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05

「どうも」

「あ、どうも」


 お買い物途中に話しかけられました。

 同じ制服を着ていること、同性だということからそこまで緊張はしてない。


「今泉七、だよね?」

「はい、今泉七です」


 私の名前を知っているということは同級生さんだろうか。

 三編みで眼鏡をかけてて常に本を読んでそうな女の人。


「あ、ここだと迷惑がかかるから出ようか」

「そうですね。その前にお会計を済ませてからですけど」


 お母さんから預かっておいたお金を利用し購入した。

 マイバッグに詰めてから外に出ると、その女の人は予想通り本を読んでいた。


「あ、来たね」

「はい、お待たせしました」

「行こっか」

「はい」


 お魚とかも買っているからあまり長居はできないけれどと考えていたら彼女が足を止めたのは自宅前。


「開けて、中で話したい」

「わ、わかりました」


 ここ、私の家なんだけど……なんで知ってるんですか?

 ……しょうがなく鍵を開けると、勝手に先に入っていった。

 姉の友達? 慈や慈夢さん? それとも椎さん?

 その誰とも関係があるようでないような名前も知らない女の人はとにかく自由だ。


「七は慈と仲いいでしょ?」

「慈とですか? そうですかね、あの子が優しいからだと依然として思っていますが」

「そんなんじゃないよ、私にはわかる」


 慈の友達か? でも、1回もこの人といたところは見たことがないけど。


「あ、私は鮭って呼んで」

「お酒? それとも、これ?」


 バッグから取り出したのは鮭の切り身。


「そう、鮭。ま、偽物だけど。本当の名前を教えても意味ないでしょ」

「は、はあ……じゃあ、カタカナでサケさんと呼ばせてもらいます」

「うん」


 はぁ……なんなのこの人、最近の姉ぐらいよくわからないよ?

 でもまあ、乱暴な人ということではないらしい、床に正座しているし。さっき靴を揃えていたし。


「で、本題。私は慈と仲良くなりたい、どうしたらいい?」

「え、私の方は慈が近づいて来てくれた形ですからね……」

「なんでもいい、意見ちょうだい」


 ○○さんと仲良くなりたいということなら積極的に動いていくしかない。

 慈みたいに? それはちょっと自惚れかもしれないけれど。


「仲良くなりたいならまずは近づかないとだめですよね。そして、近づくだけではなく話しかけることもしなければなりません。あとは……うーん、がっつかないことでしょうか。最初は多少謙虚すぎるぐらいでもいいと思います」

「なるほど」


 ああ……偉そうに言って……全部慈のおかげなのに。


「そういえば私は2年生だけど敬語を使わなくていいよ」

「そ、そういうわけにはっ!」


 2年生だったのか、上級生にも伝わる彼女の魅力ってすごい。


「サケさんはどうして仲良くしたいんですか?」

「ああいう明るい子といるとキラキラしていて眩しく感じるでしょ? 私はそれが嫌いじゃないから」

「わかります! でも、それだけじゃなくて優しい子なんですよ本当に!」


 私の名前を笑みを浮かべながら呼んでくれるところが好きだ。

 姉との約束があるうえにそういうことがないということは分かっているが、それでも期待しちゃう。


「それに私、暗いから」

「そんなことないと思いますよ」

「でも、地味だとは思ったでしょ?」

「いえ。私がこんなのですよ? 人の顔や雰囲気をバカになんてできません」


 こちとら貧乳チビ普通魅力なしだぞ、よっぽど暗いと思われてるわ。


「私はね、本を読むのが好きなの。だからいつも地味子とか本が恋人とか思ってそうとか言われてる。七はそういうこと言われたことある?」

「チビとか姉と全然似てないなとかドジだなとか言われたことありますよ。だけど、私は気にしないようにしています。言いたい人たちには勝手に言わせておけばいいんですよ」


 いちいち噛み付いて向き合うぐらいなら、とことんこちらが寛容になってあげようとする。

 言われても気にならないって、逆にそれだけ自分のことを見てくれているんだって心を広く。

 だって完全に悪口を言われないなんて無理だろう。

 傍から見たらただ諦めているだけようにしか見えないかもしれないが、私はそれでいい。


「自信を持ってください! それに、慈はそういうことで友達にならなかったりはしませんよ!」

「慈のことをよく知ってるんだ」

「え、あんまり知らないですよ。笑顔が可愛い、手が柔らかい、意外と繊細なところがある、笑顔が可愛いぐらいしか知らないです」


 連絡先だって交換していないしね。

 この時点で姉が危惧しているようなことにはならない。

 というか、どうして姉が私が他の子と仲良くすることを気にするのかわからないけれど。


「わかった、ありがとう」

「いえ」

「帰るね、参考になった」

「気をつけてくださいね、私で良ければ相談にはいつでも乗りますから」


 良かった、今日は姉が帰ってくる前に他の人を帰還させることが――できなかったようだ。

 彼女が出ていってからすぐ、台所側の扉を開けて姉が入ってきた。

 あからさまに頬を膨らませていて、あ、また文句を言われるということはすぐにわかった。


「言っておくけどね、慈ちゃんじゃなければいいなんてことはないからね?」

「そういうのじゃないって。椎さんとはどうなの?」

「あ、それなら今日も一緒に授業を受けたよ。一緒にごはんも食べたし、一緒にお昼寝もしたし」

「おお、なんかいいね!」

「でしょ!」


 ひとつ学ぶ、椎さんの話を出せば話題を強制的に変えられると。


「椎ちゃんと出会えて良かったなあ」

「良かったね。今日は鮭だよ」

「好きだからいいよー」


 よしよし、これだけ喜んでいるということは良好ということだ。

 こちらの心配なんてしてくれてなくてもいい、どうせなにも起こらないのだから。

 私はただ楽しい生活を送れるだけで十分、慈たちといられるのは嬉しい。

 ぱっと焼いたりお味噌汁を作ったりして着々と準備を進めていく。


「できたよー」

「はーい」


 よく考えたらごはんを作ってあげてるだけで十分役立てているような。

 おまけに側にいてあげていることで満足感を得られているようだし、案外意識しなくていいのかも。

 嬉しそうにはむはむ食べている姉をじっくりと眺めて、胃袋は掴めているような気分になった。


「ぷはぁ、七ちゃんが作ってくれるとなんでも美味しいからいいよね!」

「食材さんが優秀なんだよ。だから感謝して食べないと」

「そうだね!」


 ……でも、手を伸ばしても届かない場所に姉はいる。

 昔からそうだったかもしれないが、姉にとって大切な存在が切り替わってしまった。

 椎さんの話ばかりする姉には嫉妬もするし、あの人の話をするなら一緒にいたくないくらいだけど。

 って、自分から出しているのか、そういうのを感づかれないために。


「七ちゃん?」

「なんでもない……」


 別に元々無理だったことだ。

 私たちは血の繋がった姉妹だ、付き合うことなんて不可能。

 それにそういうつもりで求められていたわけではないのだから嫉妬もしてはならない。

 ……私が大きくなったらお姉ちゃんのお嫁さんになるって言って喜んでくれていた姉はいないのだ。


「お風呂入ってくるね、洗い物は置いておいてくれればいいから」

「えっ、まだ食べてないじゃん!」

「後で食べるよ、ちゃんと感謝しながらね」


 とりあえず流せるものは流しておきたい。

 無駄なものばかり抱えていてもしょうがないから。

 姉への気持ちは捨てて、慈に集中していく。

 最近は雰囲気も悪くないし、もしかしたら……いやまあこれは願望だけど。


「っくしゅっ……大丈夫」


 椎さんと上手くいけば、姉はいまより幸せになれる。

 好きな人と結ばれることが幸せでないはずがないのだから。


「七ちゃん、大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」


 なんてことはない――ようにいまからするから大丈夫だよ。

 と言うことはせず、かといって信じてももらえないだろうから扉を開けて顔を見せた。


「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」

「……無理してない?」


 誰のせいだと思ってんのか……中途半端に甘えてくるせいで辛い気持ちを味わうことだってあるのに。


「うん、お姉ちゃんがいてくれるだけで私は元気になれるから」

「そっか……なら良かった」


 特別にはなれないけど家では横にいさせてほしいとそう思ったのだった。




「慈、早く風呂に行け」

「はーい」


 友達とのトークを終わらせてなんとなく友達欄を眺めていたときのこと。


「あ!?」

「ど、どうしたっ!? 悪口でも書き込まれたのか!?」

「ううん、それは大丈夫」

 

 しまったっ、まだ七と交換していなかったことにいま頃気づくなんて。

 あの子のことだから、そういうつもりで認めてないから言ってこないだとか考えてそう。


「しまったなぁ……」


 これじゃまるで口先だけみたいになってしまう。

 七といられて落ち着くから一緒にいたいと言ったのは紛れもない本心からだ。

 七と一緒にいるの好き、とまでは七月さんが帰ってきたことで言えなかったけれど。

 でもそれってなんかなにか事情があるみたいじゃん。

 本当にそう思っているんだから七月さんのことなんか気にせず宣言しておくべきだったのに。

 はぁ……本当にあの子が優しいから一緒にいてくれてるだけだなと本気で自己嫌悪。

 あの子にとって私はプレッシャーをかけてくるような悪い存在ではないだろうか?

 さて、これからどうする?

 いまからでも七に会いに行くことはできる。

 家は近いし、そんなに時間が遅いわけではないから迷惑ということもないはずだ。

 どうやらあの子の両親は帰りが遅いみたいなので、遭遇して緊張ということもないだろう。


「お姉ちゃん、ちょっと七の家に行ってくる!」

「は? それなら俺も行く。ちょっと七月と話したいことがあったからな」

「わかったっ、じゃあいまから行こ!」


 早く行けって心が叫ぶ。

 けれど陸上選手というわけでもないから、割とすぐに歩きへと変わってしまった。


「七が好きなのか?」

「うん。でも、そういう意味では気になっている状態だけど」

「そうか」


 あれ、珍しく怒らないんだ。

 私が他の子と一緒にいたりすると「あんなやつらとは付き合うな」ってよく言うのに。

 お姉ちゃんの中でも七の印象っていいのかな?


「ここか」

「うん」


 インターホンを鳴らして数秒待つとお風呂上がりっぽい七が出てくれた。

 なんだかいつもは可愛いのにちょっとした色気がある気がしてすぐには言葉が出ず。


「七、七月はいるか?」

「はい、上にいますよ。どうぞ」

「ああ、お邪魔する。慈がお前に用があったようだから相手してやってくれ」

「わかりました」


 ああ……情けない、最初の勢いはどこにいってしまったのかという話。


「どうしたの?」

「ご、ごめんね、いきなり来て」

「別に大丈夫だよ。上がって、ちょうどお湯を沸かしているところだから紅茶飲んでよ」

「ありがとっ」


 この前、彼女と手を繋いだソファに座らせてもらったのだが……なんか気恥ずかしくて落ち着かない。

 おまけにあれだ、忘れてたとか言ったらどういう反応をするのか。

 あとはその……嫌だと言われたら相当傷つくかなと……。


「はい」

「あ、ありがとう」

「横、いいかな?」

「って、七の家なんだから変に遠慮しなくていいよ」


 いい匂いがする……もっと近くで嗅いでみたい。

 でもそんなことをしたら変態臭いから、スマホを取り出し彼女の目の前に差し出した。


「れ、連絡先! 交換、してほしいんだ」

「あ、あははっ、私、認められていないのかと思った」

「そ、そんなことあるわけないじゃん!」


 忘れててごめんっ。

 けど、いまから交換すれば問題なしっ。


「いいよ、交換しよっか」

「うん!」


 なんでこんな緊張するんだろう。

 同級生の女の子と仲良くしたいというだけなのに。


「おぉ、家族以外で初めてだよ」


 やったっ、私が七の初めてを貰えたっ。

 って、どれだけ好きなのか……恥ずかしくてこんなこと言えないよ。


「そういえば今日のことなんだけどさ、慈と仲良くなりたいって先輩さんが来たんだよ」

「先輩が私と?」

「うん。すごいね、慈の人気ぶりは」


 先輩が私と仲良くなりたい? いままでこんなこと1度もなかったけど。


「名前は?」

「サケさん」

「さ、さけってあのお魚の鮭?」

「本当の名前は教えてくれなかったの。そうやって呼んでくれって言われたから」

 

 名前を教えてくれない年上の人……え、まさかそれって。


「ね、その人、三編みじゃなかった? 黒色の眼鏡でさ」

「うん、そうだよ」


 かなりの衝撃が走った。

 その人は私が昔、好きになった人。

 クールで落ち着いてて、他人に悪く言われても涼しく対応して格好良くて好きだって言ったんだ。

 でも、恋愛自体に興味がないと言われてしまい、初恋が終わってしまったわけだが……。


「その人が仲良くしたいって?」

「うん」


 あ……七にあんなこと言っておきながら揺れた自分がいた、いてしまった。

 もちろん、横で紅茶を飲んで「あちっ」と漏らしている彼女には言えなかったのだった。

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