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黄昏の境でお別れを  作者: 星畑ゆすら
金木犀の屋敷
14/26

神隠し滞在期間はこれにて終了1

「先ずは俺の配下を解放しろ。襲いはしない。約束する」


「わかった」


 彼にとってアズトは兄に繋がる重要な情報源だ。人質…捕虜もいることだし不用意に襲う理由はない筈。

 彼の配下である紺色の妖狐も暴れていたが主の言葉を聞いて今は大人しくしている。


 アズトは言われた通り要求に答えた。地面に押し付けていた紺色の妖狐から刃を外し、その体を解放して立ち上がった。

 解放したにも関わらず紺色の妖狐は動けずにいた。少しやり過ぎたか。


 大柄の一体がやって来て紺色の妖狐を回収していった。すれ違いざまに訝しむ様な視線を送られたが、今は特に気にする場面でもなかった。


「先程の話しだが、兄上が風邪?妖力が高い兄上が軟弱な人間どもが発症する様な病気にかかっただと。お前、ふざけているのか?」


「ふざけてない。本当だ」


 怪訝な顔をしている白築に夕凪が襲われて重症だったこと。受けた呪いや毒の効果で妖力が安定せずに体調を崩していること。その一連を簡潔に話した。


「ふむ、なるほどな。兄上の現状は理解した。今から合えるか?」


「それは無理、もう夕暮れだ。お引き取り願うよ。そうだな、せめて二十日間待って。それだけの時間があれば彼の容態が安定すると思う」


「…いいだろう。二十日後に落ち合おう。必ず兄上を連れてこい。直接お伝えしたいことがある」


 白築はアズトと待ち合わせ場所のやり取りをした後、配下を引き連れて去っていった。


 帰り際に元来た道への戻り方を説明すると(志ノ沙山を大きく迂回する形にはなるが)ちゃんと聞き入れてくれた。

 白築は言い方こそ傲慢な所があるが、夕凪と違って聞き分けはいいみたいだ。



 アズトは、ふと夕凪の普段のあれやこれやを思い出してしまった。



『アズトさま!ここにいらっしゃったのですね。探しましたよ』


『おはようございます。アズト様、御一緒してもよろしいですか?…だめ?では、お傍に控えておきますので』


『私を名付けてください。そうしないと動きません!』


『アズト様、約束ですので撫でてください』



(……本当に聞き分けがいいな。夕凪も弟の聞き分けの良さを少しでもいい、見習って欲しい)


 去りゆく白築一行を見送りながらアズトは密かに思った。




 ‎・*:.。.★.。.: ‎・


 アズトが白築達を見送り屋敷に戻った頃、時刻は既に夜空に散りばめられた星々が輝く真夜中となっていた。


「あら、アズト。やっと戻ってきたのね。随分と遅かったじゃない。夕凪さんがとっても心配してたわよ。何かあったの?」


「三重、あぁ。実は…」


 屋敷に戻って離れにある夕凪の部屋を訪ねると、夕凪の看病に当たっていた三重が不思議そうに尋ねた。


「アズトさま!一体何があったのですか!?」


「夕凪さん?」


 アズトの姿をみた夕凪が驚いたかのように布団を跳ね除けて飛び上がった。

 人型に変化して、そのまま肩を掴まれて抱き寄せられた。触り心地の良いサラサラとした金灰色の髪が頬を擽る。抱き寄せられたアズトの顔は夕凪の胸元近くに埋まった。


 どくどくと少し慌ただしい音が聞こえてくる。心臓の鼓動が、夕凪の生きている音がきこえる。


「アズト様、貴方様から同族の匂いがします」


 白築には触れていないから、恐らく紺色の妖狐の匂いが付いたんだろう。


「夕凪、君の弟の名は白築で間違いないか?」


「はい。…此処へ来たのですね」


「うん」


「君に会いたいと言っていた。悪いが勝手に今日から20日後に引き合せると約束してしまった」


「わかりました。それよりも、アズト様。怪我はありませんでしたか?」


「無傷だよ。問題ない」


「ご無事で良かった。アズト様に何かあれば、私は…」


「ボクに、アズトに何かあっても大丈夫だ。だから、君は動くな。妖狐の姿に戻って大人しく養生してろ」


 夕凪は戸惑ったというよりも寂しそうな表情を浮かべてアズトから、そっと腕を離した。

 どうして、そんな顔をするのだろうか。アズトは何処にも外傷を負ってなどいないのに。


「いい雰囲気のところ悪いけど。何があったか、あたしにわかるように説明して頂戴?置いてきぼりは辛いのよ」

 

 状況についていけてない三重が説明を求めた。


「見廻りに出かけたら、夕凪の弟達がやって来て夕凪に合わせろって言われた。それで、二十日後に引き合わせる約束をしてしまった。」


「まぁ、何となくわかったわ。夕凪さん、弟がいたのね」


「三重、すまない」


「何が?」


 謝られた意図が解らずに三重は不思議そうに首を傾げた。


「三重の判断を仰がずに夕凪の外出を決めてしまった」


「いいわよ。アズトの決めた内容にあたしは異論はないわ。ただし、夕凪さんの身は必ず守りなさい」


「…?夕凪の弟から特に敵意は感じなかったけれど。あぁ、他に敵襲があるかもって意味か」


「えぇ、そうよ。弟さんが来たのだから、他の、夕凪さんを襲った奴らが来ても可笑しくないわ」


 不本意な客が来たら追い払うのがアズトの役割でもある。その時はお引き取り願おう。


「わかった。もし襲われたら夕凪を避難させてから、志ノ沙山に悪影響が出ないように関係ない場所で追い払うよ」


「よろしく頼むわ」


「あの…三重様、アズト様」


 夕凪が気まずそうに声をあげた。


「私は弱く見えるのでしょうか?」


「……」


 アズト達は夕凪が上位種の妖であれ、死にかけて虫の吐息状態が初対面である。強いという印象を持つのは難しかった。今だって風邪で寝込んでいる。


「そうね。あたし達、夕凪さんの弱体化して弱っている姿しか知らないから。ごめんなさいね」


 おほほと三重が笑って慰めたが、全くもって慰めになっておらず夕凪はガックリと肩を落とした。

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