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11 大学入学

 短く切り揃えた髪を鏡の前で整えて、王子らしい服装に身を包み、男らしくかつ優雅に歩く。

 寮から歩いてすぐの大学へ向かう。


「シャルル、おはよう! 今日からまた同級生だな」

「ああ、おはようコートニー。よろしくな」


 少し低めの声を意識して、男らしい口調で返事をした。


「春休みはゆっくりできたか?」

「ああ、それなりにな」

「お前、なんか痩せた?」

「そ、そうか? アマリアにいる間に兄上から大量の政務を押し付けられて忙しかったからかな」

「へぇ、大変だったんだな」


 この男には注意が必要だ。

 以前、話をしたときに、メイシャルのことは何か知っているような口ぶりが見られた。


「メイシャル王女、大丈夫だったか? 王女もお前も卒業翌日のプロムも出ずに帰国しただろう? あの後、プロムの前に陛下からの要請で王女に不敬を働いた者を特定するって調査が入ったんだぞ」

「そうか。メイシャルは塞ぎ込んでいたよ。しばらくはアマリアの自然の豊かな地で療養して過ごしたいって……」

「そうだよな……。彼女はいつでも気丈に振る舞っていたけど、酷い仕打ちも多かったもんな」

「コートニー、聞いたよ。何度かメイシャルのことを助けてくれていただろう。ありがとう」

「いや、最初に彼女に不快な思いをさせたのは俺だからさ」

「お前がメイシャルに?」

「ああ、いや……直接俺が何かしたわけじゃないんだが……」


 以前もそんなようなことを言っていたが、やはり何のことか分からない。


「シャルル王子、おはようございます」

「あ、コンラート王子、おはよう。また大学生活でもよろしくな」

「ああ、こちらこそよろしくお願いします」


 違和感のある話し方だが、教えてもらった通りに振る舞った。敬語なしで話をする相手も合っているはずだ。


 入学式の会場で指定された席に着いて一息つく。


 大丈夫。バレていない。

 上手いこと成りすますことが出来た。



 とりあえず一年。シャルルとしてやり過ごさなければならない。



     ◇



 メイシャルは卒業式の日、カフェテリアから出てすぐに寮に戻り、王宮から外交担当の事務次官と騎士を呼び寄せた。

 騎士が三名来ただけでも、女子寮は物々しい雰囲気に包まれた。


 メイシャルは壁一面に赤字で『国へ帰れ!』と落書きがされた部屋の前で、ファルダスの外交担当の事務次官に女子寮の廊下で声を張り上げた。


「レイノルズ事務次官! この状況、どうお考えですか? ファルダス王国の治安の問題ですか? 品位の問題ですか? 他国とはいえ留学に来ている王女の部屋がこのように荒らされているとは!」

「申し訳ございません! すぐに代わりの部屋を用意させますので」


 野次馬のように集まった女子生徒がコソコソと話を始めた。


「こんなことでお忙しい事務次官様を呼びつけるなんて、傲慢な王女様よねー」


 メイシャルは声のした方を強く睨んだ。


「事務次官殿? この国の貴族の教育はどうなっているのかしら? 不敬罪というものを知らないのでしょうか?」

「も、申し訳ございません!!」

「先ほどの失礼なことを言った彼女のお父様はどんな方かしら?」


 コソコソと事務次官が騎士に尋ねて、騎士が女子生徒の下へ確認にいった。


「……ロセッティ子爵でございます」

「分かりました。ロセッティ子爵家にはアマリアより正式な抗議文を出させていただきます」


 声を上げた女子生徒は小さく「えっ」と声を発して顔を青くした。



「それと、代わりの部屋はいりません。私は今日で卒業です。この後の予定として王宮入りするように要請を受けておりましたが、お断りさせていただきます。先ほど、学園のカフェテリアで私の髪飾りを盗んだ女子生徒にもこの国を出ていくように言われたのです」

「ええっと……エヴァンス男爵家のご令嬢の件ですね。……誠に申し訳ございません」

「ご存知でしたのね。それ以外にも学園内で暴行を受けそうになったりと酷い仕打ちを受けてきました。今まで我慢してきましたが、もう限界です。私はギルベルト王太子殿下との結婚の日までアマリア王国に帰ります」

「えっ、でも陛下が……それに王太子妃教育も……」

「王太子妃教育はファルダスより教師を呼んで学園入学前に済ませておりますので必要ありません。この学園での三年間、このような歓迎を受けてまだこの国に居たいなど思えるものですか! 結婚までのあと数年、せいぜい住み心地の良い国にでも変えてくださいませ」

「も、申し訳ございません……」

「国王陛下には、学園生活で私の心は疲弊してしまったのでアマリアで療養するとでもお伝えください。私はすぐにでも国に帰らせていただきます。騎士の方々、この部屋を荒らした者は必ず見つけ出して処罰するようにお願いします。レイノルズ事務次官殿、ちゃんと処罰したか確認しますから騎士団での調書の写しと処罰の内容をアマリアに送るようにしてくださいませ」

「……かしこまりました」


 騎士たちと事務次官のレイノルズは顔を青くして頭を下げた。




 すぐにメイシャルとシャルルはアマリア王国へ帰国して、帰国の道中にシャルルの交友関係などはシャルルと徹底的にすり合わせをした。


 ファルダスの王子たちと交流があったことには驚いたが、メイシャルが誰とも交流しなさ過ぎただけで、普通のことのようだ。


 

 そして国に帰ってすぐシャルルは内乱の起こった地へ急いだ。


 メイシャルの不揃いの髪はシャルルを真似て切ってもらった。

 シャルルの服はメイシャルが着ても違和感のないよう仕立て直し、袖を通した。


 双子で生まれたシャルルはメイシャルよりもかなり小さく生まれ、昔から背が低く、細身で華奢な体つきだった。

 そのせいか成長した今でもシャルルとメイシャルの体格はよく似ている。

 ただし、メイシャルは最近年相応に女性らしい身体つきに変わってきてしまったので、無理なく胸を潰せるような補正下着を用意した。


 メイシャルとシャルルの顔もよく似ているが、より似せるために、鏡の前で何度も男らしい仕草や表情を練習した。



 春休みの間、何度かギルベルトからメイシャル宛に手紙が届いたが、また侍従に書かせた手紙が届いたのかと、封を開けることはしなかった。


 メイシャルはこの三年間でギルベルトに対する愛は完全に冷めたようだった。

 大学生活でもギルベルトと顔を合わせることはあるだろうが、その辺りは心を乱されることなく過ごすことができそうだと安心した。



 春休みの終わりが近づくと、メイシャルは再びファルダスへ向かった。


 こうしてメイシャルはシャルルに成り替わって大学生活を送ることとなった。



     ◇



「今夜、寮で新入生歓迎会があるらしいぞ? 酒も振る舞われるらしい。良かったなシャルル、たくさん飲めるぞ!」

「あ、ああ……」

「なんだよ! お前酒好きだろ? ようやく堂々と飲めるんだから喜べよ!」

「そ、そうだな。楽しみだ」


 いきなり壁にぶち当たった。


 ファルダスでは十八歳で成人して飲酒が可能になる。

 シャルルはお酒が好きで、楽しくたくさん飲めるタイプだが、メイシャルは苦手なのだ。

 かといって、酒好きのシャルルがお酒の場に参加しないのは不自然だ。


 上手く切り抜けられるのか、メイシャルは入学初日から不安を覚えた。


お読みいただき、ありがとうございました。

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