2話 この度は、ゲームに参加していただき、誠にありがとうございます。なお、本ゲームの参加は拒否することはできないので、予めご了承ください。
「ゲームじゃと?」
グッチーは訝しげに聞いた。
「そう、ゲームです。みなさんはこのゲームのプレイヤーとして招待されました」
「おいおい、待てよ。いきなりそんなこと言われても意味わかんねえよ。ここはどこだ? あんたは一体だれで、俺たちをどうするつもりだ?」
かっちゃんは敵意丸出しの表情で少女に矢継ぎ早で質問攻めする。しかし少女はその様子を見て、気を悪くするどころか、むしろ微笑を浮かべて答える。
「これは失礼しました。順を追って説明しましょう。ああ、申し遅れました。私は”ゲーム案内人”のアリスと申します。みなさんのサポートを務めさせていただきます。さて……みなさんの今の状況を簡単に言いますと……みなさんはゲームプレイヤーに選ばれ、この世界に呼び出されました。異世界転移といった方が分かりやすいでしょうか」
異世界転移? ……つまり、ゲームとかに出てきそうなこの場所は日本ではなく、異世界っていうことか。
「それで? ゲームのキャラクターとはどういうことだ?」
僕は努めて冷静にアリスに訊く。
「みなさんにはこの世界で各々に割り当てられた”役割”を演じてもらいます」
「役割?」
「ええ。RPGなどで主人公という役割を演じてゲームをプレイしたりするでしょう? それと同じです。この世界はゲームの舞台として用意されたもの。この世界で与えられた役割に則り、皆さんにはゲームに参加していただきます。ただし、このゲームで演じる役割は主人公だけではありません。村人などのキャラクターも演じていただきます。いわゆるモブですね。この世界はみなさんをゲームのキャラクターとして参加させRPGのようなゲームの世界を実現させる。そのために用意されたものです」
なるほど……。つまり、プレイヤーとして選ばれた俺たちはこの世界でそれぞれが割り当てられたキャラクターを演じなければならないということ。そしてそれにはNPCといったモブも含まれる。ゲームと言った二次元的世界をこの三次元世界で各々に演じさせることでRPGのようなゲーム世界を成立させるという事か。
「ちょっと待ってよ!」
アリスの説明に対して京子が叫ぶようにして異議を唱える。
「いきなり、こんなわけわかんない場所に飛ばされて、はいそうですか、わかりました。ゲームに参加しますっていうわけないじゃない。元の場所に戻してよ!」
「そうじゃ。京子の言う通り。わしらを元居たところに返さんかい!」
グッチーも京子に同意して言う。当たり前だ。こんなわけわからない場所に飛ばされて、そんな意味不明なゲームに参加できるわけが無い。
「最初に言いましたが、拒否権はありません。みなさんには強制的にこのゲームのプレイヤーになっていただきます」
アリスはそう告げた。つまり、返す気は無いということ。僕はアリスを睨みつけた。
「……何が目的だ?」
「さあ? 私はゲーム案内人。ただ、プレイヤーをゲームの世界に案内するだけです。目的など私の関与するところではありませんので」
「参加拒否不可のクソゲーとか最悪だな」
僕は悪態をついてやるが、それを気にもしていないのかアリスはにこりと笑う。
「では……これよりプレイヤーの皆様に本ゲーム“エリュシオン”のルール説明をさせていただきます」
……どうやら、聞く耳持たないみたいだ。
「……ねえ、遊斗」
京子がこっそり耳打ちしてくる。
「いいの? このままゲームに参加しても。何があるかわからないんだよ?」
「それはそうかもしれないけど、逆らえば、何があるかわからない。……いう通りにした方がいいと思う。帰る方法も分からないし。今は従うしかないよ……」
「……そうだよね。仕方ないか」
京子はしぶしぶ頷く。頭ではわかってるのだろう。いきなり知らない場所に連れられて、帰る方法も分からない。……それなら従う以外の道はないと。僕は少しの間、京子の不安に満ちた顔に視線を向けていたがアリスへと戻す。
