25 今後のこと
メイシャルはコンラートの部屋を出て、誰もいない談話室でひとりで考えていた。
ギルベルトにはメイシャルとシャルルの入れ替わりを知られていないため、シャルルの状態のままメイシャルの王家の力の説明をしたが、本当にそれで良かったのか。
王家の力で殺人未遂を犯した。シャルルとして捕えられてシャルルとして裁かれれば、シャルルに迷惑がかかる。
また、メイシャルであることを打ち明けてメイシャルとして裁かれたとしても、なぜシャルルと入れ替わっていたのかと追求されれば、やはりシャルルに迷惑がかかる。
いずれにしても確かなのは、メイシャルはアマリアにとって致命的な事件起こしてしまったということだ。
アマリアは、シャルルは、自分はこの先どうなってしまうのか、不安を抱えながら王子二人の結論を待っていた。
そこで談話室の前をコートニーが通り過ぎる。
メイシャルがコートニーの姿を見かけて慌てて追いかけて声をかける。
「コートニー!」
「え?」
ずっとコンラート王子と呼ばれていたのに、いきなり実名で呼ばれてコートニーは驚いて振り返る。
「あっ、シャルル王子……ん? 何故コートニー?」
「ああ……君たちの入れ替わりのことを聞いたんだ」
「バレちゃったんですね。騙していてすみません」
「いや、こちらこそすまない」
「ん?」
何がすまないのだろうとコートニーは不思議そうな顔をする。
「それより、身体の調子はどうだ?」
「ああ、そうそう。さっきまでシャルル王子の部屋にいたはずなのに起きたら自室でびっくりしました。身体はすこぶる快調です」
メイシャルはホッとした。
「でもなんで私は自分の部屋で寝ていたんでしょう?」
メイシャルは言葉に詰まる。どこまでどう説明するべきかと悩んでいると、綺麗な服に着替えたコンラートが呼びきた。
「あー、いたいた、シャル! あっ、トニーも起きたのか!」
「コート! 気が付いたら自室で寝ていてびっくりした。一体何があったんだ?」
「お前、突然倒れたんだよ。働きすぎなんじゃないか?」
「え!? いや……まぁ、確かに昨日の夜はシャルル王子を送り出した後、騎士団にいって夜間訓練に参加してたから、多少寝不足ではあったけど……」
コートニーは倒れるほど疲れていたかなと首を傾げた。
「訓練もほどほどにしろ。今日は部屋で寝てろよ! それより、シャル、良いか?」
「……うん」
メイシャルはコンラートの後ろに続いて先ほどのコンラートの部屋に戻る。
「シャルル。君の部屋なんだが、さっき掃除屋に見積もってもらったら、絨毯の張り替えと壁紙の張り替えが必要で綺麗な状態へ戻すのに三週間はかかるらしい」
「へ?」
なんの話だ。
「その間、部屋が使えないわけなんだが──」
「ギ、ギル!! 待ってくれ! 僕の処分のことではないのか?」
「処分? なんのこと?」
「いや、だって……僕がコートニーを……」
「コートニーは過労と寝不足で倒れたんだろう? さっきコートからそう聞いたよ?」
メイシャルがコンラートを見ると、コンラートは目を合わせて大丈夫とアイコンタクトをして頷いた。
「というか、そういうことにしてもらわないと、私とコートにも都合が悪いんだ」
「都合が悪い?」
「ああ! 私たちはシャルルの能力のことは何も知らない。だから、君もコートの能力については知らないことにしてくれ」
「……それで……いいのか?」
「そうしてくれと頼んでいる」
「……ああ……ありがとう……」
メイシャルは極度の緊張状態から、ようやく力が抜けて床にぺたんと座り込んだ。
「シャルル! 話は終わりじゃないよ? 問題はここから! 汚した部屋を綺麗にするのに三週間部屋が使えなくなるわけだが、残念ながら今この寮は満室で空き部屋がないらしい。他の寮へ移動する手もあるが、ここの寮ほど高位貴族向けではないため、他の寮では他の学生と相部屋になる」
「相部屋……」
「ああ、シャワーもトイレも兼用で、同じ部屋で他の男子学生と寝起きすることになる」
「ダメだ!! 他の寮なんて絶対ダメだ!!」
メイシャルが知らない男と部屋を共にする想像をしてしまって、コンラートは大きな声で割って入った。
「まあ、私もそれはお勧めしない。君は王子だし、それなりの部屋で過ごすべきだと思う」
部屋はどうでも良いが、他の男子学生と一緒の部屋というのは女のメイシャルにとっては不都合が多い。
「では、どうすれば?」
「王宮の賓客室を用意するから、そこで過ごしなよ。私も王宮に暮らしているから、朝は一緒に馬車で大学に登校し、帰りも一緒に馬車で下校しよう」
「それはもっとダメだ!!」
ギルベルトにはメイシャルに突然キスをした前科がある。ギルベルトと二人きりになる機会を与えるようで危険だ。
「コート! ではシャルルにどうしろと言うんだ?」
「……俺の部屋に来ればいい」
「えっ!? コートの部屋に……?」
「俺の部屋なら他の相部屋をするような寮よりも部屋は広いし……」
コンラートもおかしなことを言っている自覚があったため、最後の方は声が小さくなっていった。
コンラートと一緒に寝起きする……メイシャルはつい昨夜の出来事を思い出してしまい、顔を赤くした。
二人きりで夜を過ごすなんて絶対まずい。
メイシャルは昨夜、コンラートに「欲しい」と言ってしまった。
誠実なコンラートが何かしてくるとは思えないものの、メイシャルはあらぬ期待をしてしまいそうで、絶対に良くない。
メイシャルはいずれギルベルトと結婚する身だ。コンラートに恋をするなど不毛すぎる。
「ギル……王宮でお世話になってもいいか?」
ギルベルトは勝ったと言わんばかりのしたり顔でコンラートを見た。
コンラートは悔しそうに歯噛みした。
「ごめん、コート。ありがとう」
メイシャルはコンラートに向かってふわりと笑うと、コンラートのささくれ立った気持ちは少し落ち着く。
「何かあったらすぐに言えよ!」
「うん。ありが──」
「何かなんてないさ! さぁ、君の新居へ引っ越しをしよう」
コンラートにお礼を言おうとしていたメイシャルにギルベルトは被せるように話しかけ、強引に肩を抱き部屋を出ていった。
「あ、コート! また学校で!」
「ああ、……またな」
ギルベルトはチラッと振り返りコンラートを見て得意そうな顔をした。
「くそっ……」
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