首跳ねの歓迎会1
ふと、違和感を感じた。
志ノ沙山からも随分と遠く離れてしまった。
与えられた部屋の中に置かれていた座布団の上で膝を抱え、そのまま裁縫針の穴に糸を通すような感覚で周囲の気配などを探ってみる。
「ねぇ、聞いた?あのお客人、お客様だけど罪人らしいよ」
「聞いた、聞いた!!それも、ただの罪人じゃなくて大罪人!!なんたって、うちの若様とその兄君のお命を狙ったんだからね!!」
此処に仕えている女妖たちの話し声が聞こえてくる。
随分と楽しそうに会話を弾ましている彼女らは先程、目隠しをされた状態のアズトを愛想良く途中まで案内してくれた者たちである。
表面上は礼儀正しく接待をしていたが姿が見えなくなると本音を晒していた。
「あの子、これからどうなるのかしら?」
「あれだけのことを仕出かしたんだから処刑よ。死刑!殺されるに決まってるわよ」
大きな祭りへの参加を目前に控えて、今か今かと。はしゃぐ子供のように明るい声が弾んでいる。
「でも見目はすんごく麗しい子よね。あんなに美しいのだから、ただ惨たらしく殺されるなんて勿体無い。あの綺麗な顔のついた首を頂きたいわ。…それに、とても美味しそう。死ぬ前に摘み喰いしたいわぁ」
「だったら、あたしはあの不思議な色合いをした綺麗な瞳と髪が欲しい、瓶に詰めて部屋に飾りたい!」
例え乞われたとしてもアズトの首、それから血肉を分け与える気は微塵も無い。
妖が血肉を喰らって力をつけ自らを高めたいのは理解しえる。だが人間にも当てはまるが首やら目やら体の一部、それらを飾るという誇示欲求はよく分からない。
それとも、なにかの行事や術式に利用する為にとって置くつもりなのだろうか。
「なに馬鹿いってんの、あんた達。私達のような下位の存在が上に意見を申し出るなんて。出来る立場じゃないでしょう。それに罪人であったとしても今は客として丁重に扱えと命令を受けてるのよ。さっ準備にいくわよ」
「それはそうだけど、あ、ねぇ。あの仮のお客様が無惨に殺される直前まではせめてもの情けで飛び切り優しくして差し上げましょうよ」
「なんでそんなことすんの」
「あの子の信頼を勝ち取って、死ぬ直前に裏切られて綺麗な顔が歪んで死んでいく顔がみたいの」
「いいわ、面白そう。乗った」
きゃはははっと哄笑と共に彼女らの気配が遠のいたのを確認してから目隠しを解いて周囲を見渡した。
決して狭くはない。寧ろ広い部屋を与えられてはいるとは思う。
調度品もおそらく上品で高価な物が予め備え付けられている。
この部屋にある窓の丸格子をそっと撫でる。
上質な木材で造られている丸格子は漆が丁寧に塗られていて木特有の艶が滲みでていてる。触り心地もとても滑らかだ。
その格子に張られている和紙を通して柔らかな光がこの部屋に差し込まれている。
和紙を軽く押すとバチっという音と共に青い火の粉が波状に広がり飛び散った。
(…めんどくさいな)
この光はまやかし。幻影で造られている。
陽光が外から部屋の中へと差し混んでいる様に見えるが、この一室自体は亜空間へとズラされ切り離さている。
窓の向こう側に光、つまり外なんて広がってなどいないし存在してもいない。
中にいる者を逃がさないように術がとても丁寧に何重にも施され隔離されている。
快適な檻に他ならない。
さて、どう対処していくべきか。今のアズトは客人とは名ばかりの囚われの身となっていた。




