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蓬来。

「なんでこうなったのです……?」

「あたしに訊かないでよ」

 正直頭を抱えてへっこみたいぐらい。へっこんだらちっちゃくなれるかな。そんなこと考えてる場合じゃないなこれ。

 さて,事の起こりはというと……


「さて,茶室に着きましたけど」

「けど……?」

 日本家屋の入り口にまたしても見覚えのある影。

「おーきたかでっかいの」

「でっかいのは余計なのです。誰が電柱の擬人化ですか踏みつぶしますよ」

「ま,まぁまぁ……」

 四方田先輩と久原さんのコンビ。なんとなく収まりがいいとか言ったら蹴られますかねこれは。

「さて,何の御用なのです?」

「昨日は中まで見れなかったので,今日こそは茶室の状況を見ようと思いまして。あとは,昨日の問いに対する答えもいただけたらなと」

 ふむ……昨日の【問い】ですか。

「姫。いえ――ネム。今日の日向ぼっこは諦めてください」

「えぇ……」

「……頼みますよ,今日いっぱいは付き合ってもらいます」

「ほ,螢……?」

 ……おっと,顔が怖くなってましたかね。いけないいけない,あくまでも顔は半笑いに。

「分かりました。問いに対してはまだ答え出てませんが,ご要望とあらば茶室をご案内します」

「よろしく頼むのですよ」


 さて,茶室に足を踏み込むと

「あ,ほただ。ネムちゃんもいる」

「やーやー」

 安定の加奈子っちと舞が畳に寝っ転がってて。

「やぁなのです。ところでくつろいでるとこ悪いのですが,今日は私の貸切なのでお引き取り願いたいのですよ」

「ほぇ?」「にゃん?」

「悪いのですが今決めたのです。あと加奈子っちはネコ脱いで」

「え,ちょっ,貸切なんて制度あったの!?」

「今つくったのです。さぁさぁ」

「うーん,今できたなら仕方ないな」

「あ,戸棚にあった舞のおやつ美味しかったのですよ」

「それは仕方無くないなっ!?」

「あとでちゃんと空の袋だけ返してあげるのです」

「それならよ……くないかんね?あとでなんかおごってね」

「覚えてたら要検討なのです」

 なんて言いつつ,二人を追い出して代わりの二人を招き入れる。あ,玄関にはあとで「本日貸切」って貼っときましょうか。

「ふむふむ,基本的なレイアウトは変わらないですね」

「まぁタンスとかは動かせませんから」

「あとは……ほほぉ,茶器も増えてますね。あの伝統はまだ受け継がれてますか」

「ええ,とはいえ色々と持ち込みすぎて大変なことになったこともあると聞いています」

「へんなものを設置したがるのが居ましたからねぇ。それもほぼ全員」

「うわぁ」

「いつだったか,どこで見つけたのか平蜘蛛のレプリカを持ってきて私に押し付けたり。そりゃ爆発しろ爆発しろ言われてたけど茶室ごと消し飛ばされたくはねーのです」

「そういえばこの間は袱紗だけ何枚も出てきましたよ」

「袱紗に異常に拘るのが居たのですよ。ところででけぇの……皇后崎さんでしたか。まず一つ問いましょう。貴女はこの方丈に何を残していくつもりです?」

「そうですねぇ,……棗にしましょうか」

「ふむ」

 スッと目を細めたのは何を考えていたのか,私には読み取れない。

「何故なのか,は貴女がここを発つときまでの答えにしましょうか。では相方の彼女は何を残すでしょうか」

「ふむ…………肩衝か茄子か………いえ,きっと彼女は何も残さないでしょう。そのうちにふっと居なくなってしまいそうですし」

「ほう」

「ネコのようなものですから」

「ネコ,ですか。当時もそういった娘が居たのを覚えてますよ,はい」

 またしても遠い目線になる。

「……あぁそうでした,この箪笥の一番下の段の話は聞いていますか?」

「えぇ,何かを詰まらせて以来開かずの棚と聞いていますが」

「実はですね,真上の段を外して突いてやると開いてしまうのです。容易には開かないように差支えにしたものの,時には開けねばならぬ時もありまして」

「……何を封じ込めたのです?」

「ちょっとした恋文です。その他にも歴代の娘たちが色々と詰めていたはずですが決して開けないことを不問の掟としてまして」

「それは初耳です」

「それだけ平和だったということでしょう。次の空に発つ前に,茶器以外にもここに置いて去りたいものが色々とある者にだけ伝わる七不思議と思えばよいのです」

「なるほど,では私の中だけで留めておきますか。幸いにも同期たちには必要なさそうなので」

「まぁ,そう『見えている』ならそれでよいと思います」

 さて,と踵を返した四方田先輩。

「次はお手並みを見させてもらいましょうか」

 あぁ,矢張りそう来るのですね。

「姫,作法と流儀は一通り覚えていますね?……私が先輩のお相手をします。その間久原さんのお相手をお願いします」

「えぇ,なんで私が」

「眠」

 目を細めて少し命令口調。

「………わかった,やる」

 仕方なさげに肩を竦めて見せる。

「……すいません久原さん,やる気なさげで」

「い,いえっ,そんな」

 ……さて,向こうは託しましたよ。こちらはこちらで,おもてなしと行きますか。

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