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14 履修登録

「あーー、頭がガンガンするーー」


 昨日は歓迎会の後、どうやって部屋まで戻ってきたのだろうか。ギルベルトと何か話をした気がするがほとんど記憶がない。

 朝起きたら、ちゃんと夜着を着て布団を被ってベッドの上で寝ていた。



 メイシャルは割れるように痛む頭を押さえながら大学のカフェテリアで履修科目の登録用紙を書いていた。

 学園ではコースを選択するだけで履修する授業はほぼ決まっており、選択教科は四教科だけでそれもすべて二択だったので悩むことは少なかった。だが大学では自分で考えて履修する授業を決める。


「この教授の帝王学取るなら、こっちの政治思想論もセットで受講した方がためになるよ」


 突然上から声が降ってきて、顔を上げるとギルベルトが屈んで科目一覧を指差していた。


「ギルベルト王太子殿下……こんにちは」

「こんにちは、シャルル王子」


 ギルベルトがメイシャルの目の前の席に座った。


「えっと……何か?」

「昨日のことを謝りたくて……」

「昨日のこと? すみません、僕、昨日は酔っていて、あんまり覚えてないんです。僕何か粗相をしてましたか?」

「覚えていない? いや……なら良いんだ。それより、昨日はもっと気安い口調で話してくれた。敬語なんてやめてくれ」

「え?」

「あっ……いや、違う。そんな話がしたかったわけじゃなくて、君の妹のことで話がしたくて」

「メイシャルのこと?」


 そういえば昨日もメイシャルへの手紙のことで話しかけられた気がする。


「手紙を書いたのだが、返事がもらえなくて、ちゃんと読んでもらえているのか心配なんだ」


 確かにギルベルトから手紙が届いていたが、また侍従に書かせたのかと思い封を開けていない。


「……なんと書いたんです?」

「しばらくファルダスには来ないでほしいと」


 わざわざ、シャルルに扮するメイシャルの下まで来たかと思えば、そんなことを言いにきたのかと憤りを感じた。


「メイシャルはアマリアの田舎で休んでいます。わざわざ手紙にしなくてもここには来たりしませんよ」

「それなら良いんだ」


 ギルベルトはホッと息を吐いて安心した顔をした。


「要件はそれだけですか? それなら僕はこれで──」


 席を立とうとすると腕を取られる。


「もう履修する授業は決めているのかい?」

「……いえ、どうやって組めば良いのか手こずっていて」


 ギルベルトとは早く離れたかったのだが、学園の履修とは違った大学の履修登録に苦戦しており正直に話した。


「そうだな、私と一緒に受けられる科目は一緒に履修しよう」

「はあ? いやいや、結構です」

「即答しないでくれよ。大学の授業は結構レベルが高いんだ。一緒に受ければ分からないところは教えてあげられるし、一年生の必修の授業は去年の試験対策ノートを貸してあげるよ」

「えっ?」

「あ、でも、君は学園でも優秀だったんだよね。だったら必要ないかな?」


 本物のシャルルであれば必要ないかもしれないが、ここで一年やり過ごすのはメイシャルだ。

 メイシャルは決して天才ではない。学園の授業も努力を重ねて恥ずかしくない程度にクリアしてきた。


 ギルベルトとは極力顔を合わせたくないのだが、魅力的な誘いだった。


 メイシャルは大学に入学するまでの準備期間がたったひと月しかなくて、入学前オリエンテーションにも参加していないため、大学のシステムと授業内容についていけるか不安があった。

 しかも、メイシャルが提案してシャルルと入れ替わっているのにこの一年で単位を落として留年などしたらシャルルに申し訳が立たない。


 その点、ギルベルトは学年首席の頭の持ち主だ。ノートもしっかり取ってあるだろうし、一緒に履修をすれば分からないところを相談することもできる。


 それにもうギルベルトに対して特別な想いなど抱いていない。何かを見たとしても、最低だと思うことはあっても傷つくことはないだろう。

 今はメイシャルではなくシャルルとしてギルベルトと接しているのだから、コンラートと交流する感覚でギルベルトとも交流をして隣国との横のつながりを持つのも良いのかもしれない。