「では、ルール説明です」
アリスの声のトーンが下がる。
「ルール①プレイヤーにはステータスが付与される。ステータスはプレイヤー自身の身体能力に適用される。
ルール②プレイヤーには"役割"が与えられる。プレイヤーはその役割を演じなければならない。役割に反しない範囲でのゲームのプレイは認められる。ただし、役割を放棄したり、拒否した場合はゲームオーバーとなる。
ルール③このゲームの登場人物は一部を除き、すべてのプレイヤーで構成されるものとする。
ルール④プレイヤーのゲーム放棄は認められない。
ルール⑤ゲームオーバーになった場合、コンテニューはできない。……さて、何か質問はありますか?」
アリスは声のトーンを戻し、俺たちの顔を見回す。誰も口を開こうとはしない。
「……これはゲームと言ったよな。じゃあ、ゲームオーバー条件はなんだ?」
やがて静寂を破り、かっちゃんが問いかける。
「エリュシオンのゲームオーバー条件は二つです。まずは、先ほど説明させていただいたルールに違反すること。そして、もう一つはステータスの項目の一つ、HPが0になることです」
「HPが……0」
かっちゃんがそう繰り返す。その時だ。かっちゃんの服が学生服から、少し汚れたタンクトップに変わる。グッチーの方を向くと、鎧をまとっているのが目に入る。まるで騎士だ。京子は教会のシスターのような服装をしていた。僕も自分の服装を確認する。みんなと同じように学生服から私服に変わっていた。上着を羽織っている。……なんか普通だな。別にいいけど。
「手をかざして、ステータスと唱えてみてください」
僕たちの服装が変わるのを見届けるとアリスはそう指示する。
「ステータス」
京子が手を前にかざして言う。京子を筆頭に他のみんなも口々に唱えだす。それを見て、僕も同じように唱えてみる。
「ステータス」
すると、目の前にゲームのステータス画面のようなものが浮かびだす。
遊斗
【 】
LV.1
HP 43
MP 28
攻撃 34
防御 26
敏捷 15
魔攻 23
魔防 11
スキル NO DATA
……まあ、そんなに高いステータスではなさそうだな。それより、名前の下の空白……これはなんなんだろう?
「ステータス画面に表示されたHPが0になるとゲームオーバーです。HPは戦闘などでダメージを負うと減っていきます」
僕が考え事をしているとアリスが次の説明を始めた。……疑問はあるが、知るべきことを優先しよう。
「……ゲームオーバーになるとどうなる? 元の世界に戻されて、二度とこの世界に来れないとか?」
僕はアリスに向かって言う。すると、アリスはクスリと笑い、手を頬に添える。
「いいえ。……ゲームとは言いましたが、みなさんは何もVRの世界にいるわけではないのです。これは一つの現実。ゲームオーバーは死です。死んだら、ゲームは続行できません。コンテニュー不可とはそういうことです。死んだら何もできないでしょう?」
俺達はアリスの言葉に唖然とする。クソっ! つまりこれはデスゲームってことかよ! 内心憤ったその時だった。どこからか獣のような雄叫びが聞こえてくる。
「今度は何!?」
京子が叫ぶ。声が聞こえてくる方向を見ると、複数の獣の姿が目に入る。いや、獣ではない。複数の首がある犬、緑の肌をした人間の子供のような姿をした生き物、ゲームでは敵として倒す存在。それは……魔物だ。
「……チュートリアルの時間はここまでですね」
アリスがこちらに近づいてくる魔物を見て言う。その時、足元からが音が聞こえ、俺は下を向く。足元には、いつの間にあったのか、剣が落ちていた。
「それでは、みなさん」
アリスの声が聞こえ、俺は視線を戻す。
「今からはチュートリアル実践編の時間です。実際にゲームをプレイしていただきます。まずは目の前の魔物と戦闘を。健闘をお祈りします。なおチュートリアルとは言えゲームオーバーになりうる可能性もありますのでご注意ください」
その言葉はまるで死刑宣告のようだった。
お久しぶりです! また投稿再開していきますので、よろしくお願いします。