15.真実(ジダン編)
ジダンはとある部屋の前で息を潜めていた。
「くそっ、やはりそうだったか……報告しないと……」
外は雨がぱらつき始めている。月や星も見えないどんよりとした夜だった。
そんな夜に慌ててティスタの元へ向かう。
彼はいつも元気なそぶりを見せてはいるが、結婚式が近づくたびに日に日に気落ちしているのが分かる。
そんなティスタにこれを果たして伝えていいのだろうか。
密偵を頼まれた時、キレリア女王に聞かされていた。
ゴル帝国に『不穏な動き』が見られると。
だがそれは予想だ。
万が一に備えてのこの密偵任務だった。
彼にもうこれ以上の苦しみを与えなくていいはずだ。
だからティスタには黙っていた。
この予想が的中しないことを願って。
「なのに……こんなことってあるかよ!」
だが、この敵国で今頼れる者は彼しかいない。
そして誰よりもセーレを愛しているのも彼だ。
この重い現実を受け止めきれなくとも、動かなくてはならない。
例え、苦しみもがきながらでも。
「兄ちゃん! ここにいたか!」
庭にいるティスタを見つけた。
振り向く彼の目が少し赤い。
「ジダンさん、どうしたんですか?」
自分のこの顔を見て、なんだか不安そうだ。
「いいか、落ち着いて聞けよ、お願いだから!」
「……はい」
「セーレ様が……囚われているんだ、下にある岩壁の洞窟で……命が危ない……」
「え……」
ティスタの顔から血の気が引いていく。
「よく聞け、俺がセーレ様を助けにいくから、兄ちゃんは馬に乗ってリンガー王国に通達しろ! お前のほうが体重も軽いし、早いはずだ! 助けに行きたいのはもちろん分かるが、ここは辛抱しろ!」
「……ちょっと待って下さいよ……何が起こってるんですか……明日は結婚式だったはず……」
下を向き小刻みに震えている。
そんな彼をこれ以上見ていられない。
「そうだったんだ、そのはずだったんだ…! だがこうなっている、これは現実なんだ。まだ戦争は終わっていない……!!」
「くそっ!!」
「ちょっと待て、冷静になれ!」
ティスタの肩を掴んだこの腕を払いのけ、その真っ青な顔で下の岩壁へ強く駆け始めた。
「……彼女を助けます」
「待てって!」
瞬くもなく、行ってしまった。
(止めることが出来なかった……)
ジダンは今から馬を走らせ母国へ通達に行けたとしても、間に合わないことを知っていた。
だが、彼を危険な目に合わせたくはなかった。
あんなにも純粋にセーレ王女を愛し、彼女の幸せを願って生き抜こうとする彼を。
時間がない。
今出来ることは二人で王女を助けることだ。
限りなくゼロに近いとしても救う方法はもうそれしかない。
「くそったれ!」
誰に言ったわけでもない、ただこの腐った現実に少しでも歯向かいたかった。
一体どこまでこの世界は続くのか。
不穏な空の下、ジダンはティスタの後を追うのだった。




