マルゴレッタちゃんと大空散歩1
「おおぉ〜〜。激しいな!」
大人の事情により、マルゴレッタに促される形で屋敷の外に出たジャレッドとナイトカイン。
ジャレッドは屋敷全体が小刻みに縦揺れする様を見やり、無精髭を摩りながら感嘆の声を上げた。
マルゴレッタは、それをあえて見えない、聞こえないの精神でスルーする。
「さ、さぁ〜! きょ、きょ、今日はどんな遊びをしましょうかでちね〜!!」
目を泳がせ、どもる幼女を見兼ね、居たたまれなくなったナイトカインが、すかさずフォローを入れる。
「幼女……マルゴレッタ様。先ほど、我輩と空の散歩を楽しむと言ったではないですか? お忘れですかな?」
「あばっ!? そ、そうでち!! わたち、ナイトちゃんとお空の散歩をするんでち!!」
「お空の散歩? さっき、ローゼンの奴もそんな事言ってたなぁ。マルゴレッタ、空でも飛べるようになったのか?」
マルゴレッタの言葉に興味を唆られたジャレッド。
幼女は満面の笑顔で、嬉しそうに答える。
「えへへ。実はでちね。新しくわたちの家族になったナイトちゃんは古龍ちゃんでちてね。わたちをお空に連れってくれるんでち〜〜!」
「ほー。そういや見たことのねぇ執事がいるとは思っていたが、古龍か……。また、珍しいモンを眷属にしたなぁ! がははははは!!」
「ナ、ナイトちゃんは眷属じゃないでちよ! 家族でち!!」
「お〜〜。そうか! すまん、すまん! がはははははっ!」
些細な言葉の行き違いに、ぷりぷりと憤慨する小さき主に朗らかに目を細める老執事。
ナイトカインはジャレッドの前に一歩、歩を進めると胸に手を当て華麗に一礼をした。
「お初にお目にかかる。我輩、マルゴレッタ様の守護を許され、家族の末席に加えて頂いたナイトカインと申す。宜しく頼む」
「おう! 俺はジャレッド! マルゴレッタのイカした叔父さんで、まぁ今は色々訳ありで世界中を放浪するただのおっさんだ! 宜しくなっ!!」
気持ちの良い程の笑顔で差し出された、岩の塊のようなジャレッドの右手。
ナイトカインは躊躇う事も無くその差し出された手を握り返すと、押し潰されそうな圧と殺意を本能から感じとった。
微かな声で、ボソリとジャレッドが言葉を零す。
『あの子は、この糞溜めみたいな世界に落とされた奇跡のような子だ。いいか? この先、あの子がどんな存在になろうとも必ずあの子を裏切るような真似はするな、護れ……。それが出来ないのなら、俺にぶっ殺される前に失せろ……』
先程の快活で剛毅な男のモノとは思えない、冷徹で刺し込むような言葉の刃。
屋敷にいた者達の力にも震えたが、眼前にいるこの男もまた、自分以上に世界の理から外れかけた埒外のバケモノだという事実に、ナイトカインは身体の奥底から込み上げてくる恐怖心を、なんとか抑え込み挑発的に応えてみせた。
『はて? 我輩を脅しているつもりかな? ならば、相手を間違っておるぞジャレッド殿。まだ、出会って日は浅いが、あの方をお護りする事こそが我輩に与えられた天命だと感じた。何者であろうとマルゴレッタ様に仇なす者は、我輩が滅してくれる。それが貴方のようなバケモノでもな……」
圧倒的強者に対し真っ向から見据える老龍の瞳には恐怖が見え隠れはするものの、その奥底には確かな覚悟を感じさせる光があった。
ジャレッドは口端を上げ、犬歯を剥き出しにしながら獰猛な笑みを浮かべる。
「へっ。……いい啖呵だ。俺を失望させてくれるなよ」
ナイトカインは無言で再び華麗な一礼をすると、マルゴレッタは自分の知らぬ所で何かしらのやり取りをする二人に、じとりとした視線を向けていた。
「あばば〜。わたちを除け者にして内緒話でちか〜? わたち、そういうの良く無いと思うんでちよ〜。きっと、寂しい思いをする子がいると思うんでちよね〜〜」
仲間外れにされたと思い、唇を尖らせ地面の小石を蹴る不貞腐れた幼女。
「がはははははっ。そんな顔をするな、ちょっとした大人の世間話さ。子供のお前が聞いても、な〜んにも面白くはねぇぞ!」
「わたち子供じゃないでち〜! 立派なレディでち〜!」
更に唇を尖らせそっぽを向くマルゴレッタの髪をわしゃわしゃと撫で付ける困り顔のジャレッドは、チラリとナイトカインへ目配せすると、出来る老執事は小さく頷いた。
「おぉ。では、立派な淑女たるマルゴレッタ様をお待たせしては紳士の名が廃りますな!」
ナイトカインの体が、眩く光り輝き徐々に形を変え巨大化していく。
立派な両翼がはためき、青い龍鱗が艶めく。
空の王者たる風格を漂わせる風帝龍、ナイトカインは天を見やり咆哮を上げる。
「さぁ! マルゴレッタ様!! いざ、大空へと参りましょうぞ!!」




