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大きなものと小さなもの。

 あれから一夜明けて。

 あの後私はむずがる姫様を引きずって彼女の家の玄関まで運んでいって,さらりと頭を撫でつつさっさと逃げ去ったのでした。だってほっとくとついてきそうだし。面倒は置いてくに限るのです。

 ……とはいえ,家に帰ればまた別の面倒が待ち構えてるのであわよくば彼女の家のすみっこに忍び込んですやぁするのもありかなーとか思っちゃったり。はいこのひとへんなひとですおまわりさーん。

 なんて小ボケをかましつつも普段通りの授業は進み,今日もまた放課後になる。はてさて,今日はどんな出会いが待ってるのでしょうか。なんて鞄をもって教室を出ようとすると,おでこを抱えて蹲る人影が。

「ミロさんまーた鴨居に頭突きしたのですか?」

「あうぅー……」

 涙目で見返してくるのは私のクラスメイトにして,「2-6のでっけぇの1号」玉前弥勒さんで。

「な,なんでほたるちゃんは頭ぶつけないの……?」

「ちっちゃいからです」

 どやぁ。

「いや身長おんなじだよね!?」

「一センチだけちっちゃいのです」

「そ,それだけで変わんないよぉ……」

 しょうがないのでおでこを一緒にさすさすしてあげるのです。わたしはやさしーのです。

「うぅぅぅぅ……なんで毎回こんな目に」

「世界がちっちゃいからわるいのです。世界は広いとかよくいうくせに世間は狭すぎるのです」

 もうちょいこの,なんというか,可塑性?弾性?展性?があってもいいと思うんですががが。

「うん,もう,大丈夫……」

「ほんとです?」

「たぶん」

「たぶんですかぁ」

 なら大丈夫ですね,と一足先に教室を抜けると,案の定後ろから再度鈍い音が。忠告したはずなのでもう助けませんよ。今日のおたすけポイントはもうゼロなのです。


 そんなこんなで,予め決めておいた姫様との待ち合わせ場所である昇降口に降りると,

「おや」

 じぃっと何かを見つめる姫様の後ろ姿。

「なにしてるのです?」

 後ろからつんつんすると,短く悲鳴を上げて姫様が飛び上がる。と同時に,視線の向こうでもバタッと音がして。

「な,何するのっ!?気づかれたらどうして……あっ」

 振り返った先には,地面に座り込んでわなわなと震える少女の姿が。このお寒いのにジャージは腰に巻いて上半身は半袖体操服,しかも汗ばんでる。

「気づかれちゃったじゃないのっ!?」

「姫さん,そんなでけー声出せたんですね」

「そうじゃなくてっ」

「あ,あのっ!!」

 む,体操服少女が何か言いたげにしてますね。どうぞ。

「……も,もしかして……見てた?」

「私は何も」

「……あ,あたし,見てました。その,ダンス,すごいなって」

 少女は一瞬にしておでこまで真っ赤になった。あれ,どこかで見たことあるような……むー?

「み,見てたんだ……ごめん,その,今見たことは内緒にしてくれるとありがたいんだけど……むしろきれいさっぱり忘れて! ね!?」

「す,すごかったのに……」

「いやあたし全然すごくないからっっ……と,とにかく,お願いね?」

 それだけ言うと,床に置いていた荷物を慌てて拾い上げて走り去ってしまう。彼女が振り向いたとき,毛先に残る桃色がサラリと流れて記憶と顔がマッチする。

「あぁ,名前は知らないけどあれは同級生さんですね。毛色でわかりました」

 うむうむとうなずいていると,突然足元に蹴りが入る。

「いてーのです,なにするのです」

「逃げられちゃったじゃないのっ!?」

「ネコじゃあるまいし。またどこかで会えるのですよ」

「そうじゃなくて……はぁ,絵にしてみたかったのに」

「ふぅむ,それほどまでに激しいダンスだったのですか」

「そうじゃないけど。なんか……すごかったから」

「おや珍しい。あなたが人をほめるなんて。あとはその歯切れの悪さも」

「う,うるさいっ,ほ,ほらっ,さっさと部室行って寝るからっ」

「たまにはちゃんとお茶してほしいのですよ……」

 少しだけ伸びた陽が,そっと昇降口の隙間から差し込んでいた。

桃色さんは誰でしょうか

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