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第四十八話 交渉


「えっと、申し訳ありません。無理です」


 俺はフレア様の問いにバッサリと答える。もうそれは一切の迷いもなく、バッサリと。

 流石に一秒も迷わずに即答した事に驚いたのだろう。ピピルさんもリッチの親父さんも驚きの表情を浮かべる。


「ふむ……理由を聞こうじゃないか。あ、いや、先に私の方から言わせて貰おう。これは別に貴族としての地位を振りかざして、君に横暴をしようというわけではない。本件があくまでも、今後我が領だけにとどまらず、アウグスト王国自体の問題へと繋がりかねない件であるから、問うているのだ」

「それは理解しております。ただ、それでも無理なのです。例えば爪を全部剥がして渡せ、と言われれば、痛いし嫌なのは間違いないですが、出来なくはありません。しかし、心臓を抜き出して捧げろと言われても、はいどうぞとは申し上げられませんので……」

「…………なるほど。君は、レガリアと一体化したということか?」

「その通りです。あ、でもこうやって見せることはできますよ」


 俺は手のひらの上にレガリアを出して見せた。輝く十二面体の結晶が現れ、皆興味深げにそれを見つめる。


「そうであれば仕方がないか。だが、それで王国が納得すると思うかね?」


 フレア様は片目を瞑り、もう片方の目で見つめてくる。

 おや? 何やら妙な魔力を感じる。多分、あの目がなにかをしてきているのだろう。まぁ、別にだからといってどうこうするわけでもないけど。


「納得して貰うに他ないですね。それ相応の材料は用意するつもりですけど」

「ほう? マレビトの知識というやつか。だが、大丈夫か? 知っているかもしれんが、この世界は定期的にマレビトがやって来る。既に結構な量の知識が流入してきているが」


 そうなんだよなぁ。まだまだ発展段階ではあるけど、既に元の世界でいう所の産業革命程度なら通過しちゃってるんだよね。この世界。

 だからベラシア織の工房以上、工場以下の様な施設もあるし、なにやら大陸中央には鉄道もあるらしい。まぁ蒸気の代わりに魔力なんだけど。

 まぁ、それでもまだまだ発展の余地はある。つうか、確かに産業革命は凄い転換期ではあったが、発展を曲線グラフにしたときの、現代の上がりっぷりはまじでバグレベルなのだ。


 特に、電子部品や半導体技術。これが発展したことで、様々な『便利』が産み出せたのだ。

 まぁその辺りは知識が必要になってくるんだけど、幸いにも元の世界でとった杵柄というやつだ。半導体の知識はそれなりにある。

 そして、足りない部分はこっち特有のとんでも素材、魔力さんでなんとかできるんじゃないだろうか。

 というのも、砂漠青ネズミ族の作った魔道具を見て、それは確信に変わったのだ。


「フレア様。例えば……魔道具というものがありますよね」

「あぁ。魔力を注ぐ事で、魔法に似た現象を起こす道具だな。それがどうした?」

「あれの欠点で思い付くことはありませんか?」

「欠点? そうだな……まずは、作ることが難しい。あれは手先の器用な種族が、一つ一つ魔力を注いで作ると聞く。それに、素材が高価な点から魔道具自体も高い。そしてなにより、二つとして同じものが出来ない」


 そう、魔道具とは基本的にワンオフなのだ。というのも、ハンドメイドであるので一つ一つが出来に差があり、同じような物を同じ人が造ったとしても、その出来映えはまちまちなのだ。

 まぁそりゃあそうだろう。自分が書いた字を同じ風に書こうとしても、ほんの数ミリの差は出てくる。しかし、魔道具というものは簡単にいえば魔力を用いて核に回路を書き込み、あらゆる動作を平行して行っているのだ。つまり精密機械と近しいものがある。

 さて、そこで問題になってくるのが回路自体に生じる誤差だ。半導体では数ミリの誤差はもはや別物となる。

 わずか数ミクロンの突起や異物で動かなくなる。精密機械とは、その様なミクロの世界で成り立っているのだ。


 ちなみに何故そんなことを知っているのかというと、例のブラックな会社に就職し、取り扱い製品の知識が必要だと社長から受けさせられたのだ。半導体技術者検定を。

 試験の難しさから一度落ちてしまい、二回目からは自費で受けなければいけないという地獄を味わった。あれ、高いんだよ……受験料。


 まぁそんなことは置いておいて。

 つまり、魔道具の核である部分さえきちんとした規格のもとに製造することができれば、同じ魔道具の生産も夢ではないのだ。

 つっても、まだそんな物を作る暇もなかったんだけどな!


