孤児
暗い…暗い…闇の中。
静寂が支配する。
周りには無数の木々が……。
傷だらけの身体。
世界でたった一人になったような感覚。
自分以外誰もいない。
此処は森の中。
これが俺の最初の記憶だ……っ!
―――――
切り株に腰を掛け、書に眼をやる。する事が無い時はいつも本を借り、村外れで読んでいた。
別に本が好きって訳じゃない。やりたい事がないのだ。
そして、こうしてると必ず“邪魔”が入る。
コツっと音がし頭に痛みが込み上げる。またコツっと音がする。今度は生暖かい何かが後頭部に流れている感覚がして来た。
“奴等”が来たのだ。
「や~い、バケモノ~」
「この村から出て行け~」
背後からガキ共の声が聞こえた。まあたぶん俺も奴等と似たような歳なんだろうけど。
そして再びコツっと音がした。奴等が石を投げ付けて来てるのだ。一度振り返りキッっと睨み付けた。
「ひっ!」
一瞬奴等がたじろぐ。
再び視線を本に戻し何事もなかったかのように読み始める。
コツっ!
コツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツっ!!
再び石が……それも一度飛ばしたら今度は大量に。鬱陶しい。それでも無視し続けた。
「そんなに本が好きかバケモノ」
「バケモノのクセに本なんか読んで生意気だぞっ!」
コツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツ……っ!!
あー好い加減にしろっ!! 無視し続けるのも限外が来て拳を振り上げてしまった。
・
・・
・・・
「またやってくれましたね」
「すみません」
「無抵抗なウチの子に手を挙げたらしいですね」
「すいません」
孤児院の出入口では大人達が話してる。俺は木影からジッと聞いていた。
「毎回毎回何を考えているんだか」
「私からも良く言っておきますので、此処は私の顔に免じて……」
「この前も……」
「お願いします」
「くっ! ……わかりました。次から気を付けてくださいよ」
そう言うと大人達は去って行った。先程からペコペコ頭を下げ謝っていた大人が振り返る。
「其処に隠れているのだろう? 出て来なさい」
俺は木影からひょこっと姿を現した。
「また村の子に手を出したね?」
俺を睨む。
今の大人達は読書を邪魔され拳を振り上げてしまった事で、抗議に押し掛けて来たガキ共の親達だ。
「俺は……俺は……」
言葉が出て来ない。
「わかっている。お前は絶対に先に手を出さない。大方バケモノとか言われたのだろう?」
コクリと頷く。
「でも絶対に手を出したらダメだ!」
怒鳴られる。
「でも、あいつらが……」
「お前は強い。でも決してその力を自分の為に使うんじゃない」
「……はい」
いつも最後にこう言われる。自分の為に使わないのだったら何の為の力だとは思うがそれらを抑え込んで頷いた。
俺がこの孤児院に来て四年が立つ。最初の記憶は森の中。
生まれた場所も今まで何をやっていたのか覚えていない。この孤児院に拾われたのは三歳くらいの時らしい。
物心付くか付かないかの頃だったので、昔の頃を覚えていなのだと思う。まあ、どうせ森の中に捨てられていたのだろう。
俺はどこの馬の骨かも知れないってだけで、この孤児院のある村の者達から良く思われていない。
それに加え、生まれつき力があった。今では常人の大人以上だ。その為、ガキ共から“バケモノ”と呼ばれた。
そう呼ばれ頭に来て殴りつけては、その度に孤児院の院長に怒られる。
俺はこの孤児院に暮らす以外に生きていく術がない。それに院長は俺の事を確り理解していてくれる。
だから俺は言われた通り我慢した。だが、だがそうすると村のガキ共は調子に乗り出す有様。
しまいには石が飛んでくる。正面から殴りかかって来るなんて事はしないのだ。
ほんとうんざりする毎日だっ!!