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12 新入生歓迎会

「なんだよ、ペース遅いな? て、おい! すでに真っ赤だな!」

「コート! 無理に飲ませるなよ。シャルル王子、調子が悪いなら無理しなくても良いんですよ」


 コートというのはコートニーの愛称で、コンラートはコートニーをいつもコートと呼ぶ。

 そして、王子同士だがコンラートはシャルルに対し敬語を使い、護衛のコートニーの方は友達口調でシャルルに話しかける。

 すごく違和感があるのだが、コンラートはコートニー以外の人物は誰に対しても敬語で話す癖があるらしい。


「ありがとうコンラート王子、疲れてるのか今日は酔いが回るのが早い」


 メイシャルがコンラートを見上げた。


「うっ可愛い……メイシャル王女の素顔、卒業式の日に初めて見たけど、シャルル王子の顔と本当よく似ていますね」

「おい、シャルル! お前上目遣いやめろ! 確かにメイシャル王女とそっくりで新たな性癖に目覚める奴が出そうだ」



 メイシャルは二杯目のグラスを半分ほど減らしたが、もう酔っ払い気味だ。


「ここ暑いなぁ」

「仕方ない、シャルル! 俺が外連れてってやるよ」


 コートニーはメイシャルの飲みかけだったグラスを奪い腕を引っ張った。


「コートニー! ありがとう!」


 コートニーに腕を引っ張られながら、赤い顔をした酔っ払いのメイシャルが満面の笑みでコートニーにお礼を告げると、コートニーの顔も赤くなる。


「同じ顔して可愛く笑うなよ!」

「なんだよ、同じ顔って?」

「なんでもない」


 コートニーはプイッと顔を背けた。


「うーー、暑いーー! 苦しいーー!」


 メイシャルはバルコニーのベンチに座り、ジャケットを脱いで、腕にかけシャツの釦を上から三つほど外す。


「ジャケット持っててやるよ」

「ああ、頼む」


 ジャケットを渡しながらもメイシャルはもううつらうつらしていた。


「あっ、おい! 寝るな」


 コートニーはシャルルに扮するメイシャルのシャツの釦を外した胸元から見慣れないものが見えた。


「なんだこれ? 胸当て?」


 こんなものしてるから苦しいんだと思い、手に持っていたグラスを横のテーブルに置いて「これも外すぞ」と声を掛け、その胸当ての釦を外してやると、そこにはないはずの女性らしい胸が現れてコートニーは飛び退いた。


「うわっ……どういうことだ?」


 苦しかった胸元が楽になり、メイシャルはすうすうと寝息を立てて寝始めた。


「まさか……メイシャル王女?」



 しばらく固まっていたコートニーだったが、会場内からシャルルの名前を呼ぶ声が聞こえて、慌ててメイシャルの胸当ての釦とシャツの釦を止め、ジャケットを着せてメイシャルを起こす。