 そこまで考え、ギルベルトに了承を伝えようと「お願いし──」と言ったとき、テーブルを挟んで対面するメイシャルとギルベルトの間にバンッと両手でテーブルを叩いて険しい顔をした人物が現れた。


「シャルルは俺と一緒に授業を受けるから、ギルベルト殿下は必要ありません!」

「コートニー!?」


 さっとギルベルトが立ち上がる。


「コート……君、今は弟の護衛なんだろう? 弟と一緒に授業を受けるべきだろう?」

「あいつ以上に護衛してやらないといけない奴がいるんで」


 コートニーは王子であるコンラートに対してあいつ呼ばわりをした。


 対峙する二人の間に火花が見える気がする。


「シャルル、お前のことは俺が守ってやる。今度こそ徹底的に……」


 ーー今度こそ? 何から?


 メイシャルの頭の中はハテナでいっぱいだった。


「でもさ、コートニー……。お前、騎士科の授業を中心に受けるって聞いてたんだけど、僕、騎士科の授業なんて必修以外は受けるつもりないぞ?」


 メイシャルがシャルルの口調を真似てそういうと、ハッとしてコートニーは苦い顔をした。


「そうだった……。……いや、俺も帝王学科の授業中心に変える」

「はあ? 騎士なのに?」

「コートが帝王学!? ふはははっ! 面白い。コート、どっちにしろ一年生の君じゃ、シャルル王子の何の手助けにもならない。私が履修する科目を組んでやるから、君も一緒に受けろ!」

「くっ……わかりました」


 コートニーは悔しそうだったが、ギルベルトの指導で上手いこと履修科目を組むことができた。


 一年生はこの後、基礎演習のクラス分け説明があるため、履修登録を終えギルベルトとは別れた。



「シャルル、昨日あんなことあったんだからギルベルトなんか頼ろうとするなよ!」


 本人がいないところとはいえ、王子を呼び捨てにしながら声を荒げるコートニーに驚いた。


「何怒っているんだ? ごめん、昨日のことあんまり覚えていなくて」

「覚えてない!?」

「うん……ごめん、コートニーにも何か悪いことしちゃったかな?」

「いや、お前フラフラで……」


 俺がベッドまで運んでやったんだと言おうとして、そのときの状況を思い出して顔を赤くした。



 昨夜はコートニーがメイシャルを部屋に送り届けたが、メイシャルは部屋に入ってすぐ倒れてしまい、コートニーがベッドまで運んだ。

 そして「あつい、くるしい」と水を欲しがったので用意してベッドに戻ると、服を脱いで上半身裸でベッドで横向きになってメイシャルはすうすうと寝息を立てて寝ており、慌てて夜着を探して着せて、掛け布団を掛けてコートニーは逃げるように部屋を出てきた。



「なに?」

「と、とにかく! お前は無防備すぎる!」


 コートニーは足早に講堂へ入り、講堂でコンラートと合流した。


「シャルル王子、昨日はだいぶ酔っ払っていたようですが大丈夫ですか?」

「コンラート王子、朝は辛かったけどもう平気だよ。それよりさ……」


 メイシャルはコートニーに聞かれないようにこっそりとコンラートに尋ねる。


「昨日何があったのか教えてくれないか? 昨日のことあんまり覚えていないんだ。何故だかコートニーも怒っているし」

「ああ……覚えていないのならそのまま忘れたままの方が良いと思いますよ。大丈夫です、変な噂が立たないように宴会ノリだったということで箝口令を敷いておきましたから」

「変な噂!? 宴会ノリ!?」


 変な噂というのは主にギルベルトの男色家疑惑に対してなのだが、それを知らないメイシャルは一体自分は何をしてしまったんだろうと青ざめた。

お読みいただき、ありがとうございました。

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