おいでませ!アルディオスの森へ!!天国と地獄編6
「キキ、どうじゃった?」
「大丈夫っす。この洞窟には、私等の命を脅かす類の生き物は存在しなかったっすよ。ルカっちの様子はどうっすか?」
「……よくはないな。かなり熱もあるようじゃし、変に動き回るよりルカの体調が落ち着くまでは、ここで身を隠した方が良いかもしれん」
「……ルカっち。凄く苦しそうっす」
ペロリアから、なんとか逃げ出したキキ達は、森を駆け抜けている途中でルカの容態が急変した。
道中で見つけた大きな洞窟で身を隠し、体を休める事になったのだがルカの容態がおもわしくない。
今だ意識を手放し横になるルカの体は、びっしょりと汗で濡れ、苦しそうに胸を上下させていた。
苦しむ幼い仲間の姿に、キキは居た堪れない気持ちで胸が締め付けられる。
「ラムザの爺ちゃん。私、ちょっと森を探索してくるっす。これだけでかい森なら"ピタの実"が自生しているかもしれないっすから」
「むぅ、熱冷ましの実か……。あまり一人で行動させるのは気が進まんが、止むおえんか……じゃが、これだけは約束ーー」
「なるだけ早く戻ってくるっす! ルカっちの事、お願いするっすよ!」
ラムザの了承を得るや否や、キキは放たれた矢の如く洞窟から飛び出した。
あっというまに洞窟から離れていくキキの姿に、ラムザは呆れと共に深いため息を吐いた。
「あの馬鹿者め、わしの話を最後まで聞かんか……」
森の中でもひと際、背の高い大木の天辺で、器用にバランスを保ちながら垂直立ちをするキキは、広大に広がる森を見渡していた。
「確かピタの実は、水場の近くに群生してるって親父殿が言ってた気がするっすけど、流石にこれだけ生い茂った広い森だと水場を探すのも一苦労っすね……」
比較的高い場所で、森を一望するも水場となりそうな場所を見付けられず、諦めて大木から降りようとした時だった。
キキは、遠くからこちらに向かい悠々と飛行する龍と思わしき物体を目視してしまう。
すかさず頂上の枝葉にその身を埋め、龍の動向をうかがい見るキキ。
(うわぁ……やべぇっす。森に入る前に見た古龍じゃないっすか。やっぱりこの森を住処にしてるんっすかね)
どんどんと自身に近づいてくる古龍。
キキは、圧倒的な威圧を放つ古龍に、少しでも気配を悟らせれば襲いかかってくるのではないかと感じ、その場を動く事が出来ないでいた。
何事もなく災難が通り過ぎる事を願いながら、息を潜め、気配を絶つ。
だが彼女の願いは、むなしくも叶う事はなかった。
彼女から完全に姿形を捉えられる距離まで近づいた古龍は、突如動きを緩めだしたのだ。
古龍の威容に、喉を鳴らすキキの眼前で、信じられない事が起きてしまう。
「はぁっ!!?」
古龍の背から勢い良く飛び降りた子供の姿を見てしまったキキは、素っ頓狂な声をあげる。
彼女は古龍の存在も忘れ、飛び降りた子供を救おうと、思わず反射的に行動を移してしまっていた。
距離からして間に合わないと理解しつつも、まだ、救える命なのかもしれない。という淡い希望を抱きながら。
しかし、子供が落ちた場所に辿り着いて見た光景は、違う意味で彼女の頭を抱えさせる事態となっていた。
(何っすか! 何なんっすか!? 私は一体何を見せられているんっすか!? 理解が追い付かないっす! 私はどうしたらいいんっすかぁ。うごごごごぉ……夢なら覚めて欲しいっす!!)
茂みに身を隠しながら、ひとり悶え蹲るキキ。
あんな高さから落ちたのにも関わらず幼女が無傷だった事から始まり。
幼女の顔が、何故か人形狂いと同じだった事。
奇跡のような力で、バーゼル兵の傷を瞬く間に癒やした事。
古龍以上にヤバい存在感と力を見せつけた厳つい筋肉ダルマの事。
バーゼル帝国が欲している神の御子であろう人物が、自身の目の前にいるという事。
などなど。 あらゆる情報から選択を迫られる彼女の思考は、混乱の極みに陥った。
やがて、神の御子と厳つい筋肉ダルマが、何かを言い合いする姿を見たキキは考える事を一切放棄した。
(あ〜〜〜〜っ! ここで、うだうだ考えてもしかたねぇっす! これは千載一遇のチャンス。あの子の力があれば、ルカっちはもちろんラムザの爺ちゃんの腕だって治せるはずっす。それに、あの噂が本当ならドグラのおっさんだって……)
キキは懐から数個の黒玉を無造作に取り出し、飛び出す機会を伺う。
(くっ……。あの筋肉ダルマ、隙がなさすぎっす! でも、ここで日和った所で、どうにもならんっす! 女は度胸! いったれっす!!)
ーージャレッド叔父ちゃんなんて大嫌いでちっ!!!
「……と、まぁそんな事があって、今に至るわけっすよ。」
「あばぁ……。大変だったんでちね。そう言う事なら任せるでちよ! キキちゃんのお仲間さん達は、わたちが責任を持って治すでち!」
移動しながら、互いの事を語り合い、すっかり意気投合したマルゴレッタとキキ。
彼女に抱きかかえられたマルゴレッタは、任せなさいと言わんばかりに自身の胸をトンと叩いた。
そんな幼女の顔を興味深く眺めながら安堵の表情を浮かべるキキ。
「キキちゃん、そんなにまじまじと見られると、わたち恥ずかしくなちゃうでちよ?」
「いや〜。マルゴレッタちゃんと同じ顔をした奴に酷い目にあわせられたっすからね。警戒してたんっすけど、とり越し苦労みたいで良かったなぁ……と」
マルゴレッタは、心底申し訳なさそうに顔を曇らせ、目に涙を浮かべながらキキを見つめた。
「ペロリアちゃんの事は、本当にごめんなさいでち。わたちの家族は、みんな容赦ないでちから……」
吸い込まれそうな青の瞳に見つめられ、庇護欲をそそられるその憂い顔は、キキの欲情の火を灯すには十分なものだった。
「はぁ〜〜ん♡ こんな天使みたいな子が、悪名高いアルディオスの令嬢だなんて本当に信じられないっす! もう、辛抱堪らんっす!」
「あばっ!? キキちゃん、どこ触ってるでちか! や、止めるでち!!」
「ぐふふふ。良いではないか〜。良いではないかっすよ〜!」
身動きの取れないマルゴレッタは、キキにいいように弄ばれぬよう、必死の抵抗を続けた。
そんなやり取りを続けながら無事、目的の洞窟へと辿り着く二人。
マルゴレッタにとって運命となる人物の邂逅が始まるーー




