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21 コンラートの過去①

ここから、今までコートニーと描写していた人物がコンラートと描写されます。

入れ替わりがあったせいでややこしいですが、よろしくお願いします。

 出会ったのは幼少の頃、王女様など王子でありながらも寂れた離宮で暮らすコンラートには無縁のものだと思っていた。



 ファルダス国王には妻と息子がおり、息子はユリエルという名で父王からとても可愛がられていた。


 もともと身体の弱かった王妃は難産で王子を産み、産後の肥立が悪く、第二子を望めない身体となった。

 そして迎えた第二王妃がギルベルトの母だった。

 第二王妃がギルベルトを産んですぐのことだった。ファルダス国王は何を思ったのか。王宮メイドに手を出して生まれてきた子がコンラートだった。


 母親の身分が低すぎるため、コンラートは庶子として離宮で育てられた。庶子といっても、蔑ろな扱いを受けることも、存在を軽視されることはなく、王子として高度な教育を受け、寂れた離宮であったが、食事もしっかりと運ばれてきて、衣服もキチンとしたものが用意され、それなりの生活を送っていた。

 母は離宮に住み込みつつも王宮メイドを続けており、父王はたまに様子を見にくる程度だったものの幸せな生活だった。



 その生活が急変したのはコンラートが八歳のときだった。


 アマリア王国から王女二人が交流会という名目でファルダスに遊びにきてファルダス王宮の中庭でお茶会が開催された。

 参加するのは王子二人とファルダスの高位貴族の子ども数人だった。

 王子はもちろん、ユリエルとギルベルト。


 だが、ギルベルトがその日突然の発熱で参加できなくなったため、人数合わせにコンラートが出席することになった。


 子ども達のテーブルを囲うように数卓テーブルが用意され、大人たちが座って子どもたちの様子を見守っていた。


 コンラートは初めての公の場でマナーや立ち居振る舞い、言葉遣いばかりに気を取られ、ほとんど話をすることもできずにお茶会は終盤へ向かった。




 突如、隣に座っていた腹違いの兄ユリエルが血を吐いた。

 コンラートのすぐ隣で芝生に崩れ落ちていく。


 ギョッとして椅子から滑り落ち、芝生の上に尻餅をついた。


「ユリエル王子! 早く待医を呼べ!!」


 お茶会を見守っていた騎士たちが慌てて動き出す。

 子どもたちの親もすぐに子どもを隠すようにテーブルから離れた。


 大人達もざわざわと騒ぎ始め、お茶会の異変に泣き始める子どももいた。


「静まれ! 早くユリエルを連れてゆけ! 絶対に死なせるな! 原因はなんだ!」


 声を上げたのはファルダス国王だった。


 慌てた一人の騎士が声を張り上げた。


「そこのメイドを捕らえよ! 手に持つティーポットの中身を確認しろ!」


「おかしな匂いがするぞ! 毒かもしれない!!」


 給仕をしていたコンラートの母が衛兵に捕えられた。


「母さん!!」


 人前で母と呼ぶなと注意をされていたが堪らず声を上げてしまった。


「あなたのお母さん?」


 反対隣に座る同い年の隣国の王女が話しかけてきた。

 コンラートは小さく頷いた。


「あなたのお母さん悪い人なの?」

「違う。母さんは人を傷つけたりなんかしない」


 いつも優しい母だった。母がそんなことするはずがない。


「お母さんの名前は?」

「マリア・クルー」


 王女が捕えられている母の前に立った。


「マリア・クルー、答えなさい。あなたが犯人ですか?」

「違います」

「この方は犯人ではないそうですわ」


 王女はくるっと身体を皆に向けてそう宣言した。


「マリア・クルー、答えなさい。あなたは犯人を知っていますか?」

「分かりません。ですが、このポットは第二王妃の侍女のレナ・カミーラ様から渡されました」


 名前が上がり、皆の視線が第二王妃の侍女に向く。


「な、何をそんなデタラメなことを! 私はポットなど触っていません! 証拠があって言っているのですか!? 証拠もなくメイドの立場で虚偽の証言をするなど、どうなるかわかっているのですか!?」


