表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

Mothergeist.

 注意深く靴の観察をしてみると、そこには人の性格の表れがあるという。

 歩き方、靴底のすり減り方、靴そのものの種類や色味、汚れの有無や靴紐の結び方。

 いろいろな方面からそれの主の性格が見て取れるのだが、何より一番如実に現れるのが、脱いだ靴の置き方である。


 疲れ果てた状態で帰宅したトシハルはかなり乱雑に置きっぱなしで、朔太郎はとりあえず揃えてはいるものの斜めを向いた状態で置かれている。

 信彦は踵を綺麗に揃えつま先を外側に向けた状態で置いているが、さり気なく足置き場のド中央に鎮座させてて他人の邪魔になっている。

 ヒロミとツヨシに至っては、いつまで小学生気分かと言いたくなるくらいにぐっちゃぐちゃで、靴裏を表に向けた状態で脱ぎ散らかしてしまっている。

 靴を眺めるだけで育ちの違いが一見出来た。


「ほうじゃツヨシ、お前なんのソフト持ってきたんや?」

「とりあえず家のパーティ向けなやつを適当に。トシハルとはソフトの貸し借り良くやっとったから、持っとるハードの種類は判ってるんで、遊べない奴は無いはずだ」

「そりゃええな。とりまトシハルが風呂から上がるまで、四人で遊べるヤツでもすっかねえ」

「おいおい、勝手に先に遊ぶのは――」


 どうなんだ、とツヨシが否定しかけたところで丁度、奥の部屋からシャン……と何かの物音が鳴り、四人はぴたりと動きを止めた。

 四人全員顔を見合わせ、誰からともなく声を出す。


「やべ、親か誰か居たのかな」

「ばっか、お前の声がデカいから……」

「何責任転換しとんのじゃ、お前の方が声がデカかったじゃろ」


 言い訳の様なものを始める三人を尻目に信彦が一人奥に踏み込み、声をかける。


「すみません、そして、こんにちわ。僕らはトシハル君の友達で、今日はお宅に遊びに来させてもらいました。ええと、もしかしたら少し騒がしくなりすぎるかもしれませんので、もしお気になさられるのでしたらお叱り頂ければきちんと改善いたしますので、どうぞご容赦してください」

「うわ、ノブが他所向けの言葉遣いで好感度稼ぎにいってやがる」

「いや言っとる事はまともじゃろ。ヒロミももちっと丁寧に話さにゃあかんとおもうで、俺」


 やいのやいのと騒ぐ後ろの馬鹿には無視を決め込んで、信彦は奥の部屋の様子をうかがう。

 だが、いくら聞き耳を立ててみても返事は愚か物音ひとつ聞こえない。

 これは妙だな、おかしいなと、首をかしげてしまうのだが、そんな信彦の態度には気にも留めずに三人が真横を通り過ぎ、トシハルに言われた部屋へとノックもせずに無造作に入る。