「おい! 呼ばれてるぞ! 起きろ!」

「ん、んぅ……むーー? 眠たいよぉ」

「可愛いリアクションするのはやめてくれ」


 コートニーは額に手を置いて天を仰いだ。


「んー、なにー?」

「とりあえず、戻るぞ!」


 目を擦るメイシャルを無理やり立たせて会場に戻ると、人の波を縫うようにギルベルトがやってきた。


「あー、いたいた! 探したんだ」


 メイシャルは酔っ払った頭でもギルベルトの顔を見てギョッとした。


 ――会いたくないのに早速やってくるとは……



「こんばんは、シャルル王子!」

「ギルベルト王太子殿下、こんばんは」


 酔った頭を懸命に働かせて会話をする。


「学園では何度かすれ違ったりしていたが、まともに話をするのは初めてだね」

「そうですね。ご挨拶もせずに申し訳ありません」

「いや、良いんだ。そういうことを言いたかったわけじゃない。その……君の妹のことで……」

「メイシャルのこと?」

「ああ、メイシャル王女に何度か手紙を出したのだが、全然返事がもらえない!」


 メイシャルは眉を寄せて、コートニーの持っていたメイシャルの飲みかけだった二杯目のグラスを奪った。


「あっ、ちょっ──」


 コートニーの止める間も無く、メイシャルは一気にそれを飲み干した。

 そしてズンとギルベルトに一歩近づいた。


「侍従に書かせた手紙に返事を出す必要なんてある?」

「え? あ、いや、私が書いた手紙なんだが……何故それを……」


 過去には侍従に書かせていた時期もあった。だが、何故それをこの男が知っている。

 それを知られたのは過去に一度だけ。相手はアメジストの大きな瞳をした華奢な身体つきをした美しいプラチナブロンドの少女だった。


 ――少女だったよな……?


 ギルベルトは目の前の男をまじまじと見た。


 アメジストの瞳は酔っているのか僅かに潤み、髪はあのときよりもかなり短いが、美しいプラチナブロンドをしている。

 

 アマリア王国の第二王子……王族なら王家の力も持っている可能性がある。

 あの時、問われた内容はメイシャル王女に関するものだった。

 兄であれば妹を心配して聞くこともあるだろう。


 ――私はずっと勘違いをしていたのか……



 ギルベルトの心拍数が一気に跳ね上がる。



「シャルル王子……」

「なに?」



 メイシャルが怪訝な顔をしてギルベルトを睨みつける。


 潤んだ瞳で睨みつけられ、そんな表情でも可愛く見えてしまう。

 いやいや相手は男だぞ。そう思いながらもギルベルトの胸は高鳴る。

 ギルベルトの視線は次第にメイシャルの瑞々しい唇に向かっていった。



 ギルベルトはシャルルに扮するメイシャルの顎を掴んで引き上げた。

 今度は何か言われる前にと素早くその唇に口付けた。

 グッと数秒唇を押しつけ離れてから、思ったことを口にする。


「好きだ」


 思ったことを口に出してしまったからハッとする。

 女の子にそういうことをすることはあっても男にしたのは初めてだ。


 周りは静まり返っており、皆がギルベルトとメイシャルに注目していた。


「ちょっ、おま──」


 コートニーがギルベルトに掴みかかろうとすると、不機嫌そうなメイシャルの声がした。


「はあ?」


 メイシャルの目は据わっていた。

 そして、メイシャルはギルベルトの胸ぐらを両手で掴む。


「誰がお前なんか好きになるか!! 腐れ発情チャラ王子!」


 ドンと軽く押してから胸ぐらを放して、くるりと踵を返す。


「帰る!」


 メイシャルはスタスタと出入り口へと向かった。

 そして、入り口のテーブルに置いてあったウェルカムドリンクのシャンパンを手に取り一気に煽ってから歓迎会の会場を出ていった。

 ギルベルトはその様子を呆然と眺めていた。




「ちょっ、あっ、シャルル!」


 すぐにコートニーがシャルルを追いかけた。



「シャルル!!」


 コートニーはフラフラと寮の廊下を歩くメイシャルに声をかけた。


「あれー? コートニー? なにしにきたのー?」

「お、お前、大丈夫か?」

「んー、なにがー?」

「何って、そりゃ、さっきの……ギルベルト王子の……」

「んー、あー、きす? もーほんとむかつくよね。初めてだったのに」

「クソッ! アイツやっぱり殴っておけばよかった」

「それに、こっちが好きだと思っていたときは何にもだったくせに今さら好きとかいわれても……」

「やっぱり好きだったんだな……あっ、おい! お前どこ行くつもりだ!」

「どこって部屋戻るんだけど」

「どこ向かってるんだよ! そっちは外だ! お前の部屋はこっちだよ」

「あれー? そうだっけ? あー女子寮と造りが逆なんだね。間違えちゃったよ」

「やっぱり、メイシャル王女なんだな……」


 最後コートニーは小さく呟いて、フラフラと歩くメイシャルの手を引いて歩いた。

お読みいただき、ありがとうございました。

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