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第四十九話 議論


 さてさて、フレア様に見事なまでの啖呵を切ったはいいけれど、実際この世界で元の世界の技術が再現できるのかは謎だ。

 思い付く限りの事はやってみるつもりだし……いや、違うな。出来なければ、俺の価値を示すことが出来なければ、この作戦は全くの無価値なものになってしまう。

 なんとか争いを回避するためにも、死ぬつもりでやらねば。



「ということで、宜しくお願い致します」

「いや、どういうことじゃ。ワシとしては争って貰うほうがてっとり早いのじゃが」

「それは無しの方向で。つうか、なんでろり神様は姿現してんの? そういえば」


 ソファにだらんと横になり、テーブルの上に山盛りに置かれたフルーツを摘まんでいるろり神様。

 どうにも先日のダンジョン以降、ろり神様は以前の様に俺だけに見える姿ではなく、他のみんなにも見えるようになってしまっている様だ。


「しかたあるまい。あの洞穴に入るには、こっちの世界の姿が必要じゃった。まぁ直ぐに戻っても良いのじゃが、せっかくこうやって受肉したのじゃ。たまには旨いもんでも食いたい気分なのじゃ」

「そんなにほいほい神様が受肉とかすんなよ……つっても、元の世界の神話も似たようなもんか」


 某最高神も、美しい女神を口説く為に動物に姿を変えたりしてたしな。

 それに……いや、まだあまり憶測で考えるのは止めておこう。レガリアが抑えてくれているとはいえ、俺はどうも顔に出やすいタイプな様だし。

 いまはやるべきことをやろう。


「まぁ、そういう事だったら俺のやろうとしてることも、ろり神様には価値があることかもしれないぜ? なんせ、元の世界の現代科学は、この分野の発達と共にあると言っても過言じゃねえし」

「ふーむ……まぁ、あまり文化汚染されるのも好きではないが、この世界の法則を準拠してやるのであれば止めはせん。が、やはりワシを宛にはするな。ワシら神はそんな小難しいことを考えんでも、それくらいの事は自然に出来る」

「うわ、出たよ。無自覚チート野郎共。これだから神は」

「貴様らの考える『便利』如きが出来んで、何が神か。かーっかっかっかっ! まぁ良い。ワシはちと昼寝でもするかのう」


 小さく欠伸をしながら、ベッドへと潜り込んで行くろり神様。色々とツッコミどころもあるけれど、今は置いておこう。


「えっと……ヒロさん。今日は私たちは何をすれば良いのでしょう?」

「あぁ、ごめんねアンナ。みんなも、待たせた」

「いいや。何やら面白そうな事をしようってんだ。さぁ、何をするのか教えておくれよ!」


 集まって貰ったのは、獣人達の中でも比較的魔力を保有する人たちだ。ちなみに、いま俺たちが集まっているのは急造した俺の家である。以前、村で住んでいた森の近くの小屋を取り壊して作って貰った。

 ここに居るのは魔道具の製作が得意な砂漠青ネズミ族の皆さんが主だが、計測したところアンナも結構な魔力を持っていたので一緒に来てもらった。


「えっと、先日説明もしましたが、このまま行けば俺たちはアウグスト王国と衝突してしまう可能性があります。獣人の皆さんはそれでも良いとおっしゃる方もいますが……俺は出来ればそれは避けたい」

「ふむ、それはわからないでもないさ。あちし達はヒト族に遺恨もあるが、あちし達の子供達にまで同じ事をさせていいのか……その怨恨を断ち切りたいんだろ? それについては、皆で話し合って一応は納得となったさ」


 砂漠青ネズミ族の代表・ニックさんの言葉に、俺は深く頷く。

 多分、正直なところで言えば、ニックさん達も全てを納得してくれているわけでは無いだろう。その気持ちもわかる。

 友を、親を、子を。無惨にも殺された身であれば、復讐をしようと考えるのは至極当然なのだ。

 しかし、その恨みの連鎖はいつか、何処かで断ち切らなければいけない。まぁ、断ち切る方法としては、『相手を滅ぼす』というのが一番手っ取り早いのは間違いでも無いのだけれど。


