賞金稼ぎ
ある日の夜、寝ていてのだが外が騒がしたったのでふと眼を覚ます。
窓から外を見ると彼方此方で火の手が上がっていた。それを見た瞬間直ぐ外に飛び出した。
外では逃げ惑う村人達にニヤニヤ笑いそれを追い掛け回す見知らぬ者達。
見知らぬ者達は命だけはーと叫ぶ村人の声を無視しブスリと手に持つ剣で突き刺した。
目の前に広がる光景を見ながら唖然とする。
狂ってる。
何なんだよこれ。
わけがわからない。
俺は混乱した。
昨日まで平穏だった村が……。
そして唖然としてた俺に気付いて見知らぬ者がこっちにゆっくり向かって来た。
少しずつ見知らぬ者が迫るが、不意に手を引っ張られる。
「逃げるぞ」
院長だ。
「……これは?」
恐る恐る訊いた。
「この村は山賊に襲われているんだ」
院長が答える。
「……山賊?」
「そう山賊だ。死にたくなければ逃げるぞ」
俺は院長に手を引かれ走る。
「死ねやっ!」
先回りしていた山賊が剣を振り上げる。
ダメだ。
逃げられない。
とっさに眼を閉じた。
俺は死ぬのか……?
しかし痛みは来なかった。
それどころか抱かれている感覚がある。
ゆっくり眼を開けた。
「っ!?」
院長が俺にもたれるように抱き締めていた。
「お前だけ……でも……に…げ」
「院長……?」
院長の背中にヌメっとした感触が……。触った掌に眼をやると真っ赤になっていた。
血……?
院長の血?
そして院長は俺に覆い被さるように倒れた。
院長が死んだ?
「うわぁぁぁぁぁぁぁ……っ!!」
絶叫した。
そして直ぐ様、覆い被さった院長から這い出て近くに落ちてい剣を掴み山賊を睨む。
「やんのかてめぇ」
ザンっ!
それに返事をするよりも手が、腕が勝手に動き山賊を突き刺していた。
この時から俺は狂い始める。いや初めから狂っていたのかもしれない……。
―――――
ふと眼を覚ました。
辺りは暗い。空には紅き月が浮かぶ。どうやら俺は眠っていたようだ。
先程まで見ていた夢を思い出し俺は苦笑した
自分の為に力を使うな……か。
「院長には悪いが俺には出来ないな……」
「ん? 何か言ったか?」
一緒に張り込みをしていた同業者に独り言を聞かれたようだ。
「……なんでもない」
俺はあの日から自分の為にしか力を使っていない。
そう“死に場所”を求める為に。
だと言うのに皮肉な事に俺はいつからか“死神”と呼ばれるようになる。
「おい! 出て来たぞ」
さて行くか。俺の仕事は賞金稼ぎ。今回のターゲットは王子だ。
何故王子なのかは知らん。興味も無い。金さえ貰えればそれで良い。
「だぁぁぁぁっ!」
馬鹿が一人で突っ走る。同業者の一人だ。案の定斬られている。
「馬鹿がっ!」
もう一人の同業者が吐き捨てるように呟く。等しく同感。
王子の様子を伺う。護衛が二人、傭兵が三人。
王子は護衛二人連れられ逃げて行く。相手は傭兵三人か。こっちは俺を含め三人。サシだな。
「行くぞ」
同業者に声を掛けられる。
「ああ」
傭兵三人の内、二人は眼中にない。奥にいる筋肉質の一人に眼をやり、ゆっくり近づく。
面白くなりそうだぜ。
ヒューっと風が吹き抜ける山々に囲まれた谷間。
ジリジリ迫る同業者二人と傭兵二人。
今まさに殺し合いが始まろうとしていた。
カンっ!
対峙いていた二組が剣を交える。
“奴”もまた剣を交える為に近づいて来た。俺も一歩一歩近寄る。
身なりは少し筋肉質な傭兵。だがその身体付きよりも気になるのは放出してる覇気だ。強者だと思わせる。
後一歩と言った所まで近付き奴は口を開く。
「よーお前さんなかなかの手練れと見た。出来ればやり合いたくないが、退かないか?」
「……愚問だ」
「へっ! そうかい。じゃあおっぱじめようぜっ!!」
退かないかって言って来たわりには楽しんでるように見える。まあそれは俺も同じだが。
ギーンっ!!
奴の振り下ろした剣を俺の剣で受けた。
「くっ!」
重いっ!
見た目以上にパワーが相当あるようだ。
「はっ!」
次の瞬間、剣を横に薙ぎ払らって来た。
カーンっ!
と剣を防いだ音が鳴り響く。
「くっ!」
このパワーはデタラメだ。俺は一歩引いた。
横に薙ぎ払われた剣をそのまま受けていたら、力で押し退けらていただろう。
やはりというべきか一筋縄では行かないな。
ならっ!
シュッ……ギーンっ!
パワーだけと思いきや、反応もなかなか。俺は左下から振り上げた剣を防いだのだ。
カンカンギーンっカンカーンっ!!
攻撃を返す余裕を与えず攻めた。俺の剣のスピードに追い付けたの奴が始めてだな。
次々に攻撃を繰り出し相手を翻弄しようとするが、奴はそのことごとくを防いでいた。
俺は再び引いてしまう。“最初の二撃”によるダメージが残っていた。奴のパワーに俺の腕が痺れていた。
痺れた腕では、これ以上攻撃は出来ないと判断した。
しばらく睨む合う。奴は額から流れた汗を剣を持ちつつ右腕で拭っていた。
俺も同じく汗を拭う。今の俺は口元が緩んでるかもしれない。俺の渇きを癒せる相手に初めて出会えたのだから。
生涯此処まで楽しませてくれる相手は見つからないだろうという確信さえ感じさせてくれる。
そう俺達は出会った。
紅き月の下で……。