7.探していたもの
「リラ、お前はついてくんな! そんな怪我だらけじゃだめだ、引き返せ!」
「……大丈夫、この砦を守らないと、国内にまで敵を進まさせること……に……」
「おい、リラ、しっかりしろ! くっそ!」
リラがその場に崩れ落ちるように倒れた。
分かっていた。
ふらふらになりながらでも必死にこの醜い戦場へずっと食らいついていたことを。
この細い体を抱きかかえると、より一層分かる。
弱り切ったリラの体には怪我が多すぎる。
それにまるで血を吸い取られたような青白い顔だ。
共にここまで来て、一緒に戦えていたことが不思議すぎるぐらいだった。
「ごめん……、エダー。下ろして、私、まだ、いけるから……」
「おまっ、何言ってんだよ! こんなふらふらで、血ぃ抜けたような顔しやがって! 戦えるわけねぇだろ!」
先程まで炎を吐いていた黒魔竜は静まりかえり、まるで次の攻撃の準備をしているかのようだ。
すぐにでも憎悪の塊のようなサガラが、またあの魔物を操り、憎き炎をまき散らしに来るだろう。
「くそっ! 第一部隊、撤退だ! 次の攻撃がここへ来る! 早く備えろ、備えるんだ!!」
残り少ない周囲の兵士達にそう叫んだが、どこまで皆を守り切れるのだろうか。
いつも決死な覚悟で必死に食らいついてくる仲間達。
リラだってそうだ。
王族の者でさえ、毎回この苦戦を強いられる悲惨な戦いに赴き、自分の命さえ惜しまずに戦い、仲間を癒す。
何度も何度も、しつこくだって止めたんだ。
だが、一切聞く耳を持たなかった。
『これが今私に出来る、限られた事だから』と言って。
彼女がそう望んでいる。
たったそれだけで、どう足掻いてもリラを止められない自分がいた。
(俺がどうこう言ったって、この頑固な女は一切耳を貸さない。ほんとにいつも手がかかるんだ……昔から……)
「ここまで俺を困らすなよ……」
荒い息を吐きだす彼女を抱え、鉛のように重い自分の足を引きずるように駆ける。
敵から受けた傷がひどく痛む。
だがそれどころではない。
この腹わたを煮えくりかえらせる黒魔竜が、またあの緑色の炎を今にも吐き出しそうだからだ。
「俺がいなくなったら、誰かコイツを守るって言うんだよ……」
あの《《どん底》》からここまで這い上がらせてくれた彼女を、必ず守ると決めたのに。
(お願いだ、白神様……、リラを、リラを助けてくれ……)
背後からあの忌まわしき雄叫びが聞こえ、緑色の激しい光と共に炎が迫ってくるのが分かった。
段々と背中に強い温度を感じはじめる。
これまでか、そう思った瞬間だった。
――泣きたくなるような優しい風と共に、誰かが背後に現れた。
そいつは信じられないぐらいに神々しい輝きを放った真っ白な剣を握りしめ、無数の小さな水の雫を体の周囲に纏っていた。
そしてあの炎をまるで遮断するかのように切り裂いている。
そいつは、夢にまで見たあのティスタ、いや、《《あいつ》》だった。
こんな自分でも光を探していた、あいつに。
ティスタの生まれ変わりだと言う、あいつに。
少しでももし望みがあるのならば、その光に賭けようと思った。
だがそんな光はどこにもなかった、なかったはずだった。
なのに今、こうやって目の前で皆を救い、輝かしい光を放っている。
「行けっエダー! リラを、みんなを、安全な所へ……! オレは決めたんだ……自分の覚悟を……!」
お前のそのへなちょこな覚悟は分かっている。
だが、先程とは何かが明らかに違う。
その気迫、その表情、その背中、纏わる空気まで、全てが前と違う。
何があいつをそうさせたのか。
まぁいい、その覚悟というものを見せてもらおうじゃないか。
「だ、れ……?」
「……アイツだ、助けに来てくれた」
リラは少し微笑んだ。その傷だらけな体で。
お前にこの悲惨な戦いを受け止められるか。
この国に、思いに、命を委ねられるか。
しっかり見てやろうじゃないか。
なぁ、ケイスケ。




