血で染めたような紅
宿を後にした俺は傭兵を募集してるって奴を探す事にした。肝心のそいつの事を聞いていなかったが幸い傭兵募集の張り紙のお陰で直ぐに住んでる場所がわかった。
「隣村の村長から傭兵の話を聞いて来たのだが……」
「おお! 貴方は有名な剣豪ホリン殿ではありませんか……」
「いや、そんな大層なもんじゃねぇよ。で、依頼は?」
「はい。護衛です……依頼金は、こんなもので宜しいでしょうか?」
「お! 羽振りが良いじゃねぇか」
10000Gも提示して来た。一ヶ月遊んで暮らせるぜ。
「貴方様のお噂は、お伺いしています。この程度の金額で見合う依頼かどうか迷うとこです」
「良いだろう……詳しく話を聞かせてくれ」
「はい……」
目の前にいる中年の男……ランスと名乗る男の話によると、とある城には二人の王子がいて、王位継承の話で問題になってるとか。王位継承では良くある事だ。
生まれた順番から、兄貴の方が第一王子として、育てられたのだが、王が崩御する時に第二王子に王位である弟に継承すると言い出した。
第一王子は、王子を良い事に数々の悪事を働いていた。それを知った王は第二王子に王位を継承する事にしたのだ。
またその為に王位を狙う第一王子は第二王子の暗殺を目論む。それを察知した第二王子は身を潜める事に……。
第二王子を見つける為にいろんな奴に高額の賞金首だと触れ回った。結果海賊とかが暴れる始末。
おそらくこれが理由でティアの村が襲われた。そしてティアが追い回されたのだろう。ティアを殺った所で第二王子がのこのこ出て来るのではあるまし馬鹿げた話だ。
第二王子が死ねば自動的に第一王子が王位につき、今までの悪行が揉み消される。その前に第一王子を失脚させなければならないとの話。
その為、第一王子も逃亡……捕まえるまでの間、身を潜めている第二王子の護衛を俺に依頼して来たわけだ。
また逃亡前に第二王子は、高額の賞金首にされたので凄腕の賞金稼ぎが狙ってるとか。
しかし俺は疑問に思った。このランスという一見ただの村人なのに王族関係にやたら詳しい。また第二王子が身を潜めて場所まで知っている。
俺はその辺りも問い質した。
なんでもランスは元々その城の家臣だったらしい。で、聞く限りランスは第二王子にかなり気に入られたみたいだ。
第ニ王子は王位継承のゴタゴタにランスを巻き込みたくなかった為に、事前にランスを城から追い出した……。
しかしランスは追い出されても第二王子の身を案じていて、城の者と通じ独自に色々調べてたとの事。
「話は大体わかった。で、第一王子の居場所はわかってるのか?」
「はい。捕まるのも時間の問題かと……」
「じゃあ第二王子の居場所を教えてくれ。早速行ってくる」
「では、部下を二人付けます。好きに使ってください。それと先程の報酬は成功報酬ですが、経費は成否に関わらずお支払いしますので、その者に請求してください」
「ああ。わかった」
経費も付けるとはな。このランスも余程第二王子を気に入ってるのだな。
俺は第二王子の隠れ家にしてる場所に向かった。其処は山々に囲まれた谷間にある小さな小屋だ。
到底発見されるような所には見えないが、もう既に敵に漏れていると言う。従って夜には此処を発つようだ。
王子には護衛の生き残りが三人……既に何度か殺り合い何人か失ったらしい。俺の部下に付いたのは二人。計七人だ。外は寒く小さな小屋で見を寄せるには調度良く感じた。
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・・
・・・
そして夜を迎えた……。
まず護衛の三人が外に出る。続いて王子が出ようとした瞬間。
ザンっ! という鈍い音共にぐはっ! という何かを吐き出す声が響いた。
王子を下がらせて急いで外に出る。
外は一面銀世界。空には少し欠けた紅い月が浮かび、その下で月光に照らされ、より一層真っ赤に見える噴水が眼に入った。
護衛の一人が斬られていたのだ。
プシューンっ!
次の瞬間、もう一人の護衛は相手を斬り捨てていた。
後から出てきた王子は一瞬の出来事に戸惑っている。俺はそんな王子を庇うように周囲を警戒した。
仲間がいるかもしれない。そう感じた。そしてやはりいた。三人が男が目の前に現れた。
三人は剣を抜き、うち二人は此方に向かって来た。だが俺にはその二人は眼に入らなかった。
その向こうに立つ男に釘付けになっていた。そいつが血で染めたような紅い剣を抜く前から……。
月光に照らされ長い髪が赤く光るその男に。
そう俺達は出逢った。
紅き月の下で……。