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10 王女の髪飾り

「そ、そんなもの取り出して何するつもりよ!」

「メイシャル王女!? いくら彼女が不敬だったからといえども、流石にそれはまずいよ」



 メイシャルは左手で自身の束ねている髪を掴み、右手で器用に、束ねているその根本から髪を切り落とした。


 皆が目を見開いて絶句した。


 メイシャルは髪飾り付きの切り落とした髪を突き出した。


「そんなに欲しければ、くれてやるわよ! ただし、よく見なさい。この髪飾りはアマリアの王族で引き継いでいる髪飾りで、宝石を載せているこの台座、宝石のカットで分かりづらいけど、ここにアマリアの王家の紋が入っているのよ! 王家の宝である大切な髪飾りにあなたは何をしたの? まさかだけど、ご自身のお名前をマーキングしたの?」


 アンジェラは顔を青くした。


「う……嘘よ、そんなの! だって、そんな濃い色の大きな宝石、模造品でしょ? ただの髪飾りじゃない!」

「模造品? 王女が偽物を身に着けるとでも? 全て本物よ。鑑定士に見せたっていいわ。ついでにアマリア王家の紋が本物かどうかも見てもらったら良いわ」

「そ、そんなのハッタリよ!」

「いいわよ、欲しければ持っていきなさい、アマリア王家の髪飾り。私はすぐに盗難届を出すわ。持っているだけで、騎士団が追いかけてくるような訳アリ品ね」

「い、いらないわよ!」


 アンジェラがその場から逃げ出そうと走り出した。

 が、すぐにギルベルトがアンジェラの腕を掴んで引き留めた。


「待て! アンジェラ!」

「ギル! 違うの! こんなの何かの間違いよ!」


 ギルベルトは苦い顔をしながら口を開く。


「アンジェラ……何度も窘めてきたが、今回はやり過ぎだ。君はちゃんと罪を償うべきだ。私も付き添うから出頭しよう」


 ギルベルトが意外とまともなことを言ったので、メイシャルは少しホッとした。


「いやよ!」


 アンジェラはギルベルトの腕を振り払って、出入り口に向かって走り出した。

 だが、出入り口で第二王子コンラートの護衛のコートニーに阻まれる。


「アンジェラ・エヴァンス、君には余罪もあるんだ。半年前のメイシャル王女への暴行事件の教唆で君の名前が挙がっている。ギルベルト殿下と行かないのなら、俺が騎士団まで連行するまでだ」


 咄嗟にアンジェラはすぐそばのテーブルにあったナイフを手にしたが、横からすぐにナイフを持った手を叩かれて、ナイフを落とす。

 アンジェラのその手を後ろに捻り上げてすぐに拘束したのは第二王子のコンラートだった。

 コンラートのアンジェラを拘束したその腕前は見た目通り見事なものだった。


「こんなテーブルナイフで本物の騎士をどうこうできると思ったのか? 本当に浅はかな娘だ。私が連れて行こう」


 コンラートがアンジェラを拘束したまま、コートニーと共にカフェテリアを出て行った。




「メイシャル王女……アンジェラがすまない。その傷のついた髪飾りは私が弁償しよう」

「代々引き継いでいる髪飾りで二つと同じものは存在しないのですが」

「その割にはやたらと新しい。アマリア王家の紋を入れた髪飾りを君用に作らせたのでしょう? 宝石はそのまま利用して同じデザインで新たに作らせよう」


 ギルベルトは目敏かった。


「そうです。アマリア王家の宝というのは嘘です。本当は本物の宝石を使っているというだけの、ただの髪飾り。彼女にはちょっと意地悪を言いました。彼女にはそれくらい言わないと悪行をしたと分かってもらえなそうでしたので……。でも、そこまで分かっていらしたのに、彼女のことは庇わなかったのですね」

「彼女はもっと反省すべきだと思ったからね」

「そうですか」


 ギルベルトはハンカチを取り出して、メイシャルの水で濡れた髪を軽く撫でて拭いた。


「君はこんな綺麗な瞳を隠していたんだね」


 メイシャルはビクッとした。


 ――しまった……眼鏡がない。


「濡れてしまったので、私はこれで失礼します。髪飾りの弁償は結構ですから」


 慌ててメイシャルは立ち去ろうとしたが、ギルベルトに腕を掴まれて引き留められる。


「待って! やっぱり君は国に帰った方が良い! 王宮には行くな!」


 メイシャルは再び頭に血が上った。


 ギルベルトに腕を掴まれたまま、彼の顔を見上げてきつく睨む。


「どいつもこいつも国に帰ればっかり! そんなに追い出したければ、帰ってやる!!」

 

 メイシャルはギルベルトの手を強く振り払って、前以外を一切見ずに一直線にカフェテリアを出ていった。




 ギルベルトはメイシャルの灰の取れたキラキラと光る切りっぱなしの不揃いな髪の後ろ姿を恍惚と眺めた。


 ――なんだこの既視感は……


 それが何かを思い出せないまま、ギルベルトは高鳴る胸を押さえた。



     ◇



 メイシャルがカフェテリアを出ると、シャルルがこちらへ走ってきた。


「メイシャル、ちょうど良かった! って、その頭何? どーなってんの!?」

「ちょっと色々あってね……」

「詳しく聞きたいけど、悪い。今それどころじゃなくて!」

「どうしたの? そんなに慌てて」


 シャルルは声を顰めた。


「アマリアで……内乱が起きた」

「内乱!?」

「しーー! 静かに。誰かに聞かれるとまずい。今他国に付け込まれたら、収められるものも収まらなくなる」

「ルル! あなた急いでアマリアに戻らないと!」


 シャルルはアマリアの騎士団では前線で活躍する戦闘要員である。


「あなたがいないとお兄様は力が使えない」


 メイシャルとシャルルの兄である、アマリア王国王太子の王家の力は戦場では有力な力だが、シャルルがいなければ制御ができず、王太子のみで力を使うことができない。


「そうなんだけど、僕ひと月したらまたファルダスに戻って大学に入学しなければならないんだ」


 シャルルは成績優秀者で学園から大学進学への推薦状をもらっており、国としても名門大学を出ている方が王子としての箔がつくという理由でグリーンフォード大学へ進学することが決まっていた。


「ひと月で内乱は収められるの?」

「んなわけないだろう。半年……いや、場合によっては一年はかかるかも知れない」

「入学辞退は……」

「入学手続きも済んでいるのに急に辞退なんかしたら、何事かと探られるだろうな……」

「……」


 メイシャルは少し考え、良いことを思いついた。


「あとで対処しようと思っていたものがあるの。利用させてもらいましょう」


お読みいただき、ありがとうございました。

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