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4.誠の現実

「……え? どうなってるんだ……?」

 

「お前、目の前のリラが見えないのか!? リラが治したに決まってんだろ!」


 男がキレるように言い放った。


「ちょっとエダー、落ち着いて!」


「そもそもコイツがあんなとこにいたからいけねぇんじゃねぇか! あんな戦地の中心で!」


「戦地……? 治した……?」


「えっと……ごめんなさいね。あなたはなんであんなところにいたの? リンガー王国とゴル帝国が対立する激戦地だっていうことは知ってるでしょ?」


「戦場……!? 夢じゃないのか……!?」


 敬介はますます混乱し、錯乱寸前だ。

 先程の壮絶な夢は現実だと言う。それにあの場所は戦場だとも言っている。


(オレは戦場にいたのか…? リンガー? ゴル? そんな国、聞いたこともないぞ……)


「バッカなこと言ってんじゃねーよ! 寝ぼけてんのか!? お前があそこにいた理由をこっちが聞いてんだよ!」


 エダーという男は、何やら敬介を疑っているかのように聞いてくる。

 ただ事ではない様子だ。


(夢でないとすればなんで怪我が治ってんだよ……この人たちも一体なんなんだよ……そもそもなんでここにオレはいるんだ? いおりは……? もしかしたらオレと同じような事に巻き込まれてんのか!?)


 次々に浮かぶ疑問と不安に押し潰されそうだ。


「なんでオレがここにいるのか……そんなのわかんねぇよ! なぁ、10歳ぐらいの女の子を見なかったか!? オレの妹なんだ!!」


「はぁ!? 分かんねーだと!? ふざけんな! そんなガキも見てねぇ!」


「妹さん、もしかしてあの場所ではぐれたの?」

 

 彼女は心配そうに訪ねてきた。

 

「……分からないんだ。オレがあの場所で気が付いたときにはもういなくて……」


「そうなのね……、私達はあなたしか見ていないし、救出もしていないわ」


「救出……?」


「そうだ! リラはな、ゴル軍からお前が狙われてるところを助けたんだよ! 俺はこんなどこのどいつかも分かんねぇ奴を助けるのは反対したんだがな!」

  

 先程からこの男の威圧感が半端ない。


「助けてくれたのか!? えっと……」


「リラ。ホリスト·リラよ。間に合って本当に良かったわ」


(ホリストってどこかで聞いた覚えが……)


「……敬介、瀬戸敬介だ。助けてくれて本当にありがとう」


「ケイスケって言うのね、宜しくね。この人はリキルト・エダー。リンガー王国第1部隊の隊長をしてるの。こんなこと言ってるけど、ケイスケを戦地から運んでくれたのよ」


「そうだったのか……ありがとう」


「リラが助けるって聞かねぇんだよ……くそっオレはまだお前を信じねーぞ!」


 エダーと紹介されたこの男は、相変わらずイライラしている。

 助けてくれた恩人だが、今にも自分を殺してしまいそうな勢いだ。


(隊長ってことは兵士なのか? この甲冑も本物ってことか……? この現代でこんな格好で戦争……?)


「あの、リラ……さん、ここはリンガー王国っていう場所ってことなのか?」


 呼び捨てにしようものなら叩き切ってやる、という目でこちらを見てくる男が非常に気になる。


「そうよ。あなたはどちらの国籍なの? あの場所にいたっていうことは、ゴル帝国の人なの? ……正直に話して。大丈夫よ、一般民は幽閉したりしないわ。出来る限りゴル帝国の近くで解放するわ」


(ゴル帝国っていう国が隣国なのか……)


「……オレはリンガー王国でも、ゴル帝国の者でもない……。日本出身なんだ。ここは一体地球のどの辺りなんだ……?」


 なんだか聞いてはいけない、まるでパンドラの箱を開けたかのような気分だった。

 薄々自分ではもう答えが出ているのかもしれない。


「二ホン……? そんな国は知らないわね……それにチキュウって何?」


 リラが不思議そうにそう尋ねてくる様子を見て、小さな子供さえ知っていることを『知らない』というこの現実を突きつけられた気がした。

 冷や汗まで出てくる。


「ち、地球は、大きくて、丸くて……様々な国があって、いろんな人種が住んでいて……」


「……? それは私達の暮らす神地(リスターン)のことでしょ?」


 そう言って自分のことを不思議そうに見つめるリラの真っすぐな瞳に『嘘ではない』、そう書いてあるようだった。


「う、嘘だろ……なんなんだ、ここは……!?」


 脳がふらつく自分に、もうどうすればいいのか全く分からなかった。


「さっきからお前何言ってんだ!? こいつでたらめな事ばっかいいやがって! やっぱりゴル軍の密偵なんだろ!!」


 さっきからイライラしながら黙って二人の会話を聞いていたエダーは、我慢の限界が到達したようだ。


「待ってエダー。ゴル軍に打たれているのよ、そんな人が密偵なわけが……」


「そうやってケガを負わせてまでリンガー側に入り込むっていうのも有り得るだろ!」


 そんな二人が自分のことで言い合っている。

 しかし、もうそんなことはどうでもよかった。


(くそっ、なぜこうなったんだ……これからどうすりゃいいんだよ……いおりは無事なのか……!?)


 ここは日本ではない、そして地球でさえもない。

 その嘘のような途方もない真実が、自分に重くのし掛かる。


 その時、激しくドアを打ち鳴らす音が聞こえた。


「何だ」

 

 エダーが答えると、ドアが勢いよく開く。

 そこには武装した若い男が息を切らしながら慌てた様子で立っていた。


「た、大変です!! セーレ様のクリスタルにひ、ヒビが……!!」


「え…!?」


「おい、嘘だろ!?」


 口論中だった二人がかなり焦っている。


「すぐに城へ向かう。おい、お前もついてこい!」


「えっ……」


 エダーから手錠のようなものを付けられ、ベッドから乱暴に引っ張りあげられた敬介はもう成す術がなかった。


「お前の疑いはまだ晴れてねぇ。それまで絶対俺が目を離さねぇからな!」


 敬介はこの重く冷たい手錠に、更なる現実を見せつけられたような気がした。


(これ以上、何が起こるって言うんだよ……オレは妹を早く探さないといけないんだ……!)


 エダーにこの石造りの建物から無理やり外へ連れ出された瞬間、眩しい光が敬介に降り注ぐ。朝日だ。

 どうやらここは高台のようだ。真っ青な空の下で暖かな日差しを浴びた優しい風がまとう。

 そして敬介の目に飛び込んできたのは、大草原の向こうにどこまでも広がる瑞々《みずみず》しい山脈だった。


 そしてなぜか不思議と懐かしさを感じたのだった。

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