「…………というわけで、私の知識を活かせば、そんなことも出来るかもなー…………的な?」

「なぜ最後の方で自信無さげなのだ」

「やってみないことには……ねぇ?」

「俺に話を振るな! 俺はそういう学者先生の考えることなんざ苦手なんだ!」


 リッチの親父さんがそんな事を言っている。が、多分この親父はそう言いながら、俺の話をちゃんと聞いているだろう。

 はっきり言って、間者とは馬鹿には勤まらない。あらゆる場面を想定し、時には愚鈍を装いながら、人に真の姿を見せずに情報を集めるのが彼らの仕事なのだから。


「そういう事なので、フレア様にはしばらくの間、王国を押さえてもらいたいのです。あ、獣人国の方は何とかしますので大丈夫です」

「待て。何故当然の様に私が協力する話になっているのだ。別に構わんのだぞ? いまここで貴様らを領敵と見なし、兵をけしかけても」

「またまたご冗談を。間者を仕込んでいるのであれば、知っているでしょう? 俺がいまここでフレア様を亡き者にし、ピピルさんとリッチの親父さんも一緒に行方不明にすることが出来ることくらい」


 俺はあえて無表情でそう言った。嘲りも、憤慨もなく、ただ真っ直ぐに。

 そんな俺の目を真剣な眼差しで返してくるフレア様。

 と、その時。ちょうど夕刻を知らせる鐘が鳴り響き、フレア様がフッと表情を崩した。


「あぁ、知っているとも。そして、そんな魔王の如き物言いをしてくるマレビトが、争いを好まぬということもな。やはり、その目は嘘をついておらぬ」

「真贋を見抜く的なモノですか。しかも、鑑定にも引っ掛からない」


 先程から【解析】でフレア様を見ているが、妙に靄がかかったような見え方になり、どんな能力なのかがわからない。


「まぁな。いい女というのは、少なからず秘密ごとがあるものだ。無用な追究は野暮だぞ」

「それを言われれば控えざるを得ませんね。フレア様のいう通り、俺は出来れば争いを回避したい。そして、そこに価値があるのはフレア様も同じでしょう? であれば、協力はしてくださるはず」


 俺という未知数の敵を相手に、王国と共に討ってくるか。

 それはリスクはあっても旨味は一切ないと言っても過言ではない。

 何故なら、どれ程の被害が出るのか定かではない上に、自分の領地で争いが起こったというモザン領にとっても聞こえの悪い話であるし、なによりアウグスト王国の介入を領地に許してしまうこともある。

 恐らくフレア様にとっては、いまのアウグスト王国は仕えるに際して、あまりいい環境とは言えないのだろう。むしろ、なんか国を獲りたがっている気配もあるけど。


 どちらにせよ、それなら尚更俺を懐に入れてしまったほうが、今後の事を考えてもベストではなくてもベターと言えるだろう。まぁ毒になる可能性も考えてるだろうけど。


「……良いだろう。君の提案に乗ってやろう。ただし、それはあくまでも私個人として、君と協力関係を結ぶに限るがな」

「領主代行として、という立場ではなくですか?」

「仮に君が毒であった場合、私の首ひとつでは済まなくなる。私は決して、領主になりたいわけではない。領地を発展させ、領民を少しでも豊かにすることが目的だ。その為に、領主になる必要がある。それだけさ」

「確かに、それで王国から責任を問われれば、領地自体が危うくなりますからね」

「そうだ。私は、父の……いや、代々領主が愛してきたこの地を、また同じように見守っていきたい」


 迷いも曇りもない瞳で言い切るフレア様。

 俺はまだフレア様の人となりを知らないし、直ぐになんでもハイハイと信じられるほど純粋でもない。

 だけど、その瞳は信じるに値すると直感的に思った。それに、打算的な事を言ってしまえば、やはりここで協力関係を結んでおくことに越したことはない。


「フレア様、どうぞ宜しくお願い致します」


 俺は再度、深い御辞儀をして見せたのであった。

※どうしよう……半導体の説明しだしたら、話すすまなくなるぞい。まぁ簡潔に言えば、電気が流れる物質『導体』と、電気が流れない物質『絶縁体』。両方の性質を持つのが『半導体』です。

 電気が流れる部分に役割を持たせたり、流れない部分を利用して様々な事が出来るようにするって感じですね。

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