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眠りすぎた姫と。

一年間も二人で寝てたのか…(驚愕)

 ……目が覚めた。あんよいたいいたいなのです。

「ひーーめーーそろそろおきてくーださーい」

 しびれた足をゆっさゆっさしてお膝の上の眠り姫を起こそうとする。

「……やだ、もっと寝かせて」

「もうお外暗くなるのですよ?」

「……暗くなったら夜。夜になったから寝る」

「ここでねんねされても困るのですよー、寝るなら自分のお部屋で寝てくださいな」

「家まで帰るのめんどくさい」

「そうは言ってもですねぇ」

 こうやって暮れ行く夕日の中で私だけのお姫様をじっと眺めてるのもオツなものですが、さすがに私だって人間なのでずっとこうしてるわけにはいかないのです。あんよ痛いし。

「今ねんねしてると本番寝られなくなるのですよ?」

「今も本番だもん」

「うわそう来たか」

 今までにない変化球。スコアブック記録しとくのです。かきかき。

「仕方ないのですねぇ、それならもうちょっとだけ枕になってあげるのです。その代わり」

 足の感覚を狭めて姫の頭を高くすると、わさぁっと広がる髪を整えてあみあみする。

「……やめて、いじんないで」

「やです」

 頭を振って抵抗するのを、今度は足を広げてその間にがっちりホールド。なんかえっちぃ体勢? そんなことはないのです、たぶん。

「私が枕になってても姫さまにしかメリットないじゃないですか。なので私が姫をめでめでする対価をもらっても何ら問題ないのですよ」

「あたしにはデメリットなんだけど」

「等価交換ってやつですよ」

 あ、ここくせ毛見つけたのです。いじいじ。

「……あぁもうっ、起きればいいんでしょ起きれば」

 すっくと起き上がってそのままどっか行こうとする。

「どこ行くのです?」

「……トイレ」

「あっ私も」

 と、立ち上がろうとして盛大にすっ転ぶ。いつにも増してキョーレツなしびれなのですっ。

「……なにしてんの、新しい遊び?」

「そこに突っ立ってないで助けてほしいのですけどー?」

 じたばたじたばた。

「面白そうだからちょっとそのままで」

「薄情な姫さんっ」

 少しは枕を思いやってほしいのです。夜中にぶん投げられるよりマシだけど。あっでも涙に濡らされるならちょっとやってみたい、なんて小ボケを思いつくころには足もだいぶ回復してきて。

「こらー待つのですよー」

 はるか先を歩くちっこい影を追いかけて、ちょこまか千鳥足で廊下を歩いていった。


「さ、帰るのですよ」

「えーめんどくさい」

 すっきりさっぱりした後、荷物を取りに茶室に戻るもうちの姫様は相変わらずの駄々っ子っぷり。

「もうそろそろ茶室閉めて学校出ないとやばいのですよ?」

「むー……」

 と、いいつつ畳に再度寝っ転がって、「お前も早くしゃがめ」と訴えかけてくる。でも今回ばかりは断固拒否。だって下校の門限破りで捕まりたくないもーん。こう見えて私は優等生なのですよ。猫の被り方なら加奈子よりも上手だし。どやぁ。

 とはいえここで引かないのがうちの眠り姫。懲りずに視線が鋭くなる。と、同時にくぅという可愛い音。

「ほら、お腹は帰りたいと言ってますよ」

「……やだ」

「むむむ」

 仕方ない、かくなる上は。と、戸棚を開けておやつを探す。この前使った羊羹の残りと、……あ、舞のおやつだ。これももらっとこう。舞はやさしいからあとで空の袋だけ返しとけば許してくれるでしょう、多分。

「ほーらエサですよー」

「あたしはネコか。……いただきます」

「食べたら帰るのですよ」

 羊羹の切れ端を二人で分けてつまむと、あっという間に消えてなくなる。舞のおやつは個包装のを2-3個拝借して残りは返しときますかね。

「さ、帰りますか」

 今度ばかりはしぶしぶ姫も立ち上がる。さて、茶室に鍵をかけますかね……おや?誰か玄関口に居ますね。このちっちゃさは京ちゃんぽいけどなんか違うような。

「ありゃ、誰かまだ残ってたのですか」

 むむ、誰ですかね。私服だけどここに来れるってことは……なるほど!

「こらこらー、新入生さんはこんな遅い時間に出歩いちゃダメなのですよ?あとおしゃれさんしたいのは構いませんがー、学校の中は制服でですよー。見学はまた出直してなのです」

「うわなんかでっけぇのが出た」

「がびーん」

 ひ、人が気にしてることを……

「でっけーのは美沙さんで慣れてるけどそれよりもでけーです……茶室壊れそう」

「でけーでけー余計ですだよこの新入生」

「誰が新入生じゃでけーの」

「おーい、しほー先輩……ってあれ、螢ちゃんだ」

「おや、その声はわが友、久原さんでは?」

 でかい特権を生かして遠くから歩いてくる影を即座に見つける。どうしたのかしら。

「久原さーんなんか茶室に巨人がいるんだけどー」

「ああ、この人は私の同級生の螢ちゃんですよ」

「どうきゅうせい?」

 こてん、と首を傾げられる。どうせでっかいですよ私は。むすん。

「それより久原さんはどうしてここに?」

「あぁ、先輩が久しぶりに遊びに見えたのでその案内を」

「ふむふむ、してその先輩とはどこに?」

 きょろきょろりん。はて、どこでしょう。

「えと、ここに……」

「む?」

 このどやぁっとしてる人が?先輩?

「はい、こちらが四方田恵先輩です。元々茶道部の方だから面識は……あっ無いか」

 ………とんでもなく失礼なことしてませんでしたか私ぃ……

「っと、そろそろ出ないと用務員さん回ってくるんじゃないですか?」

「あっやばいじゃん逃げよっと」

 そそくさと逃げようとすると、

「こらーそこのでっかいの、後で付き合えー」

 と、ちっこい先輩が後からついてくる。

「姫さん、ちゃんと付いてきてますかっ」

「なんであたしまで……」

「わーっ、待ってくださいよみんな~!?」

 なんてまぁ、よくわかんないまんま校門を駆け抜けて、なんとか門限破りの称号は回避できたのでした。


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