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09

「はぁ……なんで家にいるんですか?」

「約束したからだ」


 午後21時。

 リビングには姉と、私と、初恋の人と再会した同級生の姉がいた。


「悪いですけど行きませんよ、どうせバカにしたいだけなんですよね」

「そんなことは言っていない。やはりお前は馬鹿だな」

「ちょちょ……な、仲良くいこうよ」

「お前はどうなったんだ? 椎と付き合い始めたのか?」

「あ、うん……まあ、そんな感じ」

「おめでとう。七は借りてくぞ、別にいらないだろ」

「そ、それとこれとは別だから! 七ちゃんが大切なのは変わらないもん!」


 姉といるよりかは慈夢さんといる方がいいか。


「わかりました、それじゃあ行きましょうか」

「ああ、行こう」


 外に出てみるとそこにあったのは可愛らしい車だった。


「な、なんですかこの車はっ」

「普通の車だが」

「あの……正直に言って慈夢さんには似合いません」

「う、うるせえっ、早く乗れ!」


 ――で、車を走らせ始めた慈夢さんだったのだが、


「ちょぉっ、こ、怖いですよっ」

「しょ、しょうがないだろっ、乗るのは久しぶりなんだから!」

「ああああー! 電柱にぶつかりますよぉ!」

「う、うるさいっ、黙っていろっ」


 死ぬ、こんなんじゃふたり仲良くあの世へGOだ。

 いかな恋愛で失敗したと言ってもね、まだ死にたくはないんだ。

 頼むから事故にだけは遭わないようにしてほしい、黙っていよう、最後まで絶叫をねじ伏せるんだ。


「はぁ……つ、着いたぞ」

「っはぁ……って、海に行きたかったんですか? あっ! 心中とかしませんからね!?」

「しねえわ馬鹿! ちっ……降りるぞ」

「はい……」


 あんな運転をしておきながら舌打ちて……勘弁していただきたいが。


「慈と七月、どっちの方が本気で好きだったんだ?」

「お姉ちゃんですかね。でも、あのままそういうつもりで関わり続けていたら変わっていました」


 そういえば最後に告白ぐらいしておけば良かったか。

 ばかなのは確かに私だな、他の人とくっつけることばかり考えてさ。


「告白しなかったのか?」

「できませんよ、断られるに決まっているんですから」

「言わなかったら可能性も0だろ?」

「慈夢さんはどうなんですか?」

「慈と一緒に行った日、ちゃんと言った。もちろん、断られたけどな」

「じゃ……責められませんね」


 恐れてできなかった私とは違う。

 一緒みたいな考え方をしてしまったことを謝罪しよう。


「……俺ら似ていると思わないか?」

「慈夢さんとですか? 私が免許証を獲得したらもう少し上手に車を走らせられると思います」

「……それは忘れろ」


 似ているってただ同じ人を好きになっただけじゃん。


「似ていませんよ。私は弱いですからね……」


 何度も言うが、貧乳チビ魅力なしだ。

 ○○より優れているだなんて考えたことはない、多分……。


「なあ」

「なんですか?」

「……俺でどうだ?」

「は……え、それって彼女になってくれるってことですか? 悲しいですね、お互い本命とは付き合えないで」


 まさか慈夢さんからこんなこと言われるとは思わなかったな。

 別に嫌というわけではないけど、急にどうしたんだろうか。


「別にお前と付き合えば七月に会いやすいからとかそういうことじゃない。慈が迷惑をかけたからな、それに俺は意外とお前を気に入っている。まだわからないことは多いだろうが、一緒にいることで理解していってほしい。俺もお前といることで理解を深めていくから」


 意外と優しいことを知っている。

 荷物を持ってくれようとしたりする時点でね。


「じゃあ、ちゃんと言ってくださいよ」

「ああ……えっと、まだ好きじゃないが……好きになれるように努力するから頼む」

「なんですかそれ……」

「ふっ、意外と上手くいく気がするんだ」


 ひとり楽しそうで結構だが、


「悪いですけどお断りですよ」


 いまの私の答えはこれ。

 だってすぐに受け入れたら軽い女みたいじゃん。

 そこまで簡単に捨てることなんてできないし、なによりまだ好きじゃないんだから無理。

 どうせなら両想いの状態でそういう関係になりたいから。


「な、なんでだよ!」

「そのかわり、そういうつもりで慈夢さんといることにします。で、好きになってください。それが無理そうなら忘れて他の人を探してください。私はちゃんと忘れてあげますから。帰りましょうか」

「駄目だ、今日中にって決めてるんだからな」

「無理です、今日中にって決めることはできません」


 こんな歪な始まり方ってそりゃないだろう。

 初恋は実らず、その後も実らず、それでこれってさあ。


「怖いのか? 裏切られるんじゃないかって」

「いや、私も一応女ですからね、恋愛というものに夢を抱いているんですよ。普通こういうのは両想い同士が付き合うからこそいいんじゃないですか」

「一緒にいれば変わるかもしれないだろ?」

「だからそう言っているじゃないですか。あくまでお友達として一緒にいて、椎さんやお姉ちゃんみたいな関係になれたらいいなと考えていますよ私」


 前向きに考えているのだから感謝してほしい。


「駄目だ」

「もう……どれだけ私のことが好きなんですか」

「それこそ圭子風に言うなら、お前を譲りたくないってやつだ」

「姉に振られてから時間経ってないですよ」


 なんでそれ知っているんだか。

 私の周りのことが簡単に周囲に広がりすぎ。

 サケさんがお喋りなんだろうなあ。


「捨てるためだったんだ」

「チョロすぎますよ、出会ってから時間経ってないのに」

「……悪い、マジで真剣に考えてくれないか? 別にいまは好きじゃなくてもいい。もし時間が経った後にそういうつもりになれないと思ったときはどこかに行ってもいい。でもいまは……一緒にいてくれ」


 常にあと一歩のところで報われない自分が求められている。

 こんなことなかなかない、もし断ったりなんかしたら再度言ってくれることはないだろう。


「寂しかったんですか?」

「……まあ、それなりにな」

「ちょっと抱きついてもいいですか?」

「ああ」

「よいしょっと……んー、姉と違って胸がないですね」

「お前もないだろっ」


 柔らかくない、全体的に硬めな気がする。

 一旦離れて下まで全て握って持ち上げてみたら、割れてる腹筋さんが挨拶をしてきた。


「な、なにをするんだ!」

「だって硬くて……姉の場合はむちむちって感じですからね」


 太ってないのに柔らかすぎると言うか、あれはやばい。


「筋トレが好きなんだよ。だからなにかがあったときは守ってやれるぜ」

「あ、いまの格好いいですね、女の子って感じがしませんけど」

「黙れっ」


 でもちゃんと胸はあるし女の子だ。女の子なら誰でもいいというわけではないが、まあ格好いい人が求めてくれているのなら応えておくべきか?


「そもそも私、慈夢さんの電話番号すら知りませんけど」

「そんなのいくらでも交換してやるよ」

「慈夢って呼んでいい?」

「別にいいぞ、敬語だっていらない」

「でもなー……」

「なんだよ……ハッキリしろよ」


 散々人を利用してきた私が言うのもおかしいけどさ、これじゃあ慈夢を利用しようとしているってことじゃん。そりゃ確かにひとりは寂しいからありがたいよ? でも、彼女にメリットがないもないじゃないか。私じゃ満足させてあげられないし、いまからでも考え直したほうがいいじゃないだろうか。


「もっと他のいい人を探しなよ。私ってほら……魅力ないから。だからほらあのえっとその……姉にも慈にも受け入れてもらえなかった。この時点でそういうことじゃん? 元からわかっていたけど余計に直視する羽目になったって言うかさ……うん。まあ、無理すんなよっ! なんてね、慈夢の喋り方真似てみたけどどうかな?」


 私のためを考えたら受け入れる方がいい。

 でも、慈夢のことを考えたら受け入れたらだめだ。

 だって冷静じゃない、後から絶対に後悔するはず。

 その時に責められても嫌だから、私が取れる行動はこれだけ。


「ゲームセンターのときさ、意外にも優しく教えてくれて嬉しかった。お金はやっぱり受け取れなかったけどさー、楽しかったのは確かだからね」


 ここまで言えば年上だもん、納得してくれるよ。

 黙っているということは肯定しているのと同じだ、つまり私は魅力なし、決して卑下だけじゃない。

 姉以外の年上の人と付き合えるなんてこの先多分ないだろうけど、自分を優先するのはやめなきゃ。


「駄目だっ」

「えっ、ん――」


 限りなく強い力と、有無を言わせないほどの勢い。


「……はぁ、許せよ」


 彼女は私を抱きしめるのをやめて、少しだけ距離を作った。

 遅ればせながら、されたことを自覚して……私の方も距離ができる。


「今日中だ、それしか駄目だ。それとな、魅力がないとか勝手に言ってんじゃねえよ」

「いや……だからって……するの?」

「魅力を感じない女にするような女に見えるか?」

「……こういうことは全然しなさそう。というか、相手の気持ちとか全然気づかなさそう。逆に、たらしで誑かしてそう。女の子も男の子もその気にさせてそう」

「お前の中で俺のイメージが悪いことはわかった」


 だって順序というのが大切だろう。

 それをいきなりすっ飛ばして恋人同士がするようなことしてさ。


「初恋が七月だからな、初めてしたんだぞ」

「振られてからすぐなんですが」

「それぐらい……見ていられなかったんだよ、悲しそうに笑うお前が」

「って、今日まであんまり一緒にいなかったけど」

「全部、慈と圭子から聞いてた。なんなら椎や七月からだって聞いた。泣いてたんだろ?」

「まあ……弱いからね」

「だから俺が支えてやる。だからさ、お前は支えられていればいい。頼むよっ」


 ここまで言わせておいて断るなんてできないよ。

 本当にずるい女の人だ、まあ一緒のチョロインでお揃いかもしれないけど。

 それになにより責任をとってもらわねければならない、ファーストキスのね。


「わかったよ」

「ああ、ありがとな」

「でも、帰りはちゃんと運転してね?」

「ま、任せておけ。大丈夫だっ、車だって少ないからな」


 ――そう言った数分後。


「あー! 対向車線にはみ出してるって!」

「な、なんでだぁ……」


 ま、そんなすぐに変わらないよねってオチだったけど。


「……ありがとね、私を求めてくれて」

「ははっ、ま、同じ敗北者同士だからな」

「確かにっ」


 意外と彼女の笑った顔は好きだから隣にいられるのは素直に嬉しかった。

 ただまあ、ちゃんと生きて帰れるようにと、目を閉じて神様にお願いする羽目になったけどね。

読んでくれてありがとう。

お姉ちゃんと付き合わせるつもりだったんだけど……。

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