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元社畜の転生賢者は、過酷な異世界に行っても休めない  作者: 赤坂しぐれ
第三章 ベラシアの森ダンジョン編
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第四十四話 天界

※今回、文中で 視点が切り変わる場面があります。『──』部分で変わりますので、御注意くださいね。


 天界とは、あくまでも地上に生きる人々がそう呼ぶだけの物であり、決して空の上に実在するものではない。ただ、人々の概念によってその姿形や、在り方が決まると言っても過言ではない《神》と呼ばれる者達の住まう場所は、総じて天界と呼ばれている。


 では、実在しない物は誰が作ったのか?


 その謎は、結局の所誰にも分かり得ない。

 そう、人々から神と呼ばれる者達をしても。


 天界は多くの神が住み、地上に生きる庇護下の者達の祈りを受けながら、恩恵や、はたまた試練というものを与えている。

 だが神と言えど、ただ創造主の定めた(めい)によってそれらを与えているわけではない。

 自らで考え、時には創造主の命に背く事もある。

 だが、創造主に歯向かえばどうなるか。それを知らない者は、神の中でも誰もいない。




──天界・アースラの間



「アースラ様! もう結界がもちません!!」

「結界の限界値、残り3000!」

「駄目です! このままでは、一分後に破られます!!」

「一分もあれば上等です。死守なさい」


 こめかみに血管を浮き出しながら、顔を真っ赤にして扉を押さえる数十人の者達。

 彼らは自分達の主に仕える為に輪廻の輪から外れた者、所謂《天使》と呼ばれる存在である。とは言っても、人々の創造で語られるような、背中に羽根があり、裸に布だけを纏っている様な姿ではない。

 それぞれが生前の姿をしており、種族は違えど皆一様に獣人である。


 そんな天使達が騒然とする大広間の中で、その最奥にある豪奢な椅子に座る美しき神・アースラは、じっと眼前にある水鏡(すいきょう)を見つめる。

 そこに映っているのは、ボロボロになりながらも自分自身に打ち克った一人の青年の姿があった。


「よくぞ、頑張りましたね。此度の(はは)様の試練は、恐らく歴史上を見ても最難関レベルだったでしょう。いえ……」


 口を閉ざしたアースラの目に移るのは、()()()()()が先程の青年と対峙する光景だった。


「母様は、それほどまでの試練をお与えになられるのですね……それほどまでに、アレは……」


 その時だった。

 数十人の天使が一斉に吹き飛ばされ、侵入者を拒んでいた扉と結界が一瞬で砂へと変わる。

 それと同時に、アースラは目の前の水鏡をただの水へと戻し、グラスに注いで飲み干した。


「これはこれは。些か物騒ではございませんか? ()()()()

「かかか! 創造主か。確かに、ワシがお前を産み出したはずだがのう……じゃが、どうにも違和感がある。さて、話を聞かせて貰おうかのう」


 ゆっくりとした歩調で絨毯の上を歩く一人の幼女。

 この世界の唯一にして真の神。

 創造主・エンダーである。


「話、でございますか? さて……私の事であれば、あなた様なら私自身以上に知っておられるはずですが」

「白々しいわ。お主が獣人に与えたというレガリア。あれは、なんじゃ」

「レガリアでしたら、ただの神器の劣化版ですわ。獣人達を束ねる王が戴く冠の様な物で、王が望むモノを叶える願望器でございます。あの程度の物でしたら、他の神々も所持しておられるではありませんか」


 事実、レガリアの様な願望器は、自分を信奉する者へ与える最大の御褒美として、神々の中でも持つ者は少なくない。

 願望器自身の願いを叶える力の強さは神の力の強さと言っても良く、己の力を示すのに願望器で競いあう事もある。


「……あくまでも、しらを切り通すつもりか。ふんッ」

「え、ちょっ……あっ」


 エンダーが近くに倒れ伏していた天使を睨みつけると、勝手に天使の体が空中に持ち上がり、一瞬。

 まさに一瞬の内に、内部から膨れ上がってそのまま弾け飛んだ。

 それは例えば、風船の様にジワジワと膨らんで、最後に耐えきれなくなって弾けたとかではなく。

 ページが落丁した漫画の様に、一瞬の後に結果だけが残ったのだ。

 