 王女が第二王妃の侍女レナの前に立つ。


「証拠などいりません。あなたがやったことなのか聞けばいいのですから」

「お、王女様……?」

「レナ・カミーラ、答えなさい。あなたが犯人ですか?」

「……そうです。私がユリエル王子に毒を盛りました」


 少し静かになっていた場が再びざわざわし始める。

 どこかからか「第二王妃の指示か?」などと不敬な発言まで聞こえてくる。


 コンラートは思う。

 腹違いの兄ギルベルトの母親である第二王妃はそんな人ではない。

 たまに懺悔をするように離宮へ足を運び「私が不甲斐ないせいであなたを巻き込んでしまってごめんなさい」とコンラートの母に謝る姿を何度か見ていた。

 帰り際にはコンラートにお菓子を渡してくれる優しい人だ。


 第二王妃のクリスティーナは顔を青くしていた。


「レナ・カミーラ、答えなさい。誰かの指示で行ったのですか?」

「いいえ、私の独断です」

「レナ・カミーラ、答えなさい。なぜこのようなことを行ったのですか?」

「ギルベルト様を王太子にするためです。クリスティーナ様はずっと日陰を歩いてきました。本来第一王妃であるレイチェル様が行う公務も、身体の弱いレイチェル様に代わって行い。王子を産んでも喜ばれず、それでもずっとユリエル様を立て、レイチェル様を立て、ずっと励んできました。今日だって、ギルベルト様が寝込んでいるのに、レイチェル様に代わって無理してこの場に参加されているのです。そろそろクリスティーナ様が日の目を見る日が来ても良いと思うのです」


 顔を青くしていた第二王妃クリスティーナはさらに顔色を悪くして叫んだ。


「そんなこと私は望んでいません!! 王家の血の薄い私が王家に嫁ぐことの方が烏滸がましいことなのです! レイチェル様にお子が望めないのであれば、ユリエル様を国王にするしかありません。それなのにあなたは……」


 国王と従兄弟で王家の血を濃く引く第一王妃レイチェルと国王の間にできた子ども、ユリエルは王家の力を持っていた。

 だが、王家とは遠縁で王家の血が薄い第二王妃クリスティーナとの間にできた子ども、ギルベルトは王家の力を持っていなかった。


 俯いていたクリスティーナは前を向き、ファルダス国王の前に立った。


「陛下、私の侍女によるこのような事態、誠に申し訳ありません。ユリエル様に代わられるお方はいません。そんなお方に私の侍女は害を為した。私の教育不足です。私も処刑を受ける覚悟はできております」

「クリスティーナ……そなたの処分は考えておく。衛兵! そこの侍女を連れて行け!」



 母が捕えられると思っていたコンラートは状況が一転し目を丸くした。


「お母さん、悪い人じゃなくて良かったね」


 コンラートはコクリと頷いた。


 少し経って、正気を取り戻した第二王妃の侍女が騎士達に拘束されそうになったとき暴れ始めた。

 「私じゃない! あのメイドが犯人だ」と何度も叫びながら暴れた。


「レナ・カミーラ! 大人しくしなさい!」


 王女が声を上げると一瞬で侍女は大人しくなり、その隙に騎士達が拘束し連行されていった。


「ねぇねぇ、騎士様ってかっこいいね!」


 あれだけ堂々たる命令を大人に向かってしていた王女が急にコンラートに向かって子どもらしく笑った。


 コンラートはそのギャップにドキドキしながら、コクリと頷いた。



 すぐに王女の下にアマリアの使者がやってきて、王女に注意をする。


「メイシャル様! まずいですよ!! 他国でそんなことをしてしまって!! ああ、私は陛下になんて報告すれば良いのか!!」

「あはは、ごめんなさい」

「メイシャル様! 笑い事ではないんですよ!」




 そんな中、王女が命令する様子を恍惚と見ていたファルダス国王はポツリと呟いた。


「素晴らしい力だ……」

お読みいただき、ありがとうございました。

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