 慌てて信彦も追いかけるが、途中チラリと覗いた台所らしき場所などには、人影一つ見受けられなかった。


「おおう、テレビがうちのより一回りでっけーぞ! やった、大画面で遊べるぜ」

「畳部屋かあ。うちフローリングばっかだからちょっと新鮮だなあ……お、ゲームハード機(ゲハ)発見! ハルが最後に遊んどるんが何か調べたろ」

「やめーや、変な探りいれるんは止めとき」


 早速テレビの前に座り込んで、やいのやいのと騒いでいる三人の尻に軽く蹴りをお見舞いしながら、信彦は呆れた顔で見下ろした。


「いや、お前らさあ、ちゃんと挨拶してから入れよ。それと、ノックもするべきだ」


 しかし三人は悪びれた顔も見せずに反論を繰り出した。


「出たよ委員長気質。お前一人っ子だっていうのに、そういうところみょ~に気遣うっちゅーか、気にするよな~」

「そりゃおまえと違っ(ちご)てノブだけ彼女持ちやからな。色々気を遣うんじゃろ、エロ本の隠し場所とかな!」

「今どき紙でエロ本買う奴おらんやろ~。スマホがありゃそれで動画も一発やん」

「あのなあ、よその家ならこのくらいのマナーは――」


 ――ゴトンッ。

 突如背後から鳴る物音に、信彦は肩をビクンとすくませながら息をのみ込み声を途切れさす。

 家主の類の叱責かと各々身構え居間の出入り口に視線を向けるが、(ふすま)は一向に開かない。

 十秒ほど待ってみても何も変化が訪れない。

 一体何事か……と様子を窺う様に、信彦がそっと襖を開けるがそこには誰も存在しない。

 思わず首をかしげる信彦をよそに、今度はヒロミがあっと驚いた声をあげてしまい、皆の注目を集めてしまう。


「な、なんやお前、びっくりさせんやな!」

「いや……悪い悪い、じゃなくて! ノブ、足元見てみ」


 ぐるりと振り返ってみてみると、廊下の床にちょこんと何かが置かれている事に気が付いた。

 お盆にのせられた空のグラスが五つに1.5リットル容器のサイダーとオレンジジュースが一つずつ。

 いつの間にやら誰かが用意してくれていたのだろうか。

 よおく冷えたその二つの飲料は、表面に珠の雫を浮かべていた。


「飲み物……ええと、ご自由にお飲みくださいって事かいな?」

「まあ、そこに置かれてるって事はそうなんじゃないんか? しかし飲みモンだけポンと置かれとるっちゅーのも不気味な話やな」

「ううん、まあ、あんまり気にすることはないんじゃないか? ノブノブ、さっさとそれ部屋ン中に持って入っちまえよ、開けっ放しだとクーラーの冷気漏れちゃうしさあ」

「あ、ああ……判った」


 言われて信彦は飲み物一式を取り込んで、襖を一旦閉じてみせる。

 と、此処で何やら気付いたらしく、ふと天井を見上げながら三人に向けて問いかけた。


「そういえば、冷房がやけに効いているな。最初から付いていたのかな」

「はぁ? ……いや、確かにそうやな。言われてみれば、誰もクーラーのリモコンなんて突ついとらんわ」

「え、んじゃあ俺らがハルんちに来るまでに誰か涼んどったっちゅーことかの? うへあ、冷房効いてる部屋乗っ取っちゃったんかな、悪いことしたわそれは」


 プシュッとペットボトルの蓋を開けながら、ツヨシもその様な返事を述べる。

 しかし言葉の内容ほどにはあまり悪びれた様子もなく、朔太郎がおぼんの上に乗せられていた逆さ向きのグラスをひっくり返して飲み物を注げるようにスタンバイすると、待ってましたとばかりに手にしたペットボトルを傾けて中身をたっぷり注ぎ始めていた。


 まったく、疑問が浮かんだそばから消えていく奴らばかりだなあと信彦が呆れ果てた頃、ぎいぎいとした足音を鳴らしつつ誰かが近づく気配がした。

 今度こそ、家主の登場か。

 再び身構える信彦をよそに襖紙を開けて現れたのは、さっぱりとした表情を浮かべているトシハルの姿だった。


「ふぅ~、さっぱりさっぱり。熱気でやられた肺の痛みもさっぱりしたぜ……って、どうした、信彦? トイレにでも行きたいのか?」

「ああ、いや、そうじゃないんだが……」

「……? よく判らんけど、まあ座り? って、その飲み物は一体どしたん?」

「おうおう、誤解すんなよ? 勝手に冷蔵庫開けたわけじゃねーし。さっき廊下に置かれとったんよ」

「そ、そうなんか……な、なら別にいいけどさ」


 何か含むものでもありそうな物言いに、信彦を始め四人は大なり小なり違和感などを感じつつも、まあ当人が何も言わないのであれば別にいいかなと、特に問い詰めるような行動には出ずにいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