22 コンラートの過去②
そんな衝撃的なお茶会だが、誰の記憶にも残っていなかった。
ファルダス国王はその場にいた皆の記憶を書き換えた。
ファルダスにとって、他国の王女を迎えたお茶会で毒殺事件など体裁が悪すぎた。
ファルダス国王は一人一人の目の前で「茶会は始まる前にユリエルの体調不良で中止になった」と唱えながら指をくるくると回した。
ファルダス国王の王家の力は記憶操作。起こって二十四時間以内の出来事は記憶を書き換えることができる。
記憶を書き換えられた者たちは「中止かぁ」と言いながら中庭から出ていった。
「ふう、人数が多いと大変だな。さあ、最後はお前だ。コンラート」
コンラートは何が起きているのか分からずビクビクと怯えた。
ファルダス国王がコンラートの前で指をくるくると回し、先ほど皆に唱えていたことと同様に「茶会は始まる前にユリエルの体調不良で──」と言ったとき、コンラートは思わずファルダス国王の手を掴んだ。
そのときコンラートはブワッと何かが込み上げる感覚がした。
「コンラート! やめるんだ!」
ファルダス国王がコンラートを窘め、コンラートはビクリと肩を揺らして手を引いた。
そしてファルダス国王は再びコンラートの目の前で指をくるくる回し「茶会は始まる前にユリエルの体調不良で中止になった」と唱えた。
コンラートは気味が悪くて、そばにあったフォークで、ファルダス国王の手を傷つけた。
「貴様! 何をする!!」
コンラートは片手でバシンと叩き飛ばされた。
「お、おれ……」
ファルダス国王は薄く血の出た手を押さえながら、コンラートに問う。
「お前は何をしている」
「俺は……お茶会が中止になったので、離宮に戻ります……」
「そうだ、それで良い」
コンラートはお茶会は実施されたことを知っている。だが、そう答えるのが正解な気がして、皆を真似て答えた。
その翌日、ユリエルの病死の知らせを受けた。
そして同じ日、ファルダス国王はコンラートを離宮から追い出した。
ファルダス国王はコンラートに手を傷つけられて王家の力が使えなくなった。
王家の力を持ったユリエルを失い、さらに自分の持つ王家の力も失い国王は激昂し、コンラートは母親と共に離宮を追い出されることになってしまった。
だが、コンラートは本能的にわかっていた。国王が王家の力が使えなくなったのは手を傷つけられたからではないことを。
コンラートが国王の指を掴んだとき、今までにない恐怖を感じ、コンラートの王家の力が覚醒した。
どういう力なのかも本能的にわかる。
国王の手に触れ、コンラートは覚醒と共に強大な力を放って、国王の手は王家の力を失った。
コンラートはあのお茶会での出来事を忘れていないことと、自分の王家の力が覚醒したことを隠したまま、王宮を出ていった。
◇
王宮から追い出されたコンラートとコンラートの母には、リーベント子爵が手を差し伸ばしてくれた。コンラートの母は王宮メイドをする前はリーベント子爵家でメイドをしていた。
母はリーベント子爵家で住み込みのメイドをし、コンラートは同い年のリーベント子爵家の嫡男、コートニーと共に教育を受けた。
世話になる身で教育まで受けさせてもらうなどと、始めは恐縮したが、リーベント子爵からは王家から養育費はもらっているからしっかり勉強するようにと、離宮で過ごしていたときと同じような、かなり高度な教育を受けさせられた。
離宮での生活も幸せではあったが、同い年の友達のいる生活は楽しかった。
「コンラートだとコニーって呼ばれるのか?」
「いや? みんなコンラート王子って呼ぶけど」
「はっ、長いだろ! コニーだと庭師の息子のコニーと被るんだよな。コートにするか」
「コートだとお前と被るだろう!」
「俺はトニーって呼ばれてるから平気だ」
「なるほど」
コンラートとコートニーは気も合って、兄弟のような気の置けない友達となることができた。
コンラートがリーベント子爵家へ行ってから一年足らずで、ユリエルの母である第一王妃は息子の後を追うように力を無くし、亡くなったと聞いた。そして、第二王妃だったギルベルトの母が第一王妃に代わり、ギルベルトが王太子となった。
騎士家系であったリーベント子爵家では、勉強の合間に騎士団へ連れていってもらえることが多かった。
コートニーが剣を振るうのを見て、コンラートも剣術を始めた。
「俺も騎士になりたいです」
十二歳を過ぎた頃、コンラートがリーベント子爵に話をすると、リーベント子爵は「良いでしょう」とコートニーと共にコンラートを騎士団での訓練に参加させるようになった。
「私はお家柄、騎士になるのが当たり前と思って育ってきたけど、コートはなぜ騎士になりたいんだ?」
コートニーに問われた。
かっこいいと言われたい。そんな恥ずかしい理由はは言えない。
「強くなりたいんだ」
それから一年も経たないうちに、コンラートは王宮に戻されることになった。
どうやら父王は王家の力が戻って、当時の怒りが収まったようだった。
「お前も王族だ。庶子だから王位継承権はないが、王族の責務を果たせ。十五になったらグリーンフォード学園へ通い、その後は大学へ行き、帝王学を学べ。いずれ王となるギルベルトを支えられるだけの知識を身につけるのだ」
否と言えばまた王宮を追い出されるかもしれない。それでも良いかという思いで、父王に自分の意志を告げる。
「私は騎士になりたいです。学園では帝王学について学びますが、大学では騎士学について学びいずれはこの国の騎士団を率いて兄上を支えていきたいです」
父王は顎を掴んで考える仕草をした。
「ふむ……悪くない。良いだろう」
思った以上にあっさりと要望が通り拍子抜けした。
他国では王弟が騎士団や辺境軍を率いているという例がたくさんあり、ファルダス国王はそれに倣ったのだった。
王宮に戻ってからは今度は離宮ではなく、本殿で過ごすことになった。
そして王子教育の合間に騎士団に通う生活に変わった。
あるとき、人が足りないからとコートニーと共に騎士団の出動要請に同行することになった。
若い二人は救護係として同行した。
任務の内容は郊外で発生した暴動の鎮圧だった。皆大きな怪我もなく鎮圧が終わるかと思った頃、重傷を負った騎士が運ばれてきた。
「父上!!」
コートニーが血相を変えて駆け寄っていく。
騎士でもあるリーベント子爵の胸に槍が深く刺さっていた。
「トニー! 止血だ!」
「……あ、ああ!!」
コートニーは慌てて父の胸を押さえるが、どんどん血が溢れてきて止まらない。
「コート、止まらない!!」
「くっ、代われ!!」
コンラートがコートニーに代わって、リーベント子爵の胸を押さえた。
ゆっくりとだが、徐々に出血が減って完全に血が止まったところで、コンラートは手を離す。
「止まった……」
「ああ! 良かった!! ありがとうコート!!」
コートニーはコンラートの手を握り、涙を流して喜んだ。
「本当にもうダメかと思った。コートのおかげだ。何か恩返しをしないとな」
「ああ、いつか恩返ししてくれ」
この出来事から、コンラートは騎士団で致命傷を負った者が出ると積極的に救護するようになった。
コンラートが救護すると皆一命を取り留める。
こうして騎士団でも微力ながら活躍できるようになってきた。
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