10.提案
「気が付いた?」
優しく声を掛けてくれている。それもなぜか頭の下が柔らかく暖かい。
「……セーレ様?」
「よかった……! 本当に、本当によかった……!!」
ティスタは涙目の王女に一瞬疑問を感じたが、瞬時に先程の事が思い出され突如起き上がった。
「いたっ!!」
「す、す、すみません……! 大丈夫でしたか!? お怪我はありませんか!?」
勢い余って王女の額に自身の頭をぶつけたティスタは、自分のまぬけさに心底嫌気が刺した。
「ティスタってどっちが本物なの?」
「え……?」
「まぬけなティスタと、さっきのティスタ」
その潤った目で笑っている王女はなんだか可愛らしかった。
「さっき……あっ! 先程の男達から何かされませんでしたか!?」
「大丈夫よ。あなたの怪我の方が大問題だったわ」
「あっ、怪我……!」
慌てて背中を触ったがどこも痛くはなかった。ただ服やマントは破れ、血で汚れていた。
「治せて本当に良かったわ……手遅れだったら白魔法も効かないから……」
その言葉を聞いて、光る雫の中にいた美しいセーレ王女が思い出された。
「自分に白魔法を使っていただいたのですか…!? こんな不甲斐ないわたくしにここまでしていただき……なんと申し上げたら良いか……」
「何言ってるのよ、助けてくれたのはあなたでしょ? もう、本当に怖かったんだから……!」
「自分がもっと強ければ早く助けてあげられたものの……申し訳ございません……」
「そうじゃないの、ティスタがいなくなっちゃうことよ」
失うことが怖い、そんなことを言ってくれたのは自分の家族以外に聞いた事がなかった。
「も、もったいないお言葉、感謝致します……」
「……あんな無茶、もう二度としないで。でも、ほんとにほんとにありがとう…」
王女の顔がいつの間にか涙であふれている。
ぎょっとしたティスタはどうすることも出来ず、おろおろすることしか出来なかった。
だが、泣いている王女を見ながら自分はこの女性を守り切ることが出来た、それだけで心から安堵したのだ。
「はい……もうしま、せんから、な、泣かないで下さ……」
「なんであなたが泣いてるのよ、もう……!」
少し笑っている。
緊張の糸が切れたこの情けない姿をまたさらしてしまった。しかし無事なお姿を見られるその事実だけで、自分の有様だなんてもうどうでも良かった。
「セーレ様……、もうこのような外出はお控え下さい……またこのような事態が起きたら……」
「えぇ、そうね。もしこのような事がまたおきたら……ティスタが守ってくれる?」
「もちろんです!」
王族に使える兵士達の役目はもちろんこの方々をお守りすることだ。盾になる事こそがこのリンガー王国の兵士達なのだ。
「では、今から私の専属兵士ね!」
「……へ!?」
毎度のことながら、この目の前にいるセーレ王女の言葉に理解が追い付かない。
「だから、私の護衛をお願いしているの!」
「セーレ様の護衛、ですか……!?」
「そう! これであなたは私をいつも守れるでしょ?」
とってもいい案を言っているはずだと言わんばかりで、泣きはらしたその輝いた目でこちらを見つめてくる。
「は、はいっ! ですがっ……わたくしのような者で……」
「では、宜しくね!」
信じられない提案をしてきた目の前の王女と、勢いに押され返事をしてしまった自分にも戸惑いを隠せない。
だが、これでセーレ王女をいつだって近くでお守りする事が出来る。
その事実に安堵し、そして隠し切れない喜びを感じるティスタだった。