「喋らぬとあれば、お主の大事なモノを奪ってやろうではないか」

「お、お止めください!」

「止めぬ」


 次々と弾け飛ぶ天使達。

 苦悶の表情を浮かべることも、恐怖の叫びもあげる暇もなく、ただただパソコンで空フォルダを削除するかの様なスピードで消されていく。


「お止めください!!」

「話さぬと言うのであれば、止めぬ」

「私はどうなっても構いません! ですから、我が子達はどうかッ!!」

「では、話せ。レガリアとは、何だ。そして、知っておるのだろう?」


 エンダーは確信にも似た表情で口角をあげる。

 その姿はとある青年の()()で可愛らしい幼女の姿をしているが、その程度で内に秘めたる狂気を隠すことは出来ない。



「あの忌々しい女神……アルテミシアの行方を」




──レガリアの間・ヒロ



 最後はもはや我武者羅だった。

 これで駄目なら、もう無理だと思った最後の頭突き。

 抵抗の為に思いっきり握られた俺の腕は、両方ともパンパンに膨れ上がっていた。恐らく折れているのだろう。

 だが、それでも離すわけにはいかなかった。あそこで離せば、恐らく俺の心は折れてしまうという確信があったからだ。


『俺の、敗けだ』

「あぁ。俺の勝ちだ」


 二人して真っ白な部屋で仰向けに寝そべる。

 不思議なことに痛みはもう感じない。恐らく、怪我や痛みすらも試練が作った幻だということだろう。


「こんな幻まみれの世界で生きるなんて、今考えたらぞっとするわ」

『同感だな。お前が勝ってくれて良かったよ』

「…………なぁ、もしかして」

『それ以上は聞くのは野暮だぜ。聞かれたくないのは、俺であるお前にも分かるだろう?』


 そう言ってお互い、声も無く笑った。

 多分、そういうことだろう。

 それが、俺であり、お前である俺たちの願い。

 その答えは、最初から決まっていたのだ。


『さぁて、じゃあ……そろそろ消えるわ。達者でな』

「おう。お前も元気でな」

『負けるんじゃねぇぞ』


 ニヤリと笑ったもう一人の俺は、そのままスッと影も残さずに消えてしまった。

 まるで最初からそこには居なかったように。


「さてと……おーい! レガリアさんよう! 終わったみてぇだぞ! ここから出してくれー」


 バッと立ち上がって天に向かって叫ぶと、上から三人の人影が降りてきた。

 その内の二人はグラキエール夫妻だったので見覚えはあったが、残りの一人は初めて会う人だった。

 真っ白なショートカットに、何処か眠たげな眼をしており、色とりどりの布で作られたマントは元の世界でいう《パッチワーク》を思わせるものだ。

 そして、どうやら彼女は女の子の様だ。ろり神様よりも少し背が高いお陰か、胸部装甲が微かにマントの内側から自己主張をしている。


「……グラキエール。これはいったいどういう事なの?」

「はは、それは私が聞きたいね! なんで君はそんな少女の姿になってしまったんだい? ははは!」


 よく分からないが、グラキエールさんは愉快愉快と笑っている。笑う骨ってシュールだな。


「多分、この人が私たちをそうしてるんだと思う……でも、凄い事。こんな立場になっても、私たちは管理者である事は変わらない。その管理者に干渉する力が、この人にはある……」


 眠たげな眼を少しだけ見開きながら、少女は俺の事をじっと見つめてくる。

 なんだ? そんなに見つめられると流石にちょっと恥ずかしくなってきちゃう。

 はっ!? まさか……!


「おいおい、そんな眼をしても駄目だぜ。俺にはもう心に決めた人がいるんだ……おっと、失礼。ご両親の前でする話じゃない」

「ははは! いいよ。結局、私たちはこれ以上アンナにしてあげられる事はないからね」

「あぁ、そう言えば、それ! それですよ。グラキエールさん達は、アンナに会いたくないんですか?」


 死んだご両親と娘を対面をさせると聞くと、何かマフィアの報復のようにも聞こえるがそんなことはない。

 まぁ多少ショッキングな映像にはなるとは思うけど、実の両親と再会できるのであれば、アンナも理解を示してくれそうな気がする。多分。

 俺としては折角グラキエールさん達が無事?に生きている?のだから、会わせてあげたい。


「ふふ、ありがとう……でも、それは無理なんだ」

「無理? どうして」

「それはね……」


 一瞬、グラキエールさんの声が寂しげに聞こえた気がした。

 しかし、それは直ぐにどうでも良くなった。何故なら……。


「さぁ、試練を終わらせよう。最後の試練は、私たちとの戦いだ」


 グラキエールさんから、濃密な殺気が立ち上ったからだった。

明日も更新します!

今から書きます!!!!!

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