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18 媚薬

「あら? シャルル様? 顔が赤いですわ! 大変、酔われてしまったのかしら? 熱もあります? あちらで少し休みましょう」


 すぐにクラリッサがメイシャルの腕を引いて会場を出た。


 熱くて、視界がクラクラする。何かを考えようとしても身体の奥が疼いて思考にモヤがかかる。悲しくもないのに瞳に涙が滲んでいく。


 メイシャルは碌な抵抗もできずにクラリッサに引っ張られ、王宮内の一室に連れ込まれた。

 立っていられず部屋に入ってすぐソファに腰を下ろす。


「うふふ、瞳を潤ませちゃって、シャルル様ったら可愛らしい! ダンスを踊っているときもぎこちなくて可愛いと思っていたんですの。こういうことは初めてですか? 今、楽にしてあげますわ!」


 隣でメイシャルにしなだれかかり、メイシャルの頬を撫でる。

 それだけなのにゾクゾクとしたものが身体を駆け巡り、ビクッと揺れてしてしまう。


「……私に何をした……」

「何にもしていませんわ。シャルル様が興奮されて、私はシャルル様に襲われてしまうのです。ちゃんと責任を取ってくださるようお願いしますね」


 ファルダスにはこんな女しかいないのか。こんな醜聞にシャルルを巻き込むわけにはいかない。


「クラリッサ・セレシュ、私に何をした! 答えよ!」


 メイシャルの着ていたシャツの釦を外そうとしていたクラリッサの手が止まり、クラリッサの瞳から光が消える。


「……葡萄ジュースに媚薬を混ぜました」


 ――びやく……?



 メイシャルはクラリッサを一人残してすぐに部屋を出た。

 歩いているだけなのに、トロトロと身体の奥から何かが溢れ出す。



 熱い……熱い……身体が燃えるように熱い……


 動悸が激しくなり、心臓がバクバクうるさく鳴り響いて痛いくらい。

 メイシャルは王宮を出ようとフラフラと壁を伝って歩いた。



「シャルル!」


 額に汗を浮かばせて、ギルベルトがやってきた。


「良かった! 探したんだ!」

「ギル……」


 頼りになる人を見つけてメイシャルは少しホッとした。

 ギルベルトはメイシャルの様子を見て眉を寄せた。


「何かあったのか?」

「あっ……ギル……っ、身体が……熱い……」


 真っ赤な顔で瞳を潤ませて、ギルベルトにしがみついてくるメイシャルにドキリとした。


「んっ……び……びやくを……」

「まさか媚薬を飲まされたのか!?」

「……そう……」

「誰に!」

「クラリッサ・セレシュ……」

「分かった。彼女の対応は私に任せろ!」

「ギル……んあっ、私……身体が……助けて……」


 艶のある表情に上目遣いで顔を覗き込むようにして見られて、ギルベルトは堪らない気持ちになった。


「大丈夫だ! ここからだと少し遠いが私の部屋へ行こう!」


 ここは遠方から出席した人のための宿泊フロアで、ギルベルトの部屋は王族居住区になるため、もっと奥にある。


 ギルベルトはメイシャルの手を引いた。

 手を引かれてフラフラとついて行くが、その後に続いたギルベルトの言葉で立ち止まった。


「この国で出回っている媚薬の効果は、女なら男の精を注がれなければ解消しないが、男なら一回精を吐き出すだけで解消する」

「はっ……?」


 ――女なら男の精を注がれなければ解消しない?


「心配しなくて良い。私が手伝ってあげるよ」

「はあ!?」


 ――手伝うって何……?


「ギル……寮に……帰る! あっ……離してくれ!」

「そんな身体で!? 一回出すだけで良いんだ。気にせず私の部屋へ行こう! 私がしてあげるよ」


 してあげるって何をするつもりだ。

 ギルベルトがグイグイとメイシャルの腕を引く。顔を赤らめて期待するような瞳で見られて不快だった。

 メイシャルは力の抜けていく身体を奮起し、渾身の力を振り絞ってギルベルトの手を振り払う。


「誰がお前の部屋なんか行くか!! この変態野郎!! ギルベルト・ローパー・ファルダス……──」




 メイシャルは王家の力を使ってなんとかギルベルトから逃げ出した。


 おぼつかない足で王宮の外で待っていた馬車になんとか乗り込み、急いで寮に戻った。

 だが、媚薬による身体の疼きは全く解決しておらず、身体に熱が籠る一方だった。


 馬車から降りてすぐだった。必死に息を整えるが、もう足に力が入らず歩けなかった。

 寮の玄関前でペタリと座り込んで、痛む心臓を押さえていると、コートニーが駆け寄ってきた。


「シャル!」


 コートニーは玄関でメイシャルの帰りを待っていたため、すぐに駆け寄ることができた。


「……コート」

「どうしたんだ!? 酒でも飲んだのか?」

「んっ……ちがう……び、やくを……」

「はっ? ギルベルトのやつか!?」

「……ちがう……伯爵家の令嬢に……」

「ああ、王子だから狙われたのか」


 すぐにコートニーはメイシャルを抱き上げた。


 熱い吐息が口から漏れる。


 足早に寮の部屋へ向かうが、その揺れさえもメイシャルには刺激になった。

 内腿をモジモジと擦り合わせ、両手でしっかりとコートニーのシャツにしがみつく。


「ありがとう……コート、もういい……」


 部屋の前で降ろしてもらうように言ったが、コートニーはメイシャルを抱き上げたままだった。


「鍵……出して?」

「え……」

「媚薬……抜けてないんだろ。男なら一発抜くだけで済むけど……」


 女なら男の精を注がれなければ解消しない。


 メイシャルはコートニーの視線にドクンと身体の奥が疼いた。

 いやだ。このまま一緒にいると変なことを口走ってしまいそうだ。



「平気だ! 自分でなんとかする!」

「お前! 分かっているのか! 媚薬が抜けなきゃ、熱が頭に回って、頭がイカれちまうんだ!」

「え……そんな……」

「悪いようにはしない。早く鍵出して!」


 メイシャルは仕方なく鍵を出し、コートニーはその鍵で部屋の扉を開けて、メイシャルを抱いたまま奥のベッドへ移動した。

 コートニーはどうするつもりだろうか。


「やっぱり良い! 一人でするから、出てってくれ!」


 ギリギリの理性でメイシャルがコートニーに突き放すように言うが、コートニーはメイシャルをベッドに降ろしてそのまま組み敷いた。


「もう、男のフリなんてしなくて良い。シャル……メイシャル……」

「っ!」


 コートニーはメイシャルであることを知っていたのか。


「女の君じゃ、一発抜いて媚薬を解消することなんて出来ないんだ」

「い、いやだ……」


 今、精を注いでもらえる人物は目の前にいるコートニーしかいない。

 自分では思っていなくても、身体が彼を欲している。

 しかし結婚前の純潔をこんななんの覚悟もなく媚薬の勢いだけで散らされるなど……


「コ、コートニー・リーベント、やめて……」


 メイシャルは熱と恐怖で身体を震わせ、ポロポロと涙を流した。


「いやだよぉ……」

お読みいただき、ありがとうございました。

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