死闘
地図は大体の目安です
二人の戦いは、どれ程続いていたのであろうか。戦いが始まった頃は紅き月が真上にあり、その光が地上を照らしていた。
しかし、今では一筋の光さえ届かない。
この戦いはハイレベルな強者だったから続いたと言っても過言はない。
片方が弱ければ一瞬で決着がつき、または両方弱ければ体力が続かない。
強者かつ等しく同等の力を持つ二人だからこそ、此処まで長引いたと言えよう。
距離を取った二人は肩で息をしている。流石に体力の限界が近づいていた。
そしてお互い最後の一撃を繰り出そうと息を整えようとしている。
最後の一撃となれば必殺の必撃。紙一重で相手を超えれば勝者となるが、お互い堪えてしまえば、それこそ消耗戦。
「ハァハァ……恐ろしく斬れる剣だな」
唐突に口を開く剣士。
斬れる剣とは、獲物を刺す場合もあるが、剣士が言ってるのは、振るっている人間の事だ。
「お前さん誰かに仕えているのか?」
「……俺は自分の為にしか剣を振るわない」
「だろうな。お前さんの剣は死に急いでるように見える。収めるべき鞘って奴がないんだな」
剣士の言葉は先程から戦っている相手への感想にしか過ぎない。
だが賞金稼ぎは眉はピクリと動く。賞金稼ぎもわかってるいるのだ。
収めるべき鞘が必要な事くらい。それでも仕方ないのだ。鞘に値するモノがいないのだから
『ライ』
先に仕掛けたのは賞金稼ぎの方だ。剣士の言葉に対する返事と言わんばかりに……。
「な、何? ま、魔法だと!?」
剣士は驚き、頭上を庇う姿勢を取る。
此処に来て、魔法使おうとしてるのだから驚くのも無理ない。
先程から剣の打ち合いをしていた。故にコイツは剣士とばかり思っていた……思い込んでいたのだ。
そしてライと言えば雷系初級魔法。頭上に雷が落ちると思い頭をを庇う姿勢を取った。
だがそれがミスだった。最初に疑問に思っていれば良かった。何故アレが“血で染めたような紅”なのかを。
その判断ミスが痛手を被る事になる。何故ならば雷は剣士の頭上ではなく、賞金稼ぎの血で染めたような紅い剣に落ちて来たのだから……。
ビリビリ……っ!
賞金稼ぎの剣が電気を帯びる。通常ならあり得ない状態だが、この紅い剣は魔法剣を可能とする特殊な獲物だったのだ。
「靁鳳の太刀よっ」
剣を振り下ろした。刃先から雷を帯びた斬撃が繰り出される。
「な、なにっ!?」
剣士の反応を上回る速さで斬撃が剣士を襲う。頭上への攻撃に備えていた剣士には防ぐ術無し。
ズギャーンっ!
「がはっ!」
胸に直撃し、身に着けていた甲冑が弾け飛ぶ。それと同時に吐血し、数メートル後ろに吹き飛ばされた。
賞金稼ぎの戦闘における職は魔法剣士だったのだ。
ライとは雷系初級魔法。しかし魔法剣にした事により、賞金稼ぎの闘気が乗り上級魔法に匹敵する威力になる。
剣士というのは基本的に魔法への耐性がない。故に上級魔法と同等の攻撃が直撃した事により戦いが決したように見えた。
だが剣士の身体がピクリと動く。
「な、何!?」
次に驚いたのは賞金稼ぎの方である。
ゆらゆらしながら剣士は立ち上がった。
もう戦いは終わったように思えたが、なんと剣士は立ち上がったのだ。
「ば、バカな」
「ハァハァ……まさか雷鳴剣を使うとはな……ハァハァ」
息は切れ切れだが、なんとか言葉を発する。
「何故だ!?」
賞金稼ぎは混乱した。
なお賞金稼ぎは靁鳳の太刀と名付けているが、正式名称は雷鳴剣。
その雷鳴剣の直撃を受けた剣士は魔法に対する耐性があると考えられる。だが、正確には雷鳴剣は結局、上級魔法に匹敵した威力を持つだけ。
闘気と魔法を練り合わせた事により上級魔法に匹敵する。つまり剣士は魔法に対する耐性は無くても、闘気に対する耐性が尋常じゃないのだ。
「ハァハァ……良いもん見せて貰ったぜ。今度はこっちが見せてやるぜっ!!」
剣士が剣を構える。
「琥空旋っ!!」
剣を横一文字に振るう、刃先から高密度の闘気の斬撃が発せられた。
賞金稼ぎは、思考が追い付けなくて無防備。
何故だ!?
何故アレを食らって立ち上がる。
仮に立ち上がっても、攻撃に転ずるなんて不可能だ。
雷で身体が痺れている筈だ。
それにあの斬撃はなんだ!?
ズドーンっ!!
「がはっ!!」
思考が追い付いた頃には手遅れ。賞金稼ぎの身体は弾け飛び、その意識を刈り取った。
琥空旋とは使用者の闘気を喰らい超高密度の闘気の斬撃。
剣士が長い年月をかけて編み出した必殺の一撃である。
「ハァハァ……くっ!」
剣士の方もダメージが残っていた。身体がグラ付き倒れそうになるのを剣を杖替わりにして身体を支えた。
雷を帯びた攻撃を受けたのだ。痺れていて当然。実際身体にあまり感覚は無い。それでも精神力で立ち上がり琥空旋を繰り出した。
当然無理がたたり身体に来る負担は半端無い。意識が朦朧としていた。
時間にしてどれくらい過ぎただろうか。頭がグラグラするのに耐えて、真っ直ぐ賞金稼ぎを見据える。
何時間も過ぎたような感覚、永遠にも感じられる。しかし、時間にして一分も経っていないが賞金稼ぎの身体がピクリと動く。
「ハァハァ……へっ! やっぱりまだ動くか」
それを予想していたかのように剣士が呟く。
「はっ!」
賞金稼ぎの意識が覚醒する。
「うっ! くぅぅ……」
全身に痛みが走った。
「くぉぉぉ……はぁはぁ……」
それでも痛みに耐え、なんとか立ち上がった。
「ハァハァ……へへへ」
剣士が笑う。
「はぁはぁ……ふふふ」
賞金稼ぎの口元が緩む。
はたから見れば狂っていると感じる光景だ。
お互い笑みを交わす。もう残っている体力は無い。
このまま続けたら精神力の戦いになる。どっちが先に根負けするかの戦い。
だというのにお互いに笑みを交わしていた……。