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黄昏の境でお別れを  作者: 星畑ゆすら
金木犀の屋敷
13/26

妖達との対峙

「お前、何故我らを人ならざるものだと判断する?」


「気配、人間と違うから。あと、やってきた道順が人間には険しくて好まれない。普通の人間なら人里に近いこの道から志ノ沙山に訪れる」


「随分とハッキリ言ってくれる。左様、我らは妖だ。…お主、何者だ?妖ではないな」


「…ボクはアズト。…志ノ沙山を巡回、防衛をしている」


「ほぉ、この神隠しの山にその様な役目を持つ者がいるとはな。知らなかったぞ」


 認知度が皆無なのは仕方ない。妖も人間も神隠しを恐れて志ノ沙山の奥深くまでは寄り付かないし、立ち入れない。情報が少ないのは当たり前だ。


(守人…三重の一族の記録も出回ってはいない。あるとしたら、ある小さな村落の童話ぐらいだろう。知らなくて当然か)


「以前、此処に死にかけた妖狐が迷い込んだ」


「その妖狐は今何処におる?生きているのか死んでいるのか」


「生きていたら、どうするの」


「この地から連れていく」


「君たちとその妖狐の関係性はなんだ?」


「聞いてどうする?お主にとって重要なのか」


 重要だ。だって、三重と約束した。

 それに夕凪とのしつこい攻防の末に、自分自身でもあの妖狐が治るまで世話をすると決めた。

 今いる妖達が夕凪の敵か味方かわからない。夕凪の命の保証が出来なければ引渡す訳にはいかない。


「これ以上、不用意な争いを持ちこまれて志ノ沙山を荒らされるはごめんだ。だから、君たちとあの妖狐との関係性を知りたい」


 改めて関係性を問いただすと、突如として妖力がこちらに向かって膨張するのを感じた。数歩下がってみれば、蒼白い炎がアズトの目の前擦れ擦れを横切った。


「ー痛い目を見たくなければ、さっさと居場所を吐け」


  夕凪の居場所を知りえない状況にしびれを切らしたのか姿を現さなかった妖、二体の内の一体が遂に姿を現して攻撃を仕掛けてきた。

 深い紺色の体毛に赤い目、三つの尾を持った妖狐が口元から狐火を吐き出し、敵意で満ちた瞳でアズトを睨んでいる。


 ちらりと先程アズトと話していた人間の旅人に扮していた三体を見れば、表情をやや硬くして少し後ろへ後退していた。

 恐らくアズトと対峙している紺色の妖狐の邪魔に、攻撃に巻き込まれない様にだろう。


 …もう一体は動かず少し離れた場所で様子見といった所か。


「力ずくか、分かりやすくていいな」


 アズトは目の前の妖狐に恐怖も恐れも抱かずに淡々と述べた。

 足に力を込めて跳躍する。紺色の妖狐が狐火を吐き出よりも早く間合いを詰める。

 まさか、真正面から向かって来るとは思わなかったのだろう。妖狐の赤い目が見開かれていた。

 その隙を見逃さず片手で妖狐の紺色の頭部を掴み、跳躍した勢いそのままに地面へと叩きつける。


 叩きつけた妖狐の頭から鈍い音が聞こえた。



「ぐぅっ!貴様ぁ…!」


「動くな」


 紺色の妖狐は一瞬にして、己が地に伏している状況に信じられないといっといった表情をしている。アズトを押し退けて反撃しようとしたが、それを許さず腹に肘を打ち込んだ。


「がぁっぐっ…お前、いったいなんなんだ」


「攻撃する所作を見せれば容赦なく喉元に刃を振り下ろす」


 アズトは袖に隠し持っていた短刀を取り出す。

 腹と頭を叩きつられた衝撃で上手く身動きが取れないでいる妖の首筋に短刀を当てる。


「くそっ…!」


 それでも尚、もがきながらアズトに食らいつこうとする姿勢を見せた為、アズトは短刀を振り下ろそうとした。その時、



「まて」



 制止を求める声がその場に響いた。


 アズトはその声に反応して短刀を振り下ろそうとした手をピタりと泊まる。姿勢は、そのままに視線を声の主へと向けた。


「若様!出来てきてはいけません!」


 紺色の妖狐が焦った様に叫んだ。


「………」


 すっかり薄暗くなった夕闇に染まった木々の間から姿を現したのは金色の髪に明るい山吹色の瞳を持った青年だった。彼も身に纏う雰囲気や気配からして勿論、人間では無いし妖狐だ。


 紺色の妖狐は彼を若様と呼んだ。つまり、この場に集っている妖狐達の中で彼が一番位が高いということだ。


「お前の問いに答える。その妖狐は俺の兄だ。俺は志ノ沙山付近で消息が途絶えた我が兄上を探しに来たのだ」


「その証拠は?」


「俺の名は白築。兄上に俺の名を伝えれば、きっと証言してくださる」


 白築と名乗った妖の顔をじっと見れば、確かに顔立ちが夕凪に似ている。弟というのは本当みたいだ。

 それに彼からは敵意を感じない。


 アズトは短刀をそのままに白築の言葉に耳を傾ける。


「兄上は生きておられるのだろう?死んでいるならハッキリと断言した方が貴様の言う不用意な争いも避けられる。曖昧な問答は返って生きている裏付けにもなる」


「………」


「貴様、もっと上手い言い回しをするべきだったな」


 夕凪の弟、白築はふんと鼻で笑った。そして、アズトに鋭い眼光を向ける。


「さぁ、答えたぞ。次はお前の番だ。兄上は何処だ?」


 ここで嘘をつけば、彼の部下の命が危機に晒される。益はない。自ら名を提示し、夕凪の弟だという白築の言葉をアズトは信じることにした。


「生きている。生きていて、志ノ沙山で匿っている。拾った当初の深い傷はほぼ癒えたけれど、今は風邪を引いて養生している」


 兄の現状を聞いた白築は夕凪が生きていることに安堵したが、アズトの最後の台詞を聞くと真顔で呟いた。


「…は?兄上が風邪?」


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