②
3月20日、下宿人が引っ越してきました。
「今回は無理言って悪かったね。3年間よろしく頼むよ。」
お父さんの幼馴染み、繁ちゃんこと、橘 繁幸さんが、奥さんと息子を連れて挨拶にやってきました。
繁ちゃんは昔何回か会った事があるので、とても懐かしい。奥さんと息子は初めましてだ。
「栞里ちゃん、朱莉ちゃん、無愛想な子だけど、よろしくして|やってね。ほら、自分で自己紹介しなさい。」
繁ちゃんの奥さんの郁美さんに無理矢理頭を押さえつけられてる彼。郁美さんは、なかなか豪快な方の様です。
あ、ご紹介が遅くなりました。
私の名前は、岡川栞里です。
「橘 勇大です。よろしくお願いします。」
母親の手を跳ね除け、頭を上げた彼の第一印象は、デカい…だった。
180センチ位?いや、もっと大きいかも。
ウチのお父さんは170センチ位なので、それよりも目線が上にいく。
私自身、身長は残念なことに153センチで成長が止まってしまったので(いや、まだ可能性はあるはず!)見上げる形になる。
サッカーをしてるだけあって、体はガッチリしてる。
髪型は、サイドは刈り上げられてて、短め。いかにもスポーツマンって感じ。
目は一重だけど、小さいわけでも、細すぎるわけでもなく切長。
鼻筋はすーっと通ってて、薄い唇。
どちらかと言えば、イケメンの部類に入るのでは。
………無表情じゃなければね!
そう、表情筋が死滅したのかってくらい、無表情だ。
そして背が高いからか、威圧感が半端ない。
「勇大君って呼べばいいかしら?3年間、自分の家と思って、くつろいでもらえるとうれしいわ。よろしくね。」
お母さんが話しかけると、人懐っこい朱莉も、はいはいはーいと手をあげて自己主張をする。
「私は岡川朱莉です。小学3年生です。あ、4月から4年生です。勇君って呼んでいい?私は、友達からはあかりん、お兄ちゃんとお姉ちゃんからは朱莉って呼ばれてるよ。勇君はゲームする?今まではお兄ちゃんが対戦ゲームの相手してくれてたけど東京行っちゃったし、お姉ちゃんは下手くそだから相手にならないんだよね。もしゲーム得意なら一緒に遊びたいなぁ。」
「上手いかどうかはわからないけど、ゲームは好きだよ。俺で良ければ一緒に遊ぼう。」
腰を屈めて、朱莉の目線に合わせて話す姿を見て、顔は無表情かもしれないけど優しい人なのかもしれない。
「あー、えっと、私は岡川栞里です。この4月からN商業の1年です。よろしくお願いします。」
パコリと頭を下げる。
緊張してしまって、ちょっと素っ気ない自己紹介になってしまった。
私も朱莉みたいに、勇君って呼ぶべきだった?
もっとフランクに話すべきだったのかな?
彼からは特に何も返ってこない。
恐る恐る顔を上げてみると、無表情のままの彼と目が合った。
すると、素早い動きで郁美さんが勇大君の頭を押さえつけた。
「栞里ちゃん、ごめんねー。ウチの子ったら、小学校も中学校も、サッカー、サッカーの毎日で、女の子の友達居ないのよ。親の私が言うのもなんだけど、無愛想なだけで悪いやつじゃないのよ?仲良くしてやってくれると嬉しいわ。」
「いえ、こちらこそ。同じ歳だし、仲良く出来たら嬉しいです。」