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23 コンラートの過去③

 それからすぐのことだった。腹違いの兄、ファルダス王国の王太子ギルベルトとアマリア王国第三王女メイシャルとの婚約の話を聞かされた。

 仕方がないことだと思った。コンラートは王子であっても、王にはなれない。自分では彼女を王妃にはしてあげられない。だから諦めるしかない。



「コンラート、お前もそろそろ婚約者を決めよう。こちらで候補を選んでも良いが、それなりの身分の者なら学園内で探しても──」

「嫌です!」


 思わず本音を口走ってしまった。

 彼女以外の人と結婚するくらいなら一生独身の方が良い。


「ん? 何故だ?」

「私は結婚などしたくありません」


 口から出てしまったものは仕方ない。


「……女性が好きではないのです」


 正確には()()()()()()()()女性が好きではない。


「女嫌いか。……まあ良い。だが、婚約者がいないとなると王子妃の立場を狙った者たちが寄ってくるぞ。学園生活では特に……。婚約者を決めておけば寄ってくる者たちへの牽制になるが」

「好きでもない女性とは結婚したくないのです」

「そのうち気が変わるかもしれぬから、今はそれでも構わんが、お前もいずれは王弟となる立場だ。その権力を狙って寄ってくる者たちが絶えないぞ。学園では特にだ。それはどうする?」


 コンラートは無理を承知で言ってみた。


「……身分を偽ってはいけませんか?」

「……面白い。学ぶことさえできれば構わん。学園へは話を通しておこう」

「ありがとうございます」

「ギルベルトはやりすぎだが、女嫌いなのも困ったものだな」


 コンラートを女嫌いだと勘違いしたが、彼女以外は好きになれそうにないから、あながち間違いではないかと思った。


 こうして、父王はコンラートの意見を汲んでくれた。


 父王は決してコンラートを蔑ろになどしない。過去に一度怒りを買って王宮を追い出されはしたものの、世話になっていたリーベント子爵家へ養育費を出してくれていたし、騎士になりたいという想いも認めてくれている。


 ユリエルが毒殺されたお茶会での不気味な父は忘れられないが、それ以外は普通の父親だと思えた。



「はあ!? 私とコートが入れ替わる?」

「ああ、トニー、頼む!」

「悪いが他の者に頼んでくれ」

「恩返し……」

「……それをここで使うか」

「ここで使わずいつ使う?」

「普通に偽名で入学すれば良いだろ?」

「すでに第二王子が入学するって連絡が入ってて、噂が広まってしまったんだ。誰かが第二王子役をやらなきゃいけない」

「私には何のメリットもなくこんな役をやらされるなんて……」

「トニー! いずれお前は騎士団の重要ポストで使ってやる」

「コート、お前のことずっと王子らしくないやつだと思ってきたけど、ここにきて王子らしい我儘を言うなんてな……。将来絶対に王弟の身分振りかざしまくってでも、騎士団を統率する立場に就けよ!」

「任せておけ」



 こうしてコンラートとコートニーは入れ替わって入学することになった。


 国王は騎士団とコンラートを知る者たちへはその旨を通達し、入学前に根回しをしてくれた。

 もともと公の場に出ることのなかったコンラートだから根回しも簡単だった。



 そして、入学前の学園見学の際に嫌な噂を耳にした。

 ギルベルトが学園で色んな女子生徒に手をつけているというものだった。


 ギルベルトとは王宮内で顔を合わせることはあるもののほとんど話をしたことはなかったが、腹が立って直接抗議をした。


「兄さん! 婚約者がいるのに、学園で他の女子生徒に手を出していると聞きました! それでは婚約者の王女があんまりではありませんか!」

「コート、私とアマリアの王女様は政略結婚だ。そこに愛など存在しない。王族の結婚なんてそんなものさ」

「だとしても、婚約者の王女様を蔑ろにするようなことは避けるべきだ」

「コート、今父上から最も期待をされている人物は誰だか知っているかい?」


 そんなものは王太子であるギルベルトに決まっている。


「アマリアの王女様だよ」

「!?」

「ずっと昔から父上は私には何の期待もかけていない。ユリエル兄上と比べられ、血筋が悪いと言われてきた。君も言われたことがあるだろう?」

「……」


 コンラートは応えられなかった。父王から、そんな自分の力ではどうしようもないことを言われたことはなかった。


「父上は私なんかよりずっと血筋の良いアマリアの王女様に期待をしている。でも学園では誰もが私に期待してくれる。私はみんなの期待に応えているだけだよ」

「で、でも──」

「蔑ろになんてしないさ。ただ、関心を持つ気もないけどね」


 どうやら兄の意識を変えるのは難しそうだった。

 そして、なぜ兄だけ父から血筋のことを悪く言われるのだろうか疑問が残った。


 兄の婚約者の王女メイシャルも兄と同等の思いであれば、王族はそういうものだと片付けるしかないと思った。



     ◇



 入学式で久しぶりに見かけた王女メイシャルは美しく成長しており、諦めようとしていたコンラートの胸を抉る。

 しかも、聞こえてくる双子の王子シャルルとの会話を聞く限りではギルベルトに恋をしているようだった。



 ――なんで、あんな不誠実な男に……


 ギルベルトに嫉妬したコンラートは浅はかな行動を取ってしまう。



 ギルベルトがいつも女子生徒を抱いている場所は知っていた。

 だから事前に鍵を開けておいた。


 不貞を働くギルベルトに幻滅してしまえばいい。

 そのままの勢いで婚約破棄してしまえばいい。


 そんな醜い気持ちを抱えてメイシャルに声をかけた。



 すぐにギルベルトの下へ向かい、涙目で部屋を出ていくメイシャルを見て胸が痛んだが、これで婚約破棄をしてくれるだろうと思った。


 だが、いつまで経ってもメイシャルに婚約破棄する様子は見られなかった。

 学園内でどんな嫌がらせを受けても国へ帰ることはなかったし、婚約破棄もしなかった。


 本当に浅はかだった。


 メイシャルは同盟のため、国のためにギルベルトと婚約をしているのだから、自分の感情だけで婚約破棄なんてするはずがないのだ。

 コンラートがギルベルトの不貞行為を見せたのは、ただただメイシャルを傷つけただけだった。


 罪悪感を打ち消すようにメイシャルが困っていたら手助けした。

 とはいえ婚約者でも何でもないコンラートが手を出しすぎるのも揚げ足取りが大好きな貴族令嬢達に男好きなどと言われる話題を提供するようで、本当に困っている時にしか助けてあげられなかった。



 そのうちに同学年で同じ帝王学コースを選択しているシャルルと話をするようになった。

相手は王子だから話しづらいことも多く深い関係ではなかったが、気安く会話できるくらいには仲良くなった。



 そして大学に入学して一日目のことだった。何か今日のシャルルはおかしいと思っていたらメイシャルと入れ替わっていた。


 ――何のために?


 何か隠したいことがあるのだろう。探るにしても、慎重になる必要がある。




 シャルルに扮するメイシャルは無防備すぎた。


 初日から目の前でギルベルトに唇を奪われているのを見て、兄に向かって殴りかかりそうになってしまった。



 学園では守ってあげられなかった。今度こそ守ってやる。絶対に……何があっても……。



 そうはいっても、コンラートとコートニーと立場を入れ替えて大学生活を送っている以上、メイシャルにも入れ替えがバレてしまうような行動をとるわけにはいかなかった。


 だから、いくら出席する資格があろうとも、コンラートがギルベルトの誕生パーティーに出席することはできなかった。

 しかし、どうしても心配でメイシャルの帰りを寮の玄関で待っていた。


 待っていて正解だった。

 媚薬に充てられたメイシャルが帰ってきて、他の男に見つからなくて本当に良かったと思った。


 メイシャルの痴態に何度も理性が切れそうになったが、なんとか王家の力を使って、メイシャルの純潔を守ったまま、媚薬の効果を消すことができた。


 メイシャルを守ることができて安堵していた。




 だが、まさか自分が始めた偽りのせいで、彼女を傷つけることになるなんて思わなかった。



     ◇



「トニー!! しっかりしろ!」


 コンラートは必死にコートニーの首に手を当てて力を込めるが、コートニーの出血はなかなか止まらない。


「お前が死んだら、彼女が悲しむ! 守るって決めたのに、彼女に殺人をさせるわけにはいかない! 彼女をこれ以上傷付けたくないんだ!」


 コンラートは何度もコートニーの名前を呼びながら、切れた首にしっかりと手を当てた。

お読みいただき、ありがとうございました。

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