も相手の時を止める、時間停止の力を持っている。長兄の場合は力が強すぎて、何もしなければ相手の時間は永遠に止まってしまう。
そのため、長兄が力を使う際にはシャルルが必要なのである。
シャルルの王家の力は制御だ。他の人物の使った王家の力を制御する力を持っている。
長兄が相手の時間を止め、シャルルが制御して相手の時間が動き出す。
長兄はシャルルがいない時には不用意に力を使うことができない。
「うーん、止められる時間に関する記述はないね」
「そうですか」
その他にも初めて聞くような王家の力がたくさんあり、壁画の観察は興味深いものだった。
奥まで入ったところで、一つの扉に当たる。
コートニーが開けようとしたところ、扉はびくともしなかった。
「ん? 何か書いてありますね? すみません、ギルベルト殿下読めますか?」
ギルベルトが扉に近づいて文字を読む。
「この先は、王家の力を、持つ者のみが、進める。かな?」
「そうですか。では遺跡の散策はここまででしょうか」
コートニーが踵を返したそのとき──
ギルベルト、コンラート、ユルティナ、メイシャルの足元が青白く光った。
「えっ?」
そして、開かなかったはずの扉が自然と開いた。
「ん? 入っていいってことかな?」
ギルベルトが躊躇いもなく中に入った。
「あっ、ちょっと殿下!」
コートニーがギルベルトを追って中に入ろうとすると見えない壁に阻まれる。
「えっ、行けない……」
コンラート、ユルティナ、メイシャルがギルベルトの後に続くと問題なく中に入ることができた。
「えっ、私だけ行けないのですか?」
「トニー、残念だけど、お前そこで留守番しててくれ」
「ええっ!? コート! 危なくないか?」
「何言っている。俺たち以外入ることが出来ないんだから逆に安全だろう!?」
「た、確かに……。で、ではここで待っているから」
「ああ、早めに戻るよ」
コートニーを残して、四人はさらに奥へと進んでいった。
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