 しかし、そんな修羅の道を選んで、その後はどうするか。

 自分達の未来を、その先に生きる子供達にその業を背負わせることができるのか。

 その点も交えて、俺は獣人のみんなに時間をかけて説得させてもらった。

 勿論、それで『はい、そうですね』と納得して貰えたわけじゃない。むしろ、それで納得出来るような恨みであれば、そんなものは無かったも同然だ。実際、揉めに揉めた。


 そこで俺は、そんな恨みさえも凌駕するほどの材料を実際に見て知って貰う事にした。

 俺の……否、元の世界の技術の叡智と、その利便性を。

 恨みと、未来に繋がる可能性。その二つを天秤にかけて貰ったのだ。


 そして、天秤は未来へと傾いた。


「なぁなぁ、早く教えておくれよ! 遠話の魔道具とやらの作り方をさ!」

「勿論です。ですが、最初にも言いましたが……」

「絶対に技術を秘匿しろ、だろ? 大丈夫さ。みんな既に用意してる」


 そう言って砂漠青ネズミの皆さんとアンナは、それぞれ一枚の紙を取り出した。

 それは契約の魔法で生成された、お互いを縛るためのものだ。


・ひとつ。契約者・甲は、契約者・丙から知り得た情報を、許可なく第三者に口外、または開示することを禁ずる。

・ひとつ。本契約が破られた場合、契約者間で定めた罰則が適応される。これは、いかなる事情があっても履行される。

・ひとつ。本契約は、契約者双方の同意があった場合のみ、破棄をすることが出来る。


 まぁ要するに、知った事を漏らさないでね。漏らしたら罰があるよ、というものだ。

 魔法で作られたこの契約書は、この世界では割りとポピュラーであり、それこそベラシア村なんかは村なのであまり使われる場面もなかったが、都市部へ行けば普通にあるそうな。

 ちなみに、今回定めた罰則は『死』だ。重すぎる様にも思えるかもしれないが、遠方への会話が誰でも出来るということは、現代では当たり前になってはいるがかなりヤバイことである。

 そもそも元の世界でも、通信技術の発展は軍事技術の発展と密接の関係にある。元々やべえものなのだ。


 さて、魔法の中に遠話の魔法は存在する。が、これがかなり難易度の高い魔法である。


 まず、魔力を遠くへ飛ばす技術を要する。例えば炎を飛ばす魔法を思い浮かべて欲しい。その有効射程距離は、せいぜい数百mあれば優秀な方だ。魔力を以て、その効果を保ちつつ飛ばせる距離は短いものだ。

 次に、飛ばす相手の魔力を、その位置を正確に把握する必要がある。だだっ広い世界で、相手の位置情報を把握しておかなければ、やみくもに魔力を飛ばして探す必要があるのだ。

 次に、飛ばす相手の魔力に干渉する能力を有する。魔力は基本的に、外部からの干渉を受けにくい。内部から外部へ向けて発することは容易だが、内部への干渉となると途端に難易度があがるのだ。このせいで、回復の魔法はベリーハードであり、薬学が発達した様だ。

 次に、それを返信する技術が相手にも求められる。遠くの相手の魔力を察知し、それに干渉して話す事が出来る能力を持った者が二人居て、ようやく実現できる技術なのだ。遠話の魔法というものは。


 いかに困難な話か。ちなみに、電話はそれらを瞬時に行っているのだ。そりゃあ便利なわけだわ。

 余談だが、遠話の魔法が使える人は、だいたいが国に厚待遇で召し抱えられるらしい。そりゃあそうだろう。数キロ先に情報を伝える事ができるのであれば、いくら金を積んでも欲しいものだ。


「さて、これが遠話の魔術に必要なプロセスな訳ですが……それらを魔道具で再現するにはどうすればいいでしょうか」

「うーん……魔力を遠くへ飛ばす、というのはなんとかなるだろうねぇ。砲術の魔道具なんかはまさにそれだ。魔力を溜め込んだ核からぶっぱなせばいいだけさ」

「だが、相手の位置を知るのは難しくないか? 察知の魔術を使うのはなかなかに難しい」

「魔道具自体から位置を知らせる機能を付ければいいんじゃないか?」


 侃々諤々。

 砂漠青ネズミの皆さんは次々と、どうすれば魔道具が再現できるのかを話し合い始めた。そこには部族での立場や年齢は関係なく、ただただ一人の技術屋としての生き生きとした顔があった。

 アンナはその議論の迫力にたじたじとしているが、それでも何とか参加しようと耳を傾けている。兎耳を。


 実際、現代技術の知識がある程度あれば、答えは直ぐに導く事ができる。しかし、それではいけない。

 技術や知識というものは、噛み砕いて理解して、初めて形となるものだ。

 急に与えられたからといって、それが十全に機能することは難しい。特に、異世界であれば尚更だ。文化や技術体型が全く違うからね。


 そこで、俺はまず答えの先にある完成形のあり方を提示してみることにした。

 『元の世界ではこんな物が()()()()()存在するぞ』、と。

 当たり前に存在するのであれば、再現できるのが道理である。では、それには何が必要なのか。それを考え、議論させているのだ。


 そう、何も全てを教える必要はない。

 何故なら、その完成形を元の世界で作り上げた天才達は、マジでなにもない所から技術を発展させて作り上げていったのだから。

 完成が存在するという情報こそが、まざに千金に値する最大の情報なのだ。


「だが、それがヒロの居た世界では皆が持つほどに普及したのだろう? コストの問題がある」

「それに、性質上それぞれが同じ能力でないと難しいな……」


 議論に行き詰まってきたみんなが、一斉に俺を見てきた。

 さて、では答え合わせといこうか。

 と、言うわけで、まずは通信の魔道具からとりかかるそうです。

 小説作品などに結構頻繁に登場する、通信の魔道具さん。あれ、凄まじく難易度の高いことやってます。

 ちなみに遠話の魔法が存在しなかった場合、この計画はいきなり暗礁に乗り上げます。現代での電話の発達において、いくつか存在したハードルの中に、『遠方に声を伝える概念が存在しない』というものがあったからです。

 電話とは凄いものですね。

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