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16 王宮の図書館

「うわぁ! ファルダス王宮の図書館ってアマリアとはやっぱり違うなぁ! 蔵書の数は少ないけど、古いものはこっちのが断然多いや。学術的な書籍も多いし」

「アマリアと分裂する際にこっちに残された蔵書も多いからね。ほら、この本なんかは今度のレポートの参考文献にちょうど良さそうだろ?」

「見ても良いか?」

「ああ、持ち出しは禁止だから、ここで要点だけ写していくと良いよ」

「ありがとう!」


 メイシャルはギルベルトに誘われて、王宮の図書館に来ていた。

 いつも通りコートニーも来ると思って誘ったのだが、返事は意外にも行かないとのことだった。



 メイシャルはさっそく本を借りてすぐそこの机でノートに書き写し始めた。


 メイシャルはもともとこんなに一生懸命に学ぶつもりはなく、シャルルに成り代わる一年間は単位を落とさない程度、シャルルが恥をかかない程度に過ごせば良いと思っていた。

 だが、大学生活はそんなに甘くはなく、ギルベルトが言うように授業はレベルが高く、ついていくのに必死だった。

 ただ、一生懸命に学べばギルベルトが丁寧に教えてくれて、理解が深まれば楽しくなってくる。


 ギルベルトのせいでつまらなかった三年間の学園生活だが、ギルベルトのお陰で大学生活が楽しくなってきている。



 メイシャルは五冊ほど斜め読みをし、要点だけ書き写し、自分のノートを見返していたが、流石に文字ばかり読んでいて疲れたのか、少しうとうととしてしまった。


 夕方の図書室。窓際の席でメイシャルのプラチナブロンドの髪の毛と睫毛は夕日に照らされてキラキラと光っていた。

 ノートを目の前に微睡むメイシャルはとても綺麗だった。


 その様子を見てギルベルトはまたもや胸が高鳴った。キラキラとした光に誘われるようにメイシャルに近づく。


 図書館は閉館間近で人は受付に二人いるだけだ。ここは図書館の一番奥の席で書棚で隠れて向こうからは見えない。


 ギルベルトはメイシャルに顔を寄せ、またもやメイシャルの唇を奪おうとした。


 ところが、そこで閉館の鐘が鳴りメイシャルはハッとして起きる。目を開くと至近距離ににギルベルトの顔があり──


「ひぃっ、気持ち悪い!」


 驚いて勢いよく、ギルベルトの頬をバシンと平手で打った。



 打たれて呆然とするギルベルトと、打ってしまい呆然とするメイシャル。



 先に正気に戻ったのはギルベルトの方だった。


「急に近づいたりしてごめん。顔に睫毛が付いていたから取ってあげようと思って!」


 咄嗟に嘘をついて誤魔化した。


「そ、そうだよな……、あっ、ひどいこと言って打ったりして本当にごめん」

「いや、良い。私が悪いんだ」


 メイシャルは叩いた手を押さえ、ギルベルトは頬を押さえそれぞれに思う。


 ――びっくりした。キスされるかと思った……


 ――き、気持ち悪いって……


 そして再びメイシャルはギルベルトに謝罪する。


「いや、本当にすまない。気持ち悪いなんて思っても口に出して良い言葉じゃない!」

「ゔっ……シャルル……もういいから、それ以上私の傷を抉るのはやめてくれ」

「……ごめん」


 ギルベルトは決して気持ち悪い顔なんてしていない。誰が見ても王子様だと分かるような華やかで端正な顔立ちで、メイシャルの好みな顔だったはずだが……どうしても不快感が先にきて手が出てしまった。


 二人は無言で図書館を出て、王宮の廊下を歩いていると正面から煌びやかな格好をした人が歩いてきた。後ろには数名の側近らしき人物や文官を連れており、遠目でもすぐにその人物が誰であるか察することができた。


「父上!」

「ギルベルトか」


 メイシャルは頭を下げた。


「お久しぶりでございます。ファルダス国王陛下」

「久しぶりだな、シャルル王子」


 シャルルとメイシャルは三年前のグリーンフォード学園入学時にファルダス国王の下へ挨拶に来ていた。

 メイシャルの前に立つ国王は今は四十代後半のはずだが、もっとずっと若く見える。そして、歳は重ねていても、華やかでギルベルト以上に美形な男前だった。



「先に行っていてくれ」


 ファルダス国王はメイシャルと話をするためなのか、後ろに従えていた者たちを先に行かせた。

 そして誰もいなくなったところで、メイシャルに謝罪をした。


「この度は我が国の者たちのメイシャル王女に対する非礼、大変申し訳なかった」

「陛下、すでにアマリアの方へ謝罪文は来ておりますので、これ以上の謝罪は結構です」

「だが、メイシャル王女は伏せっていると聞く。具合はどうなのだろうか」


 ファルダス国王はメイシャルを気遣うように尋ねた。


「今は社交を避けておりますが、一年ほど静養すればよくなると思います」

「そうか。早く王宮入りしてもらいたいところだが、仕方がない。うちの愚息が不甲斐ないばかりにこんなことになってしまって」


 チラリとギルベルトに目をやると、俯いて気まずそうにしていた。


「メイシャルが帰国したのは、彼女の心の弱さのせいでもありますから、ギルベルト王太子殿下をそんなに責めないでください」


 メイシャルは、確かに皆から帰るように言われて怒りのあまりに「帰ってやる」と啖呵を切ったわけだが、結局はそれがアマリアにとっては都合が良かった。

 こちらにとって都合良く帰国しているのに、国王から責められるギルベルトを不憫に思ってつい庇ってしまった。

 

「そなたはギルベルトと仲が良いのだな。今度ギルベルトの誕生パーティーがあるのだ。良かったら参加せぬか?」


 これは断れない。


「私で良ければぜひ参加させていただきます」


 何故か隣で俯いていたギルベルトがパァァと明るくなった顔をしていた。


「では、次はパーティーで」

「はい、失礼します」


 去っていくファルダス国王の背中を見ながら、呟いた。


「国へ帰ったこと気にしていたな……」



 なんとなくファルダス国王はアマリアを見下しているような冷たい人かと思っていた。だが、国王はメイシャルに対しての非礼を詫びてくれた。それほどまでに事態を深刻に受け止めてくれていたのかと驚いた。それにメイシャルを気遣う発言もありとても良い人のように思えた。


 だが、すぐに頭を振る。



 これは少し前にアマリアへ一時帰国した際に聞かされた話だった。


 メイシャルとギルベルトの婚約の際に結んだ同盟だが、対等な同盟ではなかった。

 何故かアマリア王国がファルダス国王より支援金を受け取っていた。

 同盟を結んだ際の条約にも支援金の受け取りについて書かれているし、同盟締結に立ち会ったアマリア国王以下重臣たちもその記憶がある。

 だが、元々の取り決めではそんな支援金を受け取る予定はなかった。

 支援金を受け取ったことで、両国の関係は対等ではなくアマリアが下に見られがちになってしまった。


 おそらくファルダス国王が王家の力を使ったのだろう。


 王家の力についてはシャルルが制御可能な力を持っているため、アマリアとしても同盟を結ぶ際はシャルルにも立ち合わせるなど対策をとっていたが、ファルダスの方が一枚上手だった。


 何故か、アマリア王宮での同盟締結の会議の最中に、王宮の外で暴動が起こり、アマリアの王太子とシャルルが現場に向かうことになってしまった。そしてその間に同盟が締結していた。

 支援金の返還については今もアマリアはファルダスに掛け合っているが、なかなか上手くいかない。



 そんな卑怯な手を使う国王だ。いくら人が良さそうでも騙されてはいけない。

 メイシャルはグッと強く拳を握った。



 メイシャルが婚約時にその話を教えてもらえなかったのにはいくつか理由がある。

 一つはメイシャルがギルベルトとの婚約を喜んだから。アマリア国王は婚約を喜ぶメイシャルに水を差すようなことができなかった。

 だが、学園内でメイシャルが嫌がらせを受けていたと聞いて、仕方なく同盟に関する事実を伝えることにした。



「シャルル……騙されてはいけない」


 思っていたことをギルベルトが口にするから、驚いてギルベルトの顔を振り返った。


「何か知っているのか?」

「いや……そういうわけではないのだが……」


お読みいただき、ありがとうございました。